最も思い出深いコインは？と問われれば、プトレマイオス1世が亡きアレクサンドス大王の肖像を表して発行した4ドラクマ銀貨だ。思い出深いこともあって、このコインは『アンティークコインマニアックス』の表紙に採用している。

通常、コインの上に描かれるアレクサンドロスはヘラクレスをリスペクトしてライオンの帽子をかぶっているが、本貨では象皮の帽子をかぶっている。且つエジプトのアメンを象徴する牡羊の巻角を生やしている特別な図柄。投資用として最近注目されているが、歴史・宗教研究においても重要な一枚である。

実はこのコインは収集初期から気になっていたが、価格のこともあって後回しにし、安価なものから先に回収していた。正直なところ手を出しにくい価格のため、当分は動かないだろう目論んでいた。であれば、狙われやすい安価なものから入手した方が最終的な回収率は高いというのが私の考えだった。

だが、ある日なくなっていて衝撃を受ける。自分の判断ミスが招いた結果だった。明らかに収集の優先順位を間違えた自分が悪い。この時は後悔の念でだいぶヘコんでいた。だが、心優しいディーラーが察してくれたのか、その後同じタイプのものを見つけて来てくれた。だから一度入手を諦めかけただけに、とても思い出深いコインである。

コインに限らず、誰であってもコレクションしたモノには思い出が詰まっていると思う。そうした特別な思い入れが、モノを大切にする気持ちを育むことを願う。

【基本データ】

希少度：アルティメットレア
図柄表：アレクサドロス大王（象皮の帽子とアメンの角を持つ異種）
図柄裏：アテナ、ゼウスの大鷲、コリントス式兜
発行地：プトレマイオス朝エジプト・アレクサンドリア造幣所
発行年：前311〜前304年頃（プトレマイオス1世サトラップ期）
発行者：ラゴスの子プトレマイオス1世ソテル
額面：4ドラクマ（テトラドラクマ）
材質：AR（銀）
状態：EF（エクストリミーファイン）
分類：Svoronos 162
銘文：ΑΛΕΞΑΝΔΡΟΥ（アレクサンドロス）
備考：エジプト王国最初期のコイン
目的：アレクサドロス大王の死後、プトレマイオス1世はエーゲ海とギリシア本土を支配下に治めるための軍事行動を取った。前309年にキプロスとコスという重要な島を獲得。エーゲ海に浮かぶ諸地域からの支援を確実にした。こうした軍事基盤を背景に、彼は小アジアにまで支配権を伸ばす計画を立てた。だが、バビロンのセレウコス1世にその試みは破られ計画は失敗に終わる。とはいえ、プトレマイオスはコリントス、シキュオーン、メガラなどのギリシアの主要都市を支配下に置くことに成功する。こうしたプトレマイオスの軍事活動には膨大な資金が必要とされた。本貨はプトレマイオスが軍事で小アジアに滞在していた時期に発行されたもの。この時点ではまだ彼はエジプトのファラオではなく、サトラップの地位に留まっていた。

To Be Continued...

Shelk 詩瑠久