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地球の学びブログ ライチョウ

ライチョウ


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


ライチョウ(手前:オス、奥:メス)Lagopus muta muta

保全状況評価[1]LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))

IUCN Red List Ver.3.1 (2001

分類
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:鳥綱 Aves
:キジ目 Galliformes
:キジ科 Phasianidae
:ライチョウ属 Lagopus
:ライチョウ L. muta学名Lagopus muta (Montin, 1781)[2][3]シノニム

Tetrao mutus Montin, 1781

和名ライチョウ[3][4]英名Ptarmigan[1]
Rock ptarmigan[1][2][3][4]

ライチョウ

ライチョウ(雷鳥、学名:Lagopus muta[5])は、鳥綱キジ目キジ科ライチョウに分類される鳥類。英名はRock ptarmigan(ロック・ターミガンに近い発音)。北半球北部に分布し、日本のいくつかの高地に分散して生息する亜種はその南限である[5]。日本では国の特別天然記念物で絶滅危惧種[6]

かつての学名はLagopus mutusだったが、属名はギリシャ語由来で女性名詞であるため(従来は男性名詞と思われていた)、種小名が修正された[7]

分布

ライチョウ亜科の鳥は世界に6属17種が生息し(但し分類には諸説ある)、ライチョウの仲間では最も寒冷な気候に適応した種である。ユーラシア大陸北アメリカ北極海沿岸、ヨーロッパアジアの一部の高山帯に広く分布する[8][9]ピレネー山脈アルプス山脈、日本には隔離分布している[10]。Johsgardによる1983年の報告で、フィンランドで約8,000羽、イギリスで2,000-20,000羽が生息していると推定されている[11]。日本での生息数は信州大学の推定によると、1980年代の約3000羽から2000年代には2000羽弱へと減少している[5]。 

形態

ハイマツ帯に生息するライチョウの母と子

孵化直後のは背丈およそ6cmほどで、足は体と比較して大きい。成鳥の体重は400-600g程度(ヨーロッパのものがオス375-610g、メス347-475g[10])。全長は約37cm、翼開長は約59cm[12]

夏は褐色・冬は純白と季節によって羽毛の色が変化するのが特徴である。冬は羽毛の中に空気をたっぷり蓄えて体温を逃さないようにしている。羽毛は軸が2つに分かれその軸に突いた細かい羽毛の密度が高いため、空気をたくさん含むことができる。

春は黒い羽毛が混じり始める。オス個体では目の上には赤色の肉冠がある。これはオスの特徴で興奮しているサインである。メスは背中が茶色になる。

分類

スカンジナビア半島からコラ半島までのヨーロッパ大陸とスコットランドに分布する秋に翼が灰色になるグループと、これ以外のグループ(北シベリアアラスカ、北部ユーコン地域アリューシャン列島に分布する)に分類される[10]。日本の固有亜種のライチョウは、後者である。


日本の亜種ライチョウ

日本には亜種ライチョウが本州中部地方の高山帯(頸城山塊(火打山・焼山)、飛騨山脈(北アルプス)、御嶽山乗鞍岳木曽山脈(中央アルプス)、赤石山脈(南アルプス))のみに生息する。に似た鳴き声を発する[17]。日本の生息地が、ライチョウの南限である。日本国内の、現在の分布北限は新潟県頸城山塊の火打山焼山、分布南限は赤石山脈(南アルプス)のイザルガ岳である[18]

高山植物種子のほか昆虫類を採餌している[5]中部大学北アルプス太郎山で採取したDNA解析したところ、ツツジ科クロウスゴガンコウランを中心に53種の植物を食べていることが確認された[19]

なお、北海道にはエゾライチョウ属Tetrastesのエゾライチョウが生息する。北海道にLagopus属が生息しない理由は分かっていない。

環境省は、有精卵を抱かせての孵化天敵キツネカラスなど)の生息状況調査を計画している[20]

日本の過去の生息地

江戸時代以前の文献では蓼科山八ヶ岳、白山にライチョウが生息していたと記録されているが、現在は生息していない[18]岐阜県石川県境に位置する白山は大正初期を最後に確認が途絶え、絶滅したとされた。

