見出し画像

「学び」から組織をゆるやかに変えていく。医療機関における新卒研修の振り返り

3か月間の新卒研修の集大成として、6月12日に新卒研修最終プレゼン発表会を行った。テーマは「新卒目線から考えるクレドを実践するため(病院がもっと良くなるため)にできること」

緊張しながらも、新卒の3人が職員の前で、とても素敵なプレゼンテーションをしてくれた(もちろんソーシャルディスタンスを保ちながら)。

新卒目線からの素朴な疑問とアイデアが組織にとてもいい風を与えてくれたと思う。

3月から研修プログラムの設計を担当してきた自分にとっては、何とも言えない時間だった。自分自身に非常に学びが多かったので、「医療機関の新卒研修」についてしっかりと記録しておこうと思う。

画像8


療養病院(78床)の新卒研修プログラム


僕が務めるまちだ丘の上病院では、新卒の受け入れ定員は少なく、多くても毎年2~3人程度だ。新卒が来ない年もある。この規模の療養型病院で新卒を受け入れているほうがむしろ珍しいのかもしれない。

新卒研修プログラムは今まではなく、基本的に入職後数日のオリエンテーションの後に、現場配属のOJTメインだったと聞く。

僕は3月から非常勤で病院に関わり、4月から常勤になった。3月の時点で相談されていたいくつかのプロジェクトの一つが4月から始まる新卒研修だ。

数ある病院の中から就職先として選んでくれた新卒の子たちにしっかりとした新卒研修プログラムを提供したい。自分自身、ハイズ時代に多くの人材案件を担当せてもらったので、その学びを生かせるいい機会だと思った。


まずは、経営幹部層で新人研修の方針を定め、3か月間のタイムラインを引き、現場スタッフと予定の調整をした。その後、スケジュールに合わせてカリキュラムを作成した。

幸いにして、前職で研修講師は多くしていたので、研修コンテンツには困らなかった。4月は週2回半日、5月は週1回半日、6月は月1回半日の新卒研修プログラムだ。

画像6


研修設計の落とし穴


自分が新卒に伝えたいことを詰め込んだので、なかなか充実したカリキュラムができ上がったと思った。経営会議でも、新卒研修の骨子に関して、概ね合意が得られた。

一度、院外の人に見てもらい、フィードバックをもらおうという話になり、病院の理事を務めていただいている大曽根さん(組織開発のスペシャリスト)に新卒研修の設計を見てもらった。

一言目にこんなコメントをいただいた。

これは胸やけしそうなプログラムだね


続けて、フィードバックをもらった。

新卒の子たちは入職したての頃は、どんな気持ちなんだろうね。


はっとした。

とても大切なことを恥ずかしいくらいに忘れていた。

研修を作る際は、「参加者がどういう気持ちで参加してくれるか」を考え、研修思想を設計し、そこからカリキュラムを作るのが基本だ。

言い訳ではないが、自分自身が第3者として研修を作成する際は、この思想をとても大事にしている。

ただ、自組織となれば別。教えてあげたい欲が先行し、自分のエゴ丸出しの研修プログラムを作ってしまった。

明らかに詰め込みすぎだ。

なんで気づかなかったんだろう。
意気揚々としていた自分が急に恥ずかしくなった。

ここから1から、新卒研修を練り直した。


学びよりも不安の解消

とりあえず、新卒の気持ちを知ろうと思った。ただ、僕が新卒の子たちの気持ちを思い出すには、少し遠い記憶なので、病院に4年前に新卒で入職をしたスタッフに話を聞いてみた。

環境が変化する不安が5割、早く即戦略にならなきゃという焦りが3割、ワクワク感が2割ですかね。

とても的確な意見だ。

確かに、働くことへの期待よりも環境適応への不安の方が大きいに決まっている。

であれば、新卒研修プログラムは「学び」の前に、不安な気持ちを解消する場にしてあげたい。そう決めてから、研修設計の方向性を大きく変えた。

200612 新卒研修最終プレゼン発表会

200612 新卒研修最終プレゼン発表会2


入職したての不安の中で、研修の場は週に1~2回は同期と語らう癒しの場所になればいい。まずは精神面に配慮したい。学びはその後でいい。

リラックスをしてもらうにはどうすればいいだろう。毎回の研修の初めは、他愛もない雑談から始めてみる。チェックインとチェックアウトの時間を多く設け、彼・彼女らの興味関心を聞いた。

