新作落語「時をかける少年」(2017年落選)

大掃除ということで、落ちた落語台本を公開します

第一回上方落語新作台本大賞落選

目覚まし時計の音「ピ、ピピ、ピピピ」
達也、目覚ましを止めて大きく伸びをする
達也「ふあ〜あ。ようねた。」
母「たっちゃん、はよご飯食べて学校いきや。もう友達のよっちゃん一緒に学校行こうて玄関まで来てるで」
達也「あ、ほんまや、お〜いよっちゃんずいぶん早いなあ」
洋二「たっちゃんおはよう。たっちゃんが遅いんやって。林先生が今日朝にテストあるからはやく学校に来いっていってたやん。国語と数学やで、たっちゃん、ありをりはべりいまそおり、おぼえてるか?サインコサインサンジェントやで」
達也「あ!確かにそおやった!もう出かけないかん!」
母「あんた。朝ごはんは?」
達也「食パンだけもろとくわ。行ってきます!」

歩きながら
洋二「そういえばたっちゃん、河合くんがバスケットボール返してって言ってたで」
達也「あ、そういえば!あれこないだみんなでバスケして遊んだ後、自分のやと思って持って帰ってしもてんな。また今度かえすわ」
美代子「あんたらそんな立ち話して余裕やな」
洋二「あ、みっちゃんや。おはよう」
美代子「おはよ!達也、あんたまたパン食べながらきて行儀の悪い!」
達也「へいへい。あ〜もう、幼馴染やからってうるさいなあ。」
洋二「あ、また夫婦喧嘩がはじまりよった」
達也「だれが夫婦じゃ!もう、俺先いくわ!」
二人を払いのけて前に乗り出す
洋二「あ!たっちゃん危ない!」
達也「え?」ドーン!と、車のぶつかる音

*******
目覚まし時計の音「ピピ、ピピピ、ピピピピ」

達也、目覚ましを止めて大きく伸びをする
達也「ふあ〜あ。ようねた。でもなんか不思議な夢やったな。朝起きて出かけたら急に車が飛び出してきて、ぶつかったと思った瞬間に目が覚めてもた」
母「たっちゃん、はよご飯食べて学校いきや。もう友達のよっちゃん一緒に学校行こうて玄関まで来てるで」
達也「あ、なんかおかん夢と同じこと言っとるわ、お〜いよっちゃんずいぶん早いなあ」
洋二「たっちゃんおはよう。たっちゃんが遅いんやって。林先生が今日朝にテストあるからはやく学校に来いっていってたやん。国語と数学やで、たっちゃん、ありをりはべりいまそおり、おぼえてるか?サインコサインサンジェントやで」
達也「よっちゃん、さっきの夢と同じこというてはるわ。間違い方まで一緒、おもろいな」
母「あんたわけのわからんこと言うとらんで。朝ごはんは?」
達也「あ、そやったそやった食パンだけもろとくわ。行ってきます!」

歩きながら
洋二「そういえばたっちゃん、河合くんがバスケットボール返してって言ってたで」
達也「あ〜それはさっき聞いた」
洋二「さっきってなんや?」
達也「あ〜・・・まあええわ。こんど持ってくる」
美代子「あんたらそんな立ち話して余裕やな」
洋二「あ、みっちゃんや。おはよう」
美代子「おはよ!達也、あんたまたパン食べながらきて行儀の悪い!」
達也「へいへい、そうやって何度も何度も・・・幼馴染やからってうるさいなあ。」
洋二「あ、また夫婦喧嘩がはじまりよった」
達也「だれが夫婦じゃ!え、これ夢でも同じこと言ったな…っていうことはもしかして」