尾瀬に位置する福島県の燧ケ岳でも1945年頃までライチョウが見られたという住民証言があり、客観的資料はないものの、誤認する可能性のある種が他に生息していないことから本種が生息した可能性は否定できない[21]。なお、同じく尾瀬に位置する至仏山についてはハイマツ帯が存在するが、ライチョウに関する資料は残されていない[21]

本来ライチョウの繁殖活動が確認されていない八ヶ岳東天狗岳飯縄山戸隠連峰高妻山では、1960年代以降数回にわたり登山者により写真撮影されたり、糞が確認されたりしたことがある。これは、本来の生息地である高山帯の生息環境が悪化した事によって、新しい生息場所を求めて飛来した個体と考えられる[22]

日本に生息する種の起源

ライチョウが日本にやって来たのはおよそ2万年前の氷期で、樺太カムチャッカ半島を経由して本州中央部の高山帯に定住したが、氷期が終わり温暖になったことで大半のライチョウは寒い北へ戻ったが、ごく一部が日本の高山に残った[23]。現在は北極周辺が主な生息地域である。日本のライチョウは一番南の端ということになる。ミトコンドリアDNAの解析結果では、北アルプスに2系統、南アルプスに2系統が生息している[24]。また、年平均気温は現在より2-4℃高かった 6000年前から9000年前のヒプシサーマル期の前半に著しく個体数を減少させた事が遺伝的多様性に欠けた個体群を形成させた[25]。南部の生息地ほど遺伝的多様性に欠けている。同属のLagopus属の分布で物理的な距離が最も近いのはカラフトであり、日本に生息する種は物理的にも隔絶されている。

日本の生息数[編集]

2005年の調査によれば新潟県頸城山塊の火打山と新潟焼山に約25羽、北アルプス朝日岳から穂高岳にかけて約2000羽、乗鞍岳に約100羽、御嶽山に約100羽、南アルプス甲斐駒ヶ岳から光岳にかけて約700羽生息しているとみられる。日本国内では合わせて約3000羽程度が生息していると推測されている[12][18]。2007年には南アルプス北岳で絶滅したとの報告があったが2008年には生息が再確認されている。

天敵の猛禽類や動物に捕食される以外に、山小屋などから排出されるゴミに混じる病原体やヒトが持ち込むサルモネラ菌ニワトリなどの感染症であるニューカッスル病ロイコチトゾーンの感染により国内のライチョウが減少することが懸念されている。また、登山者の増加に伴い登山道周辺のハイマツ帯が踏み荒らされ劣勢となり次第に減少しており、それに伴いライチョウの生息数も減少している。卵及び幼鳥やメスはオコジョテンキツネなどの天敵に捕食されやすいと考えられ、オスの比率が高い地域は絶滅の前兆とされている[22]

以前からニホンザルに幼鳥が捕食されているとの情報がもたらされていたが、2015年に捕食しているニホンザルの写真を研究者が撮影した[26]

生態


人間との関係

スキー場建設などの観光開発や家畜の放牧などによる生息地の破壊、狩猟、送電線による衝突死、人間による攪乱などにより、生息数は減少している[1]。アルプスでは気候変動、北極圏では温暖化による低木林の増加による影響が懸念されている[1]。一方で2016年の時点では分布が非常に広く生息数も非常に多いと考えられているため、種として絶滅のおそれは低いと考えられている[1]

ヨーロッパのいくつかの国、中国、日本でレッドリストの指定を受けていて、その他の地域では狩猟対象となっているところがある[8]

欧州

ドイツ連邦狩猟法(Bundesjagdgesetz=BJG)ではかつて主要狩猟動物だった種に関する一定の禁猟措置や違反に対する刑法罰(密猟罪)等の規定も設けられ、ライチョウについてはヨーロッパオオライチョウなどとともに狩猟動物目録に掲載された上で年間を通して禁猟の措置がとられた[28]

スウェーデンでは、1978-1980年に年間11,700羽ほどのライチョウが捕獲されている[11]アイスランドでは、狩猟による生息数への影響調査が行われている[8]

