それでも

私はできそこないだ。生まれた時から成長が遅く、学校に入っても勉強も運動もできなかった。やっとのことで高校に進学し、親の見栄で偏差値の低い大学に滑り込んでもいつも留年ギリギリの有様。バイトも面接で落とされるか受かってもすぐクビになり、そんなことだから就職もできなかった。それで仕方なく、パートを始めてはクビになり、また始めてはクビになり、安定した収入は得られず親のすねをかじっていた。

おまけに太っていて顔も不細工。皮膚炎で化粧もできず、いつも肌が荒れている。さらに病弱で、一ヶ月まるまる体調を崩さないことのほうが珍しい。

趣味も特技もない。というのも、なにをやらせてもうまくいかないからだ。

親は私をよく「できそこない」と言う。私が私の親でもそう言うだろうと思う。私にはいいところがひとつもない。

そんな私に降って沸いたいい話があった。

SNSで愚痴を吐き出した時、親身になって話を聞いてくれた男性がいた。その男性がある日、私に会いたいというのだ。できそこないの私にいつも優しい言葉をかけてくれるその男性に会いたいと言われれば、それは会いに行くだろう。

その男性は会ってみてもやはり優しく、あたたかい言葉をかけてくれた。私は嬉しくて、気付けばその男性のことが好きになっていた。「付き合おう」と言ったわけではなかったが、お互い自然とそういった関係になっていった。

そしてある日、信じられない言葉を受けた。

「結婚してほしい」

断る理由は私にはなかった。親も、「こんなできそこないをもらってくれるなんてありがたい」と言った。

こうして、私と彼は結婚した。世間知らずな私は結婚後の手続きがわからなかったが、彼が手伝ってくれた。私は実家暮らしをいいことに家事もできなかったが、大きな会社でそこそこのポストにいるにも関わらず、彼は家事もこなしてくれた。

私達には子供ができなかった。私ができそこないだから産めないのだろう。不妊治療をしたほうがいいかと聞くと、「君には僕がいるだろ」と彼は言った。

彼は私のどんなダメなところにも文句ひとつ言わなかった。それどころか結婚してまでなにもできない、こんなできそこないにとても優しくしてくれた。

そんな生活が幸いなことに長く続き、やがて父親が急な病気で亡くなり、心労で母親が倒れ、後を追うように亡くなった。親族と疎遠な上に一人っ子だった私には、彼の他に身寄りがなくなった。

深く落ち込む私を、彼は優しく支えてくれた。「君には僕がいるだろ」、そう言ってくれた。

今、私は手足と首を胴体から切り離され、彼の車で知らない土地の山奥に運ばれて埋められようとしている。私をバラバラにしながら彼は言った。「この日を待ってたんだ」と。「人を殺すのが夢だったんだ。君なら、死んでも誰も悲しまない。ありがとう」

身に余るほどの幸せな生涯だった。彼のためなら、私はどうなったって構わない。たとえ命を落としても。

彼がどうか、捕まりませんように。

いただいたサポートて甘い物を買ってきてモリモリ書きます。脳には糖分がいいらしいので。