そう考えると、研修プログラムも別に自分だけで作る必要性はない気がしてきた。一緒にグループワークをして、一緒に研修設計を考えていけばいい。

初回の研修に下記のようなグループワークを行った。

200612 新卒研修最終プレゼン発表会3

・医療・介護だけの知識だけじゃなくて、一般常識も知りたい
・タイムマネジメントの仕方を知りたい
・プレゼンができるようなりたい

「○○したい」、「○○できるようになりたい」の多くの声をもらった。

これを形にしていけば、いい新卒研修になりそうだ。
僕は何を一人で抱え込んでいたんだろう。


新卒の声と最低限教えてあげたい内容を組み込むと下記のような研修プログラムになった。最終的な研修カリキュラムは、最初に想像していたものよりも、少しスリムになった。

200612 新卒研修最終プレゼン発表会4

画像6

研修の中心に振り返りがある。振り返りの時間を意識的に多くとった。

現場での気がかりに思ったことを、お互いに話し、その課題について深ぼる。新卒で感じた違和感をそのままにしない。何よりも同期と振り返るこの時間が貴重だと僕は思う。


最終プレゼン発表会


1か月が過ぎると、業務にも少し慣れ、表情がやや軽くなる。研修の場は以前として、にぎやかだ。何をしているんだろうと、時折スタッフが会議室に顔をのぞかせることもしばしばだ。

このころ、研修の最終日をどう終えるか自分自身が悩んでいたので、僕の方から提案をしてみた。

新卒研修の最終日にプレゼン発表会してみない?


成長にはちょっとした刺激が必要だ。その刺激の量が強すぎても、弱すぎてもよくない。程よい緊張感が必要だ。

この提案が新卒にとって、強すぎるのか弱すぎるのかは僕にはよくわからない。ただ、これまでの研修を経て、ある程度の信頼関係は築けていたので、特段迷うことなく、提案ができた。

「どうせするなら院内の色々な職種の人にプレゼンを聞いてもらいたい」


新卒の子たちはとても前向きに返してくれた。プレゼンが終わった後の祝勝会を約束し、その日から5月の中旬からプレゼン発表会の準備に取り掛かった。

そして、冒頭の新卒研修のプレゼン発表会が6月12日に行われた。
発表時間は5分。質疑応答が10分。あえて、質疑応答の時間を長くした。

200612 新卒研修最終プレゼン発表会5


質疑応答の時間では、院内スタッフからも称賛と肯定的な意見交換が飛び交う。それぐらいに新卒の子たちの発表は素晴らしい発表ばかりだった。

本当にお疲れ様。最高かよ。

画像7


医療機関における新卒研修の在り方


今回の新卒研修の設計が最善かと問われるとそうではないと思う。
ブラッシュアップする点も多い。

ただ、新卒の研修期間の間に”誰一人不幸なやめ方をしなかったこと”を思うと、僕はそれだけでお腹がいっぱいだ。

そして、今回の新卒のプレゼン発表の効果は、新卒の成長だけじゃない。
むしろ、既存の職員への影響が大きい。

組織には「やったほうがいいことは頭ではわかっているけど、何らかの事情でできないこと」が多い。

それは人員不足であったり、組織内のコミュニケーションであったり。
そこにはできない、なんらかの言い訳が存在する。

ただ、新卒の子たちの素朴な疑問と問いかけはそういう”最もらしい言い訳”を打破してくれる。

新卒のフレッシュな視点からの問いかけで、皆で「できていないこと」と向き合うことができる。何よりこの時間が貴重だ。平時では、できていないことと向き合うのは難しいから。

組織を少しずつ前に進めるには、程よい刺激の連続が必要だと思う。
刺激がないと慢性化する。

一方で、あまりに大きな刺激は組織を混乱させる(もちろん時にはその様な大きい刺激も必要だけど)

だから刺激の”程よさ”のバランスがとても重要だ。

その観点から、”学び”は程よさがとてもちょうどいい。
彼らのプレゼンは結果として、組織全体にとても影響を与えてくれた。

学びの観点から、組織に少しずつを刺激を与えるのが、人事の大切な役割の一つだと僕は思う。学びを楽しめるそんな組織にしていきたい。

そして、大切なことと向き合う時間をくれた新卒に何より感謝したい。

(ばいばい)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?