日本

富山県長野県岐阜県の県鳥に指定されている[15][12]

イヌワシなど猛禽類の天敵を避けるため朝夕のほかにの鳴るような空模様でも活発に活動することが名前の由来と言われているが[29]、実際のところははっきりしていない。古くは「らいの鳥」と呼ばれており江戸時代より難、雷難よけの信仰があったが[30]、「らい」が初めから「雷」を指していたかは不明である[31][32]。ヨーロッパや北アメリカでライチョウ類は重要な狩猟対象の鳥として古くから利用されていて、信仰の対象として崇められていた日本とは対照的である[32]。狩猟文化があるイギリス人のウォルター・ウェストンが日本に長期滞在した際の1894年(明治27年)8月8日に常念岳周辺でライチョウの狩猟を行っていた[11]

文献上では1200年歌集『夫木和歌抄』で後白河法皇が、「しら山の 松の木陰に かくろひて やすらにすめる らいの鳥かな」と詠んだのが初出とされる[15]。江戸時代初期に中国のから渡来した高泉性潡が『鶆(らい)』を著し、この名称も用いらるようになった[33]。1711年(正徳元年)に加賀藩がライチョウを見た白山と立山の登拝者から調査した調査では「らいの鳥」が用いられ、1720年(享保5年)の調査では「らいの鳥」と「雷鳥」の両方が用いられていた[33]。江戸時代には立山、白山、御嶽山にライチョウが生息していることが、登拝者により広く知られていて、江戸時代後期に牧野貞幹が『野鳥写生図』でライチョウのオスとメスを写生し「鶆鳥」と表記し、毛利梅園が『毛利禽譜』で白山のライチョウのオスと雛を写生して「雷鳥」と表記している[30]。1779年(安永8年)に葛山源吾兵衛の『木の下陰』などにあるように長野県の諏訪地域上伊那地域では「岩鳥」と呼ばれていて、1834年(天保5年)の『信濃奇勝録』の乗鞍岳のものには「がんてう」の振り仮名が付けられていた[31]。1813年(文化10年)の小原文英による『白山紀行』の写生図では「雷鳥」と「鶆鳥」の両方を記している[31]。地方名では富山県で「閑古鳥」、木曽の御嶽山で「御鳥」などの記録がある[31]

1916-1918年(大正5-7年)の百科事典『広文庫』で「雷鳥に鶆に作るは誤、本邦の神鳥にして支那になし」と記載され、「雷鳥(ライチョウ)」の名称が一般的となった[31]

ライチョウ(冬毛・雌)(南アルプス小河内岳にて)

日本のライチョウは江戸時代までは信仰の対象として保護されていたが、明治時代に一時乱獲され、下記年表のように法律で保護され、現在に至っている[34]

  • 古代山岳信仰 - 江戸時代よりずっと以前から山岳信仰登拝者に知られ、神秘性を帯びた「神の使者」の鳥とされていた[35]

  • 江戸時代 - 明治以前は、宗教的な殺生禁断の戒律により人により捕獲されることは少なかったと考えられている[35]

  • 明治時代 - 西洋思想の流入と、狩猟具の発達に伴い狩猟が行われていた。

  • 1895年(明治28年)3月27日 - 狩猟法施行細則により、雷鳥および松鶏の狩猟停止期間が4月16日から8月14日までと定められた[36]

  • 1901年(明治34年) - 狩猟法が改定されその狩猟停止期間が4月16日から10月14日までと定められた。

  • 1910年(明治43年) - ライチョウが、狩猟法の保護鳥に指定されて、捕獲禁止となった。

  • 1923年(大正12年) - ライチョウが、史蹟名勝天然紀念物保存法により天然記念物に指定された[37]

  • 1969年(昭和44年)3月31日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、白山周辺の山域が白山鳥獣保護区に指定された[38]

  • 1972年(昭和47年)11月30日 - ニホンライチヨウが、特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律により特殊鳥類に指定された[39]

