チャネリング4

夜寝る前に見た動画のせいであろうか。

純はオカルトや宇宙人は信じていないが、怖い話は好きだ。

仕事が終わって家に帰り、のんびりと動画サイトで様々な動画を検索するときに、よく探してしまうのが、怖い話。

幽霊でもシリアルキラーでも宇宙人でも、古代の風習でも何でもいい。

もしかしたらあるかもしれないと思えるくらいの現実味のある話。そういうものを見るとこのつまらない世界の中でももしかしたら、不思議なことが起こりうるのかもしれないと期待できるからだ。

時計が午後21時を指す。

ベッドに横になりながらアイスをなめる。
上品ではないが女の一人暮らし。誰も咎めるものはいない。

片手でなれたようにスマホをいじり、流れる映像をぼんやりと眺める。

動画のリンクからさらに別の動画へ。勝手に再生していく映像を眺めながら、頭では別のことを考えていた。

あの男は存在するのだろうか。

夢の中の出来事だけであったら、そんなバカげたこと考えなかった。しかし、男は今日、横断歩道に現れた。

それも夢だとしたら、一種の夢遊病か。それとも日々のストレスに耐えかねてついに精神病を発症したかもしれない。

ストレスの原因が様々頭に浮かぶ。
10時過ぎまで残業しても終わらない仕事。人から何かを搾取することしか考えない客、大声で怒鳴り散らす職員。被害者づらして責任やミスを押し付ける同僚。

とんでもないところだ。
しかし、これまで転々としてきた職場も似たり寄ったり、というよりこれよりも悪かった。
結局どこに行っても同じ。
世界はどこまでも同じ地獄が続き、明日は必ず来る。終わりがない、永遠。

死ねば終わるのかもしれない。でも、もし先にも同じ地獄が続くのなら。

変わらない変わらない。

少しだけでいいから逃げさせてくれないかな。

できるならこの寝るまでの2時間ちょっとの時間が24時間でも、36日でも10年でも永遠に続いてくれたらいいのに。

棒状のアイスを口に入れると口の中で少しほおばり、かみ砕いた。その低温が痛みとなって歯茎にしみる。
涙目になりながらアイスを咀嚼する。そのまま大きな塊を残したまま飲み込んだ。

片手にスマホを持ったままアイスの棒をゴミ箱に捨てると、先ほど流れていた動画がいつの間にか別の動画に切り替わっていることに気づいた。


黒い画面がだんだんと明るくなっていく。

チャネリング動画。
この動画は宇宙とつながるための高次元に向かう手助けをします。

かろうじて女性の声だと判別できるくらいの電子音でアナウンスが流れてきた。

手のひらサイズの画面には宇宙が広がっている。


嘘くさい。

そう思うとすぐに見る価値のない動画だと判断する。
早くそんな動画閉じて現実逃避できるようなスカッとする映画でも見よう。

親指でスマホの液晶画面、下方、戻るのボタンをタッチしようとした。

その時だった。


突然、周りの音が遠くなる。

周りの景色が変わったわけではない。変わらない自分の部屋とスマホをもってベッドに横たわっている自分がいる。

ただ耳と外界とを隔てる薄い膜ができたようだ。それは新幹線に乗った時に起こる耳が詰まったような感覚と似ている。
しかしその膜は、耳だけではなく全身に広がっていく。

まるで水中に放り出されたように体の感覚が軽くなる。自分の体が自分のものではなくなっていくようだった。

生まれてから今まで本能に刻まれて無意識にできていた生きるための動作がわからなくなっていく。

手足の先から伸びている末端神経から感覚が遠くなっていく。
体の末端から徐々に体の中心、つまり心臓に向かって広がっていく。

体の感覚がなくなっていくのと逆に、頭のほうは霧が晴れたようにクリアになっていくのが分かった。


呼吸の仕方さえわからなくなる。

息が吸えず苦しいのはほんの一瞬のことだった。周りの空間が目には見えない透明の水のようなもので満たされていく。
今までの人生の逆行をしているかのような感覚だった。

25年の生きてきた段階を前に前にとさかのぼっていく。
大人になり会社に雇われ、仕事をして、家に帰って寝て、食べて仕事に行くを繰り返す日々。
大学でほかの人と関わらないまま図書館で誰かから隠れるように勉強する日々。
高校で友達ができて、将来について悩んだり今までよりも大人になって親も干渉しなくなって少しだけ自由になった日々。
いじめられ続けた中学時代。クラスメイトからは無視され、プリントを受け取るときに手が触れることすらも嫌がらた。声を発することも億劫になるくらい自信がなくなっていた。それでも誰にも言わずに本だけ読んで一人でやり過ごしていた日々。
何が正しいのか正しくないのかわからないまま、怒られて大人たちにルールを植え付けられて、勉強して、狭い監獄で生活していた日々。
初めて家族以外の人間がたくさんいる場所にほおりだされ、恐怖で身がすくんだ。訳が分からないまま決まった時間に起こされ、決まった時間に外で遊び、ご飯を食べ、家に帰る。でも一人遊びだけじゃない遊びが楽しかった。みんながうれしいと嬉しかった。

一つ一つが鮮明に思い出されていく。
忘れていたはずの体験が、気持ちが滝のように押し寄せて気づけば頬を涙が伝っていた。

最後に見たのはどこまでも広がる光の海だった。朝の光の中にいるような暖かな光の中で誰かに抱かれているような。

懐かしくて帰りたくて、優しい記憶だった。

※※※


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しゃっぽ

イラスト、小説、漫画様々書いてます。腐ってるので、同性愛が苦手な方は注意してください。 オリジナルを載せていきます。もしよかったらネタを下されば何でも書かせていただきます。 よろしくお願いします。続き物でも続きとか考えてもらえれば書きますのでよろしくお願いします。

№432とちゃねりんぐ

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