製薬会社

途中経過を省略してお送りしています_レポート_錦麗奈18歳

市役所から届いた書類を見て、麗奈は首を傾げた。

何か忘れていた手続きがあったかな。

高校を卒業し、志望大学に合格した麗奈は念願の一人暮らしを始めることに成功していた。親元を離れ、地元を離れ、誰も自分を知らない世界で、新しくスタートするために。
東北地方の自然豊かな大学を志望大として選んだときはまわりから、不思議な目で見られ、反対されもしたが、麗奈は頑として譲らなかった。勉強だけに集中した。周りが遊んでいても、もう気にすることはなかった。もともと不器用な麗奈は勉強で苦労はしたが、助けてくれる人がいた。あの時の保健室の先生。
生理がきて、動揺していた時に助けてくれた。次の日に教室に行くと「生理女」「おもらし女」などと心ない言葉を浴びせられた。逃げ場所として保健室を利用するようになった。それから少しずつほかの保健室登校の子たちと仲良くなっていった。強くなるために部活にも入った。剣道部。そこで新しい部活のチームメイトとも出会った。
地元の高校に進学してからも中学の時の保健室には何度も遊びに行った。あの時の保健室の先生が優しく迎えてくれた。

そして、今ー。

学生用の安いアパートだが、自分の城を手に入れたみたいで心が躍った。窓から太陽の光が差し込んでくる。陽だまりに行くとぽかぽかと包まれて温かかった。口角が上がりにやにやが止まらなくなりうれしくて、綺麗に掃除されたフローリングの床で喜びの踊りをしてたら、隣からどんどんと壁を叩かれた。これがうわさの壁ドンってやつか。ひとりで笑った。ごろごろ床を転がって笑った。トイレのドアやクローゼット、冷蔵庫の扉を開け示してわらった。何もかもうまくいくような気がした。
大学の入学式の2週間前から引っ越しの準備を行い、つつがなく済ませた。明後日には入学式を控え、知らずに胸が高鳴るのが分かった。

郵便受けには1週間ほどたまっている郵便物があった。
引っ越したばかりでばたばたして郵便受けを整理していなかったのだ。

麗奈はその中に見慣れない市役所の封筒を手に取って透かして見た。中には2枚ほどの書類が入っているようで、透かしても内容が分からない。転居届のお願い?水道料金?市民税?いろいろ考えてみたが、わからない。面倒だがこういう書類をためてしまうと後で後悔することになるから手続き関係なら早めにしておいたほうがいいだろう。
水色の取っ手がついたはさみで慎重に封筒の上のほうを切る。

出てきた書類を見て最初はなんだかわからなかった。

そして、文字を読み返して。

また、今度は慎重になぞるように文字を読み返し。

はらり。
手からその紙が滑り落ちて、フローリングの床にぱさっと落ちる。花弁が散るときのように静かに。

「D-528の接種対象者決定通知書(通知)

日頃より行政活動に対してご理解とご協力いただきありがとうございます。さて、本日上記のことについて広域管理委員会より決定の判断がおりましたのでお知らせいたします。
下記にあります日時にて職員がご自宅にお伺いさせていただき、接種を執り行いますのでよろしくお願いします。」

今日は何日何曜日?
スマホを確認すると3月29日。時刻は13時50分。
書類に書いていた日時をもう一度見る。

20××年3月29日 14時

あと10分でD-528の接種を行う職員がこの家にやってくる。

なんで、

もう4年もたったはずだ。
却下されたと思い込んでいた。
今まで何の通知もなかったのだ。

なんで、

なんで今になって。

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しゃっぽ

イラスト、小説、漫画様々書いてます。腐ってるので、同性愛が苦手な方は注意してください。 オリジナルを載せていきます。もしよかったらネタを下されば何でも書かせていただきます。 よろしくお願いします。続き物でも続きとか考えてもらえれば書きますのでよろしくお願いします。

佐々木製薬会社の提供でお送りしております。

20××年。場所は日本。佐々木製薬会社が高齢化に伴う生産性の低下を防ぐ目的で開発した薬により、社会構造は大幅に変化した。薬を投与された一人の少女とその顛末をレポート形式で紹介していく。
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