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風刺画から見る中東情勢 #6

スーダンの春?① 〜アル=バシール大統領の失脚〜

2019年4月のアル=バシール大統領の失脚から、2019年8月現在に至るまでの経緯を風刺画や動画を参考に、振り返って見ようと思います。

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参照元リンク1:Al-Araby Al-Jadeed

『スーダン』と名付けられたこの風刺画は、アル=バシール大統領が失脚する直前の2018年12月に描かれたものです。風刺画下には「スーダン(السودان)」という文字がありますが、その姿はボロボロで、そんな崩壊してしまった「スーダン」の文字の瓦礫の下敷きとなって助けを求めています。そんな「スーダン」の上に立っているのこそが、アル=バシール大統領です。「杖、サングラス、分厚い唇、軍服」が彼のトレードマークであり、よく風刺画ではそれらが強調して描かれます。

昨日の記事でも書きましたが、彼は30年間政権の座についていた独裁者であり、またダルフール紛争での大量虐殺に関与していた疑いが持たれています。また彼の政権下では不正が横行し、スーダンの経済は長年不況で、民衆の間には彼に対する不満が高まっていました。

そしてついに2018年12月からアル=バシール政権に対するデモが始まりました。

政権に対して民衆の間では様々なスローガンが叫ばれました。2011年アラブの春のときも打倒独裁政権のスローガンとして使われた「民衆は政権の崩壊を望んでいる!(الشعب يريد إسقاط النظام)」というものも今回のスーダンでも使われました。しかし、スーダンで使われたスローガンの中でもっとも有名なのは「ただ落ちろ!(تسقط بس)」でしょう。アラビア語の読み方は「タスクトゥ・バス」です。「ただお前(大統領)が落ちろ」ということです。また、このスローガンをもとに作られた楽曲もあります。

レゲエっぽい音楽に、アラビア語と英語を絡めていて一見オシャレな音楽になっておりますが、デモ中のリアルな動画を挟むことである種の緊張感もあり、「ただ落ちろ!(タスクトゥ・バス)」というのが現場のリアルな訴えであるのだと気付かされます。

こちらはラップです。やはりラップと反体制というのは相性がいいのでしょうか。個人的な感想ですが、正直、どちらの楽曲も音楽としてカッコいいように感じられます。

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参照元リンク2:Al-Araby Al-Jadeed)

音楽はクールでカッコよかったですが、デモが起こっている現場の状況は悲惨なものでありました。民衆は平和的なデモ活動を行っていましたが、アル=バシール大統領は、それらのデモに対して武力で対抗しました。

上の風刺画がそれを表したものです。その際、アル=バシール大統領が参考に読んでいるのは「エジプトのシナリオ」です。2011年アラブの春の際、エジプトでも民衆のデモと政権の間で衝突が起き、政権は武力を持ってデモを封じました。エジプトではムバラク政権が崩壊し、その後ムルシー大統領が政権につきましたが、結局すぐにシーシー大統領の軍事政権に戻りました。アラブの春の動乱を経て、エジプトがシーシー政権になって喜んでいるのは、サウジアラビアとUAEかもしれません。「エジプトのシナリオ」は一体誰が書いたのでしょう。よく見ると風刺画の右端には、サウジアラビアの国章のシンボルであるナツメヤシの木に似たものが立っていませんか?

アル=バシール大統領は、何もよく分からぬまま、ただ「エジプトのシナリオ」に従うのみです。これで一体誰が得をしているのか?、政治の動乱に紛れて誰かが自分達に都合のいい政権を樹立させようとしているのではない?それはサウジアラビアではないのか? などということをこのカタールの風刺画は言わんとしていると考えられないでしょうか。 

このような、民衆と政権の対立を経て、最終的に軍が政権に反旗を翻し、軍によるクーデターという形で、アル=バシール大統領は失脚しました。

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参照元リンク:Al-Araby Al-Jadeed

とはいえ、すぐに民衆に平和が訪れる訳ではありません。

次は、民衆と軍の戦いになるのです。

それでは、また次回!

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