400年生きるのは「ニシオンデンザメ」であり、「サメ」ではない。サメ好きは「人食いザメ」と同じ愚を犯してはならない。

ダイオウグソクムシをはじめとする深海ブームやシャークジャーナリスト沼口麻子さんの活躍などで、海洋生物の魅力や面白さが世の中で注目されつつある。

これ自体は僕にとって嬉しいことである。人間と自然とのかかわりについて考え発信するものとしては、どこぞの芸能人が誰にセクハラしたのかより、一見グロテスク、だがしかし面白く、そして可愛い海の生き物が話題になる方が気持ちがいい。

しかし、僕は生き物好きが発信する情報は、一般の人が誤解しないように注意する必要があると思う。

例えば、ニシオンデンザメ。冷たい海や深海に生息するこのサメは、眼球の放射性炭素を測定した研究で、250~400歳ほど生きるのではないかとされ、非サメ好きの間でもかなり話題になった。

こうなるとSNSで拡散されたり「NEVARまとめ」とか「Yahoo知恵袋」にもこの話題が出てくる。大いに結構。

だけど、ときたま気になる投稿を見る。こんな感じだ。

「サメはなんと400年生きる!?」
「深海ザメは江戸時代から生きていた!」

僕は何も、調査されたニシオンデンザメの推定寿命が392歳だから厳密には400歳ではないとか、そういう話がしたいのではない。ニシオンデンザメは冷たい海なら浅い場所にもいるので「深海ザメ」なのか微妙だけど、そこもひとまず置く。

僕が気になるには「サメ」、「深海ザメ」とひとまとめにしてしまっている点だ。

「ジンベエザメからツラナガコビトザメまで」というのはサメ好きにはお馴染みのフレーズだろうけど、サメには約500種類以上、多種多様な仲間がいる。サメの寿命も20年前後から70歳以上と幅広く、そもそも正確には分かっていないことの方が多い。それなのに、色々な種類がいるサメたちを「サメ」と一括りにまとめると、大いなる誤解が生まれるかもしれない。そのもっとも悪名高い実例が「人食いザメ」という幻想である。

もちろん、人を食べたことがあるサメや、危険なサメは確かにいる。しかしそれは、「数ある猫の中でもライオンやトラは危ないので気を付けてね」というのと同じ話。ロシアンブルーやマンチカンに八つ裂きにされる心配もないし、状況によってはライオンやトラとも一緒の空間で過ごせる。同じように、ネコザメやドチザメが僕らをディナーに選ぶことはないし、十分に気を付ければホホジロザメとも泳ぐことができる。

ニシオンデンザメについて発信する人に悪気はないのだろうけど「サメは400年生きる」というフレーズが独り歩きして、変な誤解が世の中に浸透してしまうかもしれないし、「サメ」でくくられてしまうと、サメの多様性に目がいかなくなってしまう。それはサメの研究、保護、魅力の発信、どれにとってもいい影響ではないと思う。

だからサメについて発信する人、特にサメ愛のある方には気を付けて欲しい。僕も気を付けるから。