見出し画像

アンティークコインの世界 〜収集ジャンルの決め方〜

基本的に集めたいもの、興味のある時代、デザインが直感的に気に入ったものを集めれば良いと思う。だが、一般的にコレクションには統一性があったほうが良いとされる。私はメインコレクションを古代ギリシア・ローマコインに置いている。サブコレクションは、ヴィクトリア朝イギリスと同時代に関わりがあった周辺諸国という感じだ。私の場合、拙書『アンティークコインマニアックス』の構想が何となくあったので、歴史の流れのシナリオに沿って収集していた。つまり、ギリシア・ローマコインのはじまりから終わりまで点で収集し、最終的に線にするという方法である。中でも記念貨の収集に力を入れた。戦勝記念や即位記念など、ローマは何か出来事があった際に記念貨を発行する習慣があった。これは歴史を語る上で有用なアイテムとなる。図像が具体的でわかりやすく、ともに刻印された銘文が具体性をさらに後押ししているからだ。

収集にあたって最も重要かつネックになるのが予算である。生活を破綻させて収集しても仕方ない。ギリシア・ローマコインは高額な傾向にあるので、どれを集めて良いかわからない最初のうちは近代ヨーロッパの銀貨やイギリスのトークンなどがお勧めかもしれない。何よりその図像が美しいから見ていて飽きないし、たとえ手放したくなってもメジャーなジャンルなので買い手がすぐにつく。イギリスのトークンは比較的安価でありながらも、デザインのヴァリエーションが多く、収集のしがいがある。生涯をかけて行えるコレクションといえるだろう。ただ、トークンは代用貨であってコインではないので、研究者によって分類されていないものや文献自体が少ないという難点もある。

文献という言葉が出てきたので少し話しをするが、文献は収集の心臓といえる。文献のない収集は、地図のない旅のようなものである。がむしゃらに進んでも、目的地にはつけない。そんな集め方になってしまう。だから文献はまず最初に手にしておきたいところだ。紙の本を買うくらいなら、実物のコインが欲しいという気持ちは痛いほど察するが。

予算を抑えながらも古代モノを楽しみたいと思う人には3〜4世紀のローマコインをお勧めする。とても古いシロモノだが、比較的安価で取引される傾向にあるからだ。この時代のコインは品質が低下した影響で現代でも安価な評価を受けるが、古いモノに変わりないし、歴史的重要性まで低いわけではない。ローマコインはカエサルたちが生きた共和政末期のものが突出して高い。カエサル、アントニウス 、クレオパトラ 、オクタウィアヌス 、ブルートゥスなどの誰もが知る人物たちは破格である。次に高額なのが帝政期に入ったユリウス・クラウディウス朝のもの。イエス・キリストがユダヤの立法学者を説き伏せた際に利用したティベリウスのコインは特に人気があり、高額で取引される。また、カリグラのコインは彼の治世期間が短かかったため、コインの現存数が少なく高い。ネロは誰もが知るローマ皇帝であり、人気があるので当然彼のコインも高い。そして、意外に高額なのがネロの死後の動乱期に皇帝だった三人のコイン。ガルバ、オトー、ウィッテリウスのコインである。彼らは全く人気のない皇帝だが、治世が数ヶ月と短く、コインがそもそもほとんど発行されていない。それゆえ、現存数の関係で価格が突出している。その後のティトゥスも治世約二年と短いため比較的高額である。五賢帝のコインはセステルティウス青銅貨は高額だが、デナリウス銀貨は比較的安価な傾向にある。だが、ネルウァに関しては治世一年四ヶ月と短いため、これもまた現存数が少なく高額で取引される。

いろいろ述べたが、最終的に決めるのは自分である。だから参考程度に受け取ってもらえたらと思う。集め方に答えはない。コレクターの数だけ集め方がある。それを大前提とし、一人一人の集め方をリスペクトしつつ、個人的にお勧めする集め方と、それに付随する豆知識を紹介した。まず収集は楽しいものでなくてはならない。楽しいこと、それが何よりも一番大切となる。そこに不快さが入っては意味がない。好きなものを好きなだけ追いかけるのが理想のスタイルだと思う。だから人の声に耳を傾ける必要はないが、そうは言っても最低限の指針がないと何をしていいのかわからないという声もあるので、あくまで個人的な収集の仕方を述べた。

ちなみに表紙のコインは、カエサルが暗殺の直前に発行させたデナリウス銀貨。わずか二ヶ月間の発行だった。カエサルは名前が有名なわりに統治期間が短く、コインの数は少ない。カエサルは存命中に自身の肖像をローマコインに初めて刻んだ人物である。それまでのローマ社会では存命中の人間をコインに刻むことは畏れ多くタブーとされた。それゆえ、従来は神や遠い先祖、動植物が刻まれていた。だが、カエサルをファーストペンギンにローマコインには肖像を描くことがスタンダードとなる。

To Be Continued...

Shelk


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?