洋二「あ!危ない!」
達也「え?」ドーン!と、車のぶつかる音

********
達也「確かに、今さっきまでのこと、朝おきてからトラックにはねられるまで、全くおんなじことをやってた。ってことは、最初も夢じゃない…」
天狗「よう気がついたか」
達也「あ、あんたは誰や?」
天狗「この姿でわからぬか」
達也「あ、高い下駄を履いて、赤い顔、そしてなによりも、その長い鼻…ひょっとしてあなたは、
ピノキオですか?」
天狗「・・・・そうではない。わしは天狗じゃ」
達也「天狗!でも天狗がどうして」
天狗「それがな。お主は確かに朝、道で飛び出してきた車にはねられた。即死じゃ」
達也「即死…」
天狗「しかしな。なにか心残りがあって、お主が生きてほしいという何者かの強い思いによって、お主の魂はどうやらその朝にとどまってしまっておるらしい。そのせいでお前は朝から車にぶつかるまでの間の時間を繰り返しておるようじゃ」
達也「繰り返すって、僕はずっとここにいるってことですか」
天狗「いや、思いというものは少しづつ薄れてしまうものじゃ。そうするとお主はあの世へ行く。しかし、もし思い人を突き止め、心残りが晴れれば、お主はそのまま死なずにすむかもしれん」
達也「ほんまですか?」
天狗「わしは嘘はつかん」
達也「ほんまですね。確かに鼻が伸びてない」
天狗「だからピノキオではない!」

*******

目覚まし時計の音「ピピピ、ピピピピ」
達也、目覚ましを止める
達也「さっき、思いを発してる人をみつけろって言ってたな。でもだれなんやろう」
母「たっちゃん、はよご飯食べて学校いきや。もう友達のよっちゃん一緒に学校行こうて玄関まで来てるで」
達也「もしかしたら、そういやよっちゃんかもしれんな。よっちゃんありがとうな。おはよう」
洋二「たっちゃんおはよう。でもなんやありがとうって。でもたっちゃんが遅いんやって。林先生が今日朝にテストあるからはやく学校に来いっていってたやん。国語と数学やで、たっちゃん、ありをりはべりいまそおり、おぼえてるか?サインコサインサンジェントやで」
達也「よっちゃん。言っとくけどな。それ間違えてんで。ありをりはべりいまそがりや。いまそおりやと、安倍首相になってまうで。ほんでな、サンジェントやなくてな、タンジェントやでタンジェント。三角形がこうあるやろ、そしたらな、ここの部分がタンジェントや」
と、右手で大きい三角形を描き上の角を左手で指す
洋二「ほうほう、どこがタンジェント?」
達也「やから、三角形がこうあって、こことここの角や」
洋二「その動きで、仮面ライダー変身って言って」
達也「仮面ライダー変身!ってふざけてどうすんねん。どうやよっちゃん、わかったか?」
洋二「う〜ん。わからん。でも大丈夫。たぶんお客さんもほとんど覚えてないと思うわ」
達也「なんやそれは」
母「あんた。朝ごはんは?」
達也「食パンだけもろとくわ。行ってきます!」

達也「そういえば、もしかしたらみんなより先に学校についたら、車にはねられんのちゃうかな。もうよっちゃん、俺先いくわ!」

洋二「あ!たっちゃん危ない!」
達也「え?」ドーン!と、車のぶつかる音

*******

目覚まし時計の音「ピピピピ、ピピピピピ」
達也、目覚ましを止める
達也「どうやら、よっちゃんではなかったみたいやな。やとしたら、オカンか…」
母「たっちゃん、はよご飯食べて学校いきや。もう友達のよっちゃん一緒に学校行こうて玄関まで来てるで」
達也「よっちゃん、おはよう」
洋二「たっちゃんおはよう。たっちゃんが遅いんやって。」
達也「今日朝テストやろ。ありをりはべりしまそがり、サインコサインタンジェントやで」
洋二「なんやしっとったんか」
達也「よっちゃん悪いけど先行っといてくれんか。俺、朝ごはんちゃんと食べてから行くわ。オカン、いつも俺より早く起きて、朝ごはんを作ってくれてありがとうな。それを俺は食べんと過ごしていたんやな。この目玉焼きもありがとう。この野菜ジュースもありがとう…」
母「あんた、急にどうしたんや。気持ち悪いな。はよ食べんと遅刻するで」
達也「ありがとうな…ごちそうさま。じゃあ行ってきます」
母「あ、たっちゃん危ない!」
達也「え?」ドーン!と、車のぶつかる音

*******
目覚まし時計の音「ピピピピピ、ピピピピピピ」
達也「けっきょく急いでも遅くしても車は出てくるんかい!さっきの車、玄関に突っ込んできよったで!!もう五回目や。そろそろ助からんと!」
母「たっちゃん」
達也「朝ごはん食べます!いつも美味しいご飯をありがとう!むしゃむしゃむしゃ。行ってきます!」
洋二「たっちゃんおはよう。」
達也「ありをりはべりいまそがり!サインコサインタンジェント!(仮面ライダーの動きをしながら)」

