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オリエント美術の世界 〜古代ローマと鉱物〜

古代ローマの博物学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスは、著作『博物誌』の中で、鉱物に関する章を設けている。古代ローマでも鉱物は彼らの生活を支える上で欠かせない存在だった。様々な道具に利用されたり、その神秘的な見た目から迷信が生まれたり、ローマ人と鉱物の関係性は興味深い。ここでは、そんなローマ人と関わりの深い鉱物を一部紹介する。


ティレニア海に浮かぶイタリアのエルバ島から産出した赤鉄鉱。この地から採掘された赤鉄鉱は古代ローマの文明を支えた。エルバ島の赤鉄鉱はローマが鉄器を生産する上で重要な材質で、紀元前から発掘されていた。ローマの繁栄はこの鉱物なくして成り立たないが、エルバ島は当初エトルリアの領域だった。


イタリアのエルバ島で産出した黄鉄鉱。赤鉄鉱と同様に古代ローマの鉄器文化を支え続けた鉱物。黄鉄鉱は黄金に輝くその見た目から金と勘違いされることも多かった。ちなみに、エルバ島はフランス皇帝ナポレオン1世の流刑地としても有名である。また、この島から産出する黄鉄鉱は赤鉄鉱を伴うのが特徴。


スペイン西部に位置するアルマンデンから産出した辰砂。アルマンデンはローマ人によって築かれた都市。アルマンデン鉱山が存在し、この辰砂が数多く産出した。古代ローマでは、辰砂は主に家屋の壁面装飾に用いられた。有名な例は、ポンペイにあるディオニソスの秘儀が行われていた集会所のものである。


小アジア(現在のトルコ)で産出したアメジスト。バックスの石とも呼ばれ、古代ではこの石を砕いて飲むと酒に酔わないとされた。ワインの色が紫で、アメジストの色も紫。色が同じという安易な発想で効果があると信じられた。ひじきの色が黒だから髪の毛に良いとか髪の毛が生えてくるという迷信と同じ。


古代ギリシア・ローマコインについて知ろうと思うと、このコインたちを形づくる素材は一体どこから来たのだろう?という疑問が浮かんでくる。そうして深き沼へと足を突っ込み、終いには抜け出せなくなっていくわけだが、材質の産出地が判明すると、そこから自ずと当時の交易ルートが見えてくる。

イタリアは鉱物資源に恵まれた土地で、特にエトルリアが支配していた中部イタリアが豊かだった。また、スペインに有益な鉱山があったことから早くにローマ人はこの地を開拓し、鉱山の周辺地域に都市を形成した。コソボにも良質な鉱山があり、この地で採れた鉱物は古代ローマ文明を支え続けた。

鉱物の観点からローマを見ると、また違った視点で彼らの謎に迫ることができるかもしれない。

Shelk 詩瑠久

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