5.『龍三と七人の子分たち』出演秘話(2) メルマガ《シェパードウィークリー》No.5

《シェパードウィークリーNo.5》

前回のおさらい

殿から「シェパード、今回の映画出てみるか?」と言われたことでてんやわんや、サウナの店員役を自分のものにする為に意味もない予行練習や演技の下準備に七転八倒したシェパード太郎は、撮影当日を迎える・・・

━ 撮影当日 ━

都内のサウナにて、やけに発光した黄緑色の制服を着込み、殿の到着を待つ。

いつもは殿の車が到着するとドアを開けるのは付き人の仕事なのですが、今日限りは、マネージャーさんからこのように言われて緊張の面持ちで待っていました。

「今日は付き人仕事はしなくていいからね。今日は役者なんだから」

今日は役者なんだから・・・その響きにヨダレが垂れそうになるのを必死に堪える僕でしたが、なんと良い響きなのでしょうか。

「今日は役者なんだから・・・」

まるで売れっ子俳優にでもなったかのような気分で浮かれていると、殿の車がサーっとやってきました。

そこで、僕はいつも以上に気合いを込めて挨拶をしてみました。

「お、おはようございます!」

今日は役者・・・役者としてしっかり挨拶しなくてはいけません。

すると、殿はこちらをチラリと見つめると、少しではありますがコクリとお辞儀し、なんと、こうつぶやいたのです。

「おはようございます」

え、と思った僕は二度見して確認してみましたが、殿は本当に小さい声ではあったものの僕にハッキリと、

「おはようございます・・・」

と言い、僕の前を通り過ぎて行ったのです。

普段、付き人には挨拶という挨拶はなく、あったとしても「おう」と言われるぐらいなのですが、今日限りは僕のことを役者として認識してくれているのか・・・「おはようございます」とわざわざ敬語まで使って・・・

そのことがあまりに嬉しく、高揚した気持ちで後ろから付いて行っていると、フッと殿が振り返りました。

「ん?」

すると、殿は僕の顔を見るなりこう叫ばれたのです。

「ん、あ、シェパードじゃねーか!このやろう!」

え!?

何が起きているのかわからず慌てふためいていると、殿は言いました。

「サウナの店員さんだと思って挨拶したら、お前だったのかよ!紛らわしい服着やがって、このやろう、なんだそのバッタみてえな黄緑の怪しい服わ!このやろう、挨拶返せ!」

一体、何が起きているのかわかっていない僕に、殿は往年の漫才さながらに続けます。

「お前だってわかってたら挨拶しなかったぞ、このやろう、挨拶しちまったじゃねーか、挙げ句の果てにお辞儀までしちまってよ、結構頭下げたぞ、地面に前髪が擦れるぐらいに挨拶させやがって、あーあ、どうしよう、あ、そうだ、挨拶料として100万円払え」

えぇ、そんなぁ~!

というか、そんなにお辞儀はしていなかったじゃないですかぁぁ~!

と嘆き叫ぶ僕を見て、いつもはクールな北野組のスタッフも大爆笑。

しかし、僕としては浮かれていたこともあり、ガチで落ち込むというわけのわからない状況です。

すると、殿はそこで本気とも冗談とも取れるトーンのままこんなことをつぶやき、サウナへと入って行ったのです。

「わかったな?明日までにキッチリ100万持ってくるように」

そ、そんな・・・と、まるで映画の中の龍三たちよりもアウトレイジな殿・・・

しかし、こんなテンションで撮影は大丈夫なのだろうか・・・

と、不安に駆られる僕なのでありましたが、残念ながらその不安は的中することになりました。

そう、これはまだ序章に過ぎず、これよりも大きな事件が撮影中に起こるのです。

━ 撮影現場 ━

撮影までの待ち時間、今か今かとソワソワしていると、僕が出演する前のシーンあたりで助監督さんがやってきて言いました。

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