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及川光博のワンマンショーという強烈体験

普段、ライブに行ったからといってここにいちいち感想を書いたりはあまりしないのだが、これは書き残しておいた方がよいのではないか。そう思わずにいられなかったのが、初めて行った及川光博のワンマンショーだった。参加したのは6月3日のJ:COMホール八王子公演なのだが、本日開催のツアーファイナルに合わせて備忘録をアップしたいと思う。

まずはグッズ事情から。レキシだと稲穂、SOPHIAだとヒマワリといった具合にライブには定番のアイテムがあるものだが、ミッチーもその例外ではなく、タンバリンやポンポンといったアイテムが用意されていた。まあ初見だし、と思って特に購入せずホールに入ったのだが、フロアを見渡して驚いた。

グッズの所持率が異様に高い。ファン層は大方の予想通り大半が女性(以下ベイベー)で、僅かながら男性(以下男子諸君)もいたのだが、彼女達が準備しているグッズは、今回のツアーのテーマカラーであろう黄色で統一されていた。つまり一度買って毎回同じ物を使い回すのではなく、皆ツアー毎に購入しているのだろう。これだけでもライブへの情熱が感じられるし、逆に持っていない人は手持ち無沙汰に感じてしまうほどだ。

ステージには今時のホールツアーにしては珍しいほど凝ったセットが組まれ、そこにホーンズやコーラスを従えた大所帯編成でミッチーが登場。ライブは2部構成で、今回は特にレコ発ツアーではないためか、オールタイム選曲のセットリストが用意された。

筆者のような初心者男子諸君にとって障壁となるのが、振付の存在である。ステージにはミッチーの他にも時折2名のダンサーが現れるほか、コーラスのまなみんも踊りながらパフォーマンスする。フロアのベイベーは本当に百戦錬磨といった言葉が似合うほど、振付がまあよく揃っていてちょっと笑ってしまうほどだった。これまで色々なライブを観てきたつもりだが、一体感という点では5本の指に入ると思う。特に振付を予習していない身としては現場でそれを追うのに必死で、ミッチーよりもダンサーや振付が完璧なベイベーに目がいく事も多々あった。別にライブなのだから振付など無視して自由に楽しんでもいいはずなのだが、どういうわけかひとたびあの空間に入ると傍観者ではいられなくなってしまう、謎の魔力がある。

MCも凄まじい。ツアータイトルの「踊って!シャングリラ」をもじって、客席を5つのエリアに分けて呼ぶ事にしたミッチーは、3階席を「シャングリラ」、2階を「シャンデリア」、1階後方を「シンデレラ」、1階真ん中を「サイゼリヤ」、1階前方を「エビドリア」と命名。そして3階に「シャングリラですか?」と聞くと、綺麗に揃った「シャングリラでーす!」の声が返ってくる。次のブロックに入る前には「オッケーですか!」と聞くと、フロア全体から「オッケーでーす!」の声が。この文章でどれだけ伝わるかわからないが、令和に『笑っていいとも!』の観覧にでも来ているのかと思ってしまった。テレビ番組の公開収録レベルの揃い方なのである。本来なら拍手の練習から始めないといけないぐらいだが、百戦錬磨のベイベー&男子諸君にはそんな必要はない。本当によく教育された観客達である。

かと思えば、休憩明けのコーナー「愛と哲学の小部屋」では、「現状維持と現状打破、どちらがプラスになるか?」といったベイベー&男子諸君の人生相談に真摯に回答。この振り幅こそミッチーらしさであり、さり気なくドラマで共演した大物芸能人のエピソードが出てくるあたり、ミッチーもまた一流のスターなのだなあと忘れかけていた事実を思い出した。ファンタジーのようでいて時折顔を覗かせる人間味に魅了されている人は多いのだと思う。

ミッチーは音楽的にも幅広いジャンルを取り入れているのだが、中でも1つの核となっているのがファンクである。FUNKの名を冠したアルバムを2枚リリースしているほかファンクをテーマにした楽曲も複数存在し、ライブでもところどころにその要素が見受けられた。特に「Get Down To The Funk!!」なんていわゆるPファンクである。最近ではENDRECHERIがPファンクを取り入れてジャニーズファン以外からも一目置かれているが、ミッチーに関しては特にそのような評価の動きはない。またダンスを取り入れたパフォーマンスは岡村靖幸に通ずるところもあり、意外とそのあたりのファン層に見つかっていない気もする。一方で「Shinin' Star」や「バラ色の人生」のようなファンク~ディスコ系ラインの楽曲がわかりやすいキラーチューンとして機能してもいた。こちらもリリース自体はかなり前の曲だが現行シーンにおいて特に古びたサウンドではなく、トレンドに迎合しないブレのなさが功を奏していると感じた。

アンコールのラスト、噂には聞いていたが生で観てやはり衝撃だったのが、遠隔大会のコーナーである。今回は遠隔ボウリング、遠隔ハグ、遠隔真剣白刃取りの3種類。知らない人には何を言っているかさっぱり分からないと思うが、遠隔ボウリングとはミッチーがエアーでボウルを投げ、ピンとなった観客に当たった瞬間一斉に倒れるという団体芸である。遠隔ハグでは「今夜一晩でも俺の虜になれ」とエアーでハグをしたミッチーに観客は妙な声を漏らし、遠隔真剣白刃取りではミッチーがエアーで振り下ろした刀を、一斉に両手でパチンと受け止める。なんだこの空間…?としか言いようがないのだが、場内は実に多幸感に満ちていて、ベイベー&男子諸君は満足げに会場をあとにするのだ。

ミッチーの事はここ数年ずっと気になっていて、同時にモヤモヤもしていた。考えてみると、彼は非常に独特の立ち位置にいる。90年代に王子様キャラでお茶の間に衝撃を与え、音楽番組にも多数出演していたミッチー。その後次第に俳優としての仕事が増加し、今や俳優としての認知度の方が恐らく高くなっているだろう。今日に至るまで音楽活動も途切れる事なく続けているものの、メディアで"歌うミッチー"を見かける事はあまりなくなってしまった。

ミュージシャンとしてデビューした後に俳優としても認知されたという点では星野源や福山雅治などにも通ずるところはあるのだが、この2人に比べると国民的なヒット曲があるわけではない。またライブは基本的に単独公演しかなく、フェス出演などにより外部までその評判が届く機会もない。新譜をリリースしたところでこれといって音楽ファンの間で話題になるわけでもなく、そもそも「ファン以外がミッチーの音楽に触れる機会があまりない」のが現状である。90年代の強烈なキャラクターの印象が強く、音楽としてきちんと聴かれていない気もする。

そして考えてみると、28年もコンスタントに活動を続けるのは実に難しい。毎年開催されるワンマンショーは基本的にホールでの公演だが特に首都圏でのライブが多く、それだけでも合計1万人程度の動員はあると思われる。リピーターが多く、とにかくファンによる根強い支持があるのだ。では何故リピートするのか。それはミッチーのライブが明らかに他では替えの効かない空間だからである。カテゴライズやラベリングが困難であり、野暮だとすら感じる異質な体験。知らない世界がまだまだあるもんだな、と思わされる一夜だった。

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