美代子「あんたらそんな朝からライダーごっこして余裕やな」
洋二「あ、みっちゃんや。おはよう」
美代子「おはよ!」
達也「みっちゃん。やっぱり、俺のこと思ってくれてたん、みっちゃんやったんやな。幼馴染で、周りにもからかわれるから普段は悪態づいてるけど…幼稚園のとき、みっちゃん大人ぶりたくて、先生の時計をこっそりつけて、それで砂場で遊んで時計を壊してしもたときあったな。それで、俺、みっちゃんをかばおうとして「先生、みっちゃんはふざけてたんちゃう!ずっと動いてる時計を休ませたくて、砂風呂に入れたげたんです!」って言って、俺まで叱られたな。俺、そのときみっちゃんのこと将来およめさんにするって言ってたな。その時の気持ち、俺も変わってないで、みっちゃん、普段は照れていえんけど、言わせてもらうわ。おれ、ずっとみっちゃんのことが、好、す」

洋二「あ!たっちゃん危ない!」
ドーン!と、車のぶつかる音

*******
目覚まし時計の音「ピピピピピピ、ピピピピピピピ」
達也「みっちゃんもちゃうんかい!うわ、なんか告白までしてもた!はっず!はっず!」
母「たっちゃん」
達也「朝ごはん食べます!いつも美味しいご飯をありがとう!むしゃむしゃむしゃ。行ってきます! 
ありをりはべりいまそがり!サインコサインタンジェント!(仮面ライダーの動きをしながら)
あ、そういえば、バスケットボール。河合くんが返してって言ってたな。一応もっていってみよか…
いってきま〜す。あ、みっちゃん。好きやで〜。

ドーン!と、車のぶつかる音

*******
心拍計の音「ピッピッピッピッピ」
達也「あ〜またここか。今何回目や。たしか7回目あ、おかんおはよう、いつも美味しいご飯をありがとう」
母「なにいうてんのあんた。今、病院のベッドやで」
達也「そうそう。病院のベッドで…え?病院」
洋二「たっちゃん学校に行く途中で車にぶつかったんやで、でも抱えてたボールがクッションになって無傷やってんで。でもびっくりして気絶しとったって」
河合「このボールのおかげやな」
達也「あ、河合くん」
河合「実はこのボールな、昔日本人初のNBAプレーヤの田臥選手にもらったやつやってん。やっぱりスターのボールはなんか特別やねんな。いや〜でもよかったわ。もし達也が車にぶつかって死んでたら、なんか、家からボール返してくださいって言いにくいやん。そしたらどうしようどうしようってずっと悩んどってん。でも無事でほっとしたわ。じゃあ、このボール返してもらうで。じゃあな」

達也「・・・・・・ええええええ!?これ、俺じゃなくて、ボールへの思いやん!俺のことは別にどうでもええやん!なんやそれ!もう!」
美代子「どうでもよくないよ!」
達也「あ、みっちゃんも病院来てくれたんか。ありがとう」
美代子「でもなんか怪我もなかったみたいやし。良かった。元気そうやし安心したわ。それに…」
達也「どうしたん?」
美代子「なんか朝、突然私に向かって、好きやで〜!って叫んでなかった?」
達也「え・・・・
ピピピピピピピピ」
美代子「なによピピピピって」
達也「いや、朝に戻れるかなって」
美代子「なにをわけのわからんこと言うてんの。あん時めっちゃ恥ずかしかったんやからね!でも・・・嬉しかってん。うちも、たっちゃんのこと、ずっと好きやったから」
達也「え、え?ほんまに?え?」
美代子「そうやで、だって私の初恋の人がたっちゃんやったんやもん。たっちゃんは違んん?」
達也「え・・・そうやな。俺は・・・
7回目の、初恋や」

落選した反省点
個人的には落語というフォーマットの自由性を拡張したいなと思って、割とブームでもあった「ループもの」をやりたいなと思って書きました。あと、全体的なトーンは2丁拳銃小堀さん作の「ハンカチ」っぽくなってますね。後々、笑福亭たまさんがすでにループものを作っていると知ってさすがと同時に反省。
テーマに沿ったお題ではなかったことと、ほぼ主人公が10代というのは、落語家さん的には演りにくいということを思ったりしました。

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