新作落語「歩め、金メダルの道」(2018年落選作)

歩「コーチ、僕は宣言します!僕は、必ず、2020年東京オリンピックで金メダルを獲ります!コーチ、そのために、ぜひ、厳しい指導を是非、お願いします!」
コーチ「いや、君…その熱意はええんやけど…君、わかってるか?2020年にやるんは、夏のオリンピックやで。俺が教えてる競技、フィギュアスケートやで?」
歩「はい、わかってます」
コーチ「いや、確かに、スノーボードの平野選手とかは、スケボーでもオリンピックに出場したいっていうてるけども、それはスノボーとスケボーが似てるからできるもんで、夏のオリンピック競技にローラースケートはないで」
歩「わかってます。僕もいくら日本でオリンピックがあるからって光GENJIが競技になるとは思ってません。僕はもう、フィギュアを諦めようと思ってるんです。」
コーチ「なんでや?成績だってええし、君は歩という名前の通り毎日毎日コツコツ練習してるのに」
歩「コーチ、僕の名字、知ってるでしょう?」
コーチ「もちろんや。君は羽が生えていると書いて、「はぶ」くんや」
歩「それです。僕は名前の漢字が羽生結弦くんと同じなんです。僕、周りになんて言われてるかしってますか?「ニセ羽生」ですよ。この間なんて、お客さんに間違ってプーさんの人形投げられたんですよ。僕、どっちかって言うたらキティちゃんのほうが好きです。正直、僕が現役にいる間に羽生選手に勝つことはできる気がしません。多分僕はこのままスケートにこだわって、一生ニセ羽生で終わるなんていやなんです。」
コーチ「そうか。たしかに君は運動神経もいいし、どんな辛い練習も一生懸命打ち込む子やった。もしかしたら、違う競技をやったほうがうまくいくかもしれん。よしわかった。一緒に、オリンピックに出場するための競技を探してみよか!」
場面転換
コーチ「まずは陸上や、走ってみるか」
歩「はい!」
審判「位置について、よーい、どん!」
歩、走るがどうしてもフォームがスケートのようになる
コーチ「歩、何をしてるんや」
歩「何って、走ってるんですよ」
コーチ「それ、陸の上だと全然進んでへんで!」
歩「ああ、そうだった!どうしても今まで鍛えてきたフィギュアの癖がついてしまうんです。」
コーチ「とりあえず走るのは難しそうやな。じゃあ次は棒高跳びや」
歩「はい!」
歩、背面跳びを飛ぶ
歩「イナバウワー!」
コーチ「ちゃうわ!でもそれは割とうまくいったな。次、ハンマー投げや」
歩、ハンマーを投げるために回るが回り続ける
歩「コーチ、回るのは得意ですけど、手を離すタイミングがわかりません!」
コーチ「よし次は体操や!」
歩、鉄棒で飛んで着地をする
歩「やった!3回転に成功しました!」
コーチ「いや、たしかに成功したが、体操は縦に回転せなあかんねん。君がやったんは横に3回転しただけや。それは体操やと3ひねりになってまうで」
歩「えっ、そうなんですか?」
コーチ「そりゃあ床体操も、足一本で直立するバランス技は褒められたけども、問題はジャンプやな。次、ボクシングや!
頑張れ、頑張れ。あっ。ダウンや。頑張れ!立て!立つんだジョー!」
歩「僕、ジョーやないですよ」
コーチ「次、レスリング!
頑張れ!頑張れ歩。気合だ、気合だー!気合だ気合だ気合だ!」
歩「コーチもなんかわりと影響うけやすい人ですか?」
コーチ「歩、伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」
歩「それはアナウンサーの発言ですよ」
とまあ、オリンピックの競技になってるものを一つ一つ挑戦していきました。
水泳、アーチェリー、カヌー、自転車競技、フェンシング、ゴルフ、柔道、空手、射撃、テコンドー、ウエイトリフティング。はては馬術から、今回から採用されたスポーツクライミングとサーフィンまで。違う競技をどんどん取り組んでいくしんどさはさながらトライアスロンのような過酷さやと思ったところで、そのあとトライアスロンにも挑戦しました。はたして羽生歩くんにピッタリの競技は見つかったんでしょうか。そして迎えた2020年…
場面転換
羽生、長考したのち、将棋の一手を指す。
向かいの相手「・・・まいりました」
記者「やりました!羽生選手これで通算30連勝の記録となりました!元フィギュア選手という経歴から突然のプロ棋士への転向。そしてこの勝利で藤井聡太を超えた大記録を打ち立てました!おお、会場に、ハローキティの人形が投げ込まれています!」
コーチ「歩、おめでとう!」
歩「コーチ、ありがとうございます。これもコーチの指導のおかげです・・・でも、なんで一体こんなことになってるんですかねえ?」
コーチ「運命ってのは奇妙なもんやなあ。君が夏のオリンピック競技を目指すいうたとき、個人競技を挑戦して、次は団体競技も目指してみようってことになって」
歩「コーチ、テニスとバドミントンのダブルスは自分が一緒にやってくれましたもんね」
コーチ「そうやったな。しかし今までフィギュアの個人競技しかしてなかった歩はチームの動かし方を勉強せなあかんと思って薦めてみたのが将棋や。しかしこれが大当たりで、歩くんの地道な努力をする性分ともピッタリあって最速でプロ入り、そして30連勝の大記録になりおった。」
歩「それはいいんですけど、僕はオリンピック選手になりたかったんですよ」
コーチ「まあ、最初の目標とはちがったけど、結果としてはええやないか。誰も今君をニセ羽生やなんて言う人はおらんで。今君がなんて呼ばれてるかしっとうか?なんと、羽生二世やで」
歩「羽生二世って、ニセ羽生と前と後ろ入れ替わっただけじゃないですか!それに僕羽生永世名人の子供じゃないですよ!それに僕は金メダルがほしかったんですよ!」
コーチ「いや、見事な金やないか」
歩「どういうことですか?」
コーチ「一歩一歩、少しづつ歩んでいく内に、前人未到の記録を打ち立てて、最初のちっさい歩兵から見事に成り上がった。これが本当の、成り金や」

終わり

反省点
前回の落選を受けて、ちゃんとテーマに沿った作品を作ろうということで、「金メダル」をお題にした作品を考えました。
最後のシーンでキティの人形が投げられる将棋会場という「絵」が好きだったりしたのですが、あえなく落選・・・
ちなみに最後「成金やがな」から「上方落語で成金の名前はやめてください」というめちゃくちゃ身内ネタを考えていたのですが流石にやめました

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