ストーリーがあるか、ないか
鎌倉の、小町通りから少し入ったところにその焼き物屋はあった。こじんまりとしていて、静かな。涼しい風の入ってくる店だった。
「いらっしゃいませ」と、ちいさなおばあちゃんがにこやかに迎えてくれた。
「若いのに、焼き物がお好きなの?」
「いえ、そういうわけではないんですけど。外は暑いし、ガヤガヤしてるしで、疲れちゃって。休憩がてら……って言ったら失礼ですよね、すみません。」
「ふふふ、いいんですよ。そこの通りはいつもにぎやかでね。ちょっと疲れちゃうわよねえ。ごゆっくりどうぞ。」
お言葉に甘えてゆっくりと店内を歩いていると、説明書きも値札もない、ひとつの白いカップが目にとまった。塗装が剥げている部分がある。
「これって……」と声をかけると、おばあちゃんがちょこちょこと近づいてきた。
「ああ、夫が作ったものなんですよ。不器用な人でね。ちょっといびつでしょう?使うには支障ないと思うんだけれど。」
「旦那さんが。そうなんですか。そういうお仕事を?」
「ううん、趣味で。でも、かわいいから置いちゃってるのよ、お店に。」
「たしかに、すごくかわいいです。このやわらかい白。」
「これはね、素焼きの後にうわぐすりっていうのをかけて、もう一回焼くと付くんですよ。あの人、かたちをつくるのが下手なら塗るのも下手で。ほら、このへん。少し地の色が見えてしまっているでしょう。」
そう言いながら、おばあちゃんはとても優しく笑っていた。
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