  • 1984年(昭和59年)11月1日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、北アルプス鳥獣保護区が拡大され、北アルプスの主要な山域が指定された[40]

  • 1999年(平成11年)9月15日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律により、保護繁殖を特に図る必要がある鳥獣に指定される[41]

  • 2003年(平成15年)4月15日 - 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律を全部改正した鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律により、希少鳥獣に指定される[42]

  • 2012年(平成24年)9月18日 - 中央環境審議会野生生物部会において、「ライチョウの保護増殖事業計画の策定について」答申がなされた[43]

地球温暖化、低地からの捕食者(アカギツネテンハシブトガラスチョウゲンボウニホンザルなど)の侵入および増加、低地からの他の動物の侵入(イノシシニホンジカニホンザルなど)とそれに伴う植生の破壊などにより生息数は減少している[14][15]。1980年代に行われた縄張りの垂直分布調査から、「年平均気温が3℃上昇した場合、日本のライチョウは絶滅する可能性が高い」ことが指摘されている[15]木曽駒ヶ岳ではロープウェイの設置による登山客の増加に伴い、残飯を求めて捕食者のテンやキツネ、ハシブトガラスなどが侵入したため、1965年頃までは確認されていたものの絶滅したとされる[15]。2018年7月に木曾駒ヶ岳で登山者による撮影例があり、8月に調査が行われ卵と巣が発見された[44]。採取された羽毛の遺伝子解析から乗鞍岳から飛来した個体と考えられ、2018年11月にも複数の撮影例があることから2017年から2018年にかけて少なくともメス1羽が定着していたと考えられている[44]。白山では1930年代に絶滅したと考えられていたが、2009年5月に撮影例があり同年6月の調査でもメス1羽が確認された(2011年の時点で、2010年にも確認例がある)[45]。2011年に発表された2009年に白山で発見された個体と1936年に採取された白山産の剥製標本のミトコンドリアDNA制御領域の分子系統解析では、いずれも飛騨山脈や乗鞍岳・御岳山でみられるハプロタイプに含まれるという解析結果が得られており、2009年に発見された個体はこれらの地域から飛来してきたと考えられている[46]

1955年に、国の特別天然記念物に指定されている[15]1993年国内希少野生動植物種に指定され、卵も含め捕獲・譲渡などが原則禁止されている[47]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[14]

環境省レッドリスト

鳥 類

絶滅(EX) 鳥類 カンムリツクシガモ
絶滅(EX) 鳥類 リュウキュウカラスバト
絶滅(EX) 鳥類 オガサワラカラスバト
絶滅(EX) 鳥類 ハシブトゴイ
絶滅(EX) 鳥類 マミジロクイナ
絶滅(EX) 鳥類 ダイトウノスリ
絶滅(EX) 鳥類 ミヤコショウビン
絶滅(EX) 鳥類 キタタキ
絶滅(EX) 鳥類 シマハヤブサ
絶滅(EX) 鳥類 ダイトウヤマガラ
絶滅(EX) 鳥類 メグロ
絶滅(EX) 鳥類 ダイトウミソサザイ
絶滅(EX) 鳥類 オガサワラガビチョウ
絶滅(EX) 鳥類 ウスアカヒゲ
絶滅(EX) 鳥類 オガサワラマシコ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ハクガン
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 シジュウカラガン
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 アカガシラカラスバト
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 オガサワラヒメミズナギドリ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 クロコシジロウミツバメ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 コウノトリ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 チシマウガラス
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 オオヨシゴイ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 トキ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ヤンバルクイナ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ヘラシギ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 カラフトアオアシシギ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 エトピリカ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ウミスズメ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ウミガラス
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 カンムリワシ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 キンメフクロウ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ワシミミズク
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 シマフクロウ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ミユビゲラ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 ノグチゲラ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 チゴモズ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 オガサワラカワラヒワ
絶滅危惧IA類(CR) 鳥類 シマアオジ
絶滅危惧IB類(EN) 鳥類 ライチョウ
つづく

ライチョウを見ていただきありがとうございます。
私は、動物や植物が大好きです。
鳥も大好きです。

これからもよろしくお願いします。