見出し画像

Vol.6 STEM教育の実践(メイカー作品展)

深セン市南山区主催の科技教育フェアー(深セン市南山区第二十届科技節)の1部門としてメイカー作品展(創客機械人展)が開催されました。

今回のメイカー作品展では、生活上で役に立つ発明品やスマート玩具を生徒自身で設計、製作した物を展示するという趣旨のイベントです。

作品はさまざまで、スマート物干し機、自動宿題回収ロボット、ミニチュアスマートハウス、姿勢矯正機、スマートiPadスタンド、植物採光ロボットなどなど生徒たちのアイディアを形にした作品が所狭しと展示されていました。

技術面においては、Arduino、micro:bitなどのマイコンボードに各種センサーを取り付けることで思い思いの作品に仕上げています。オリジナルの作品を作るには、プログラミングだけではなく、電子工作の知識、全体の作品を組み上げる工学的な知識も必要になってくるので、多くの場合はチームで1つの作品を手がけています。

この技術力だけでもすばらしいのですが、ここで注目したいのは、生徒たちのプレゼン能力の高さです。作品展の各ブースには製作者が待機しており、来客者や審査員に対して作品の作成動機、用途、課題などを説明します。この時対応するのが小学校3年生であっても日本人の大人以上に堂々と流暢に説明してくれるのです。

中国には小学生向けのスピーチ訓練塾(口才培訓)もあるほどで、人前でスピーチをすることは、読み、書き、そろばんと並んで基礎能力だと捉えられています。幼いころから話すことを訓練している中国人にはスピーチスキルの高い人が多く、よくよく聞いていると中身がないと思えることでも、堂々と自信満々に大きな声で話すので、慣れていない日本人なら簡単に呑みこまれてしまうかもしれません。ビジネスシーンにおいて日本人が中国人に押し負けてしまうのはよくわかります。

親子で参加
今回のほとんどの展示者は、学校の授業やクラブ活動での作品を出展していますが、学校の枠組みではなく、個人で参加している小学4年生もいました。作品自体は他の出展物と比べると地味に見えますが、ボディーに使われているパーツはすべて3Dプリンターでの自作パーツという力作です。本人も一人でフェアーに乗り込んで来るだけあって気合が入っていますが、やはりその影には母親のサポートがあります。

フェアー開催前のある日、カフェで試作品を傍に置きながら超音波センサーをいじっている女性がいたので、何を作っているのかを聞いてみたところ、それは子供の試作品でフェアーに出展するものだという説明を受けました。その女性こそが前述の母親で、学校のメイク(創客)の授業にはあえて参加せず、個人のSTEAM+ロボティクス教室に通っているとのことでした。
この母親にSTEAM教室に通わせる理由を尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。「子供が学びたい思うことを学ばせたいから」というのが理由で、私は中国人はもっと合理的に将来の成功に直結する学びを選択するのかと思っていましたが、この母親だけではなく、複数の親たちに同じ質問をしても似たような答えが返ってきたので、それは共通の感覚であるようです。

中国の熾烈な受験事情の中で、「中国の学校は受験マシーン工場」との話も聞きますが、親たちは受験戦争に熱狂するのではなく、この渦中にいるからこそ、本当に子供のことを思い、何をすべきかを考えている人々も多くいるように思います。学校も詰め込み教育からの脱却を本気で考えていて、私が見学をした深センのトップ校の1つである深セン外国語学校(高校)では、非常にインタラクティブな授業展開で活気のある授業風景が見られました。

メイカー教育の環境
高校生の展示者には、メイカー教育の現場について話を聞きました。彼らの学校の場合、「課外必修化」といういわゆる選択授業があり、自分が好きな学びを選択することができます。日本のように実技系教科が選択教科になっているのではなく、物理、フランス語、日本語と選択科目の幅は広く、その中にロボティクスの授業があるとのことです。彼らはそのロボティクスの授業を選択しているだけではなく、部活動(社団)でもロボティクス部(ロボ部)に所属していて、今回はそのロボ部内の予選を突破して展示権を得たとのことでした。

ロボ部の顧問は学校の先生で、技術指導は外部の先生に依頼、活動方針としては、学生はとにかくアイディアを出すことに徹し、先生はそのアイディアを形にするサポートをするということです。彼らは金銭面での学校のサポートについても触れていて、自分たちが作りたい物があって、予算を超えてしまう場合でも、学校が惜しみなく支援してくれるとのことで、学校にとても感謝しているということでした。

また、学校が課外必修化や部活動を重視していること、生徒達のやる気、個性を重んじていることも話してくれて、「生徒にやりたいことがあれば、生徒はそれについて努力するだけ、あとは学校がサポートしてくれる」ということを生徒自身の口から聞けたことに私自身大きな衝撃を受けました。

中国と言えば、悲惨な受験、詰め込み教育、型にはめこむ思想教育などネガティブな印象しか持っていませんでしたが、それは一側面ではあるものの、全てではないということを知りました。

私たち日本人の多くは、中国に対して様々な偏見を持って見ているため、彼らから学ぶべき点を見落としている可能性があります。教育に関しては、日本が勝っているだろうという漠然とした思いがありましたが、決してそんなことはありません。中国は教育分野においても日々改善しながら前進し続けているようです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?