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水科葵 1stEP『Re:M』リリース記念オンラインライブ感想

色を集める物語の始まりは、透き通るほどに潔く


前書き

 これは2023/07/25に行われた水科葵 1stEP『Re:M』リリース記念オンラインライブの感想です。
 https://www.youtube.com/watch?v=CBN2gHOMrdA

 GEMS COMPANY所属のVアイドルである水科葵(通称みずしー)のソロプロジェクト。その1stEP発売を記念したオンラインのリリイベ。EPに収録された四曲を、愚直に真っ直ぐに歌い切った23:25の配信ライブ。
 推しの待ちに待ったライブであり、展開でもあったので、ライブを聞きながら感想をつらつらメモにまとめていたら、案の定長くなってしまったので、こちらにまとめます。


1.unperfect

 これは本当にアルバム表題曲にしてもいい曲なんだと思う。
 激ムズな楽曲。とにかく幅が広いし、間髪が無い。みずしーのテクニックと声色を総動員でやっている楽曲。音源とライブでの聞こえ方が、やる度に変わりそうな気がする。というか既に変わってきてる。

 それにしても歌詞における水科葵への解像度があまりに高すぎる。本人以外の作詞なのにどうして? 作詞家さんとのやり取りが気になる。
 みずしーのマイナスの魅せてなかった所、喜怒哀楽の怒に近いところを出してきたのすごい。
 まだ終われないし終わったと思ってないしそもそも終わりなど無く、ずっとずっとスタートを探して足掻いている焦燥感。そこを歌う声が、とても綺麗な音をしてる。他にも歌い込みで深まる部分が多そうだけど、逆に深みがあり過ぎて大変そう。歌詞的に、これは同業者にも受けそうな気がする。
 音源は声にエフェクトかけてるけど、ライブではそれを抜く泥臭さ。全く逃げない潔さ。それでいて「私が通るから道開けろ」「運命を嘲笑う」「人生を踊れ」などキメ所を本当にしっかりキメていってる。
 というか逆にこれ、何処で力を抜くんだ……?
「昨日の私へ、バイバイ」で急転落下する声を生でやる喉が控えめにいってエグい。

 演出面はとにかく『原稿用紙』『文学』の表現がすごい。ツイートで言ってた太宰治から取ったのかしら。
 確かに私小説的な趣が強いから、カッコイイ歌なのに妙にマッチしてる。
 言葉が溢れかえるみずしーの頭の中を現すような目まぐるしい文字列が本当にハイセンス。

2.ノン・シュガーレス

 二年前に披露された自作曲だけあってフィット感がすごい。
 元々の弾き語りよりも電子系にふって、音に固さが出たおかげで、より都会的な趣が増している。
 ビートを入れる事で歌が軽くなって、音と併せてサビで泡のような気持ち良さを漂わせた後に、「あなたに巡り合えるように」で音圧高めに浴びせるから、エモさがすごい。
 情念の糖度を適度にカットした最後に甘さ強めを持ってくるのがズルい。
 ライブは音源よりずっと気持ちが深めになってる。歌詞内が16歳ぐらいだとしたら、音源はまだ大学生ぐらいだけど、ライブはもう社会人の声。
 ファンミでファンと触れ合った後だからなのか、求める気持ちの表し方が切なすぎて。ラスサビの響きは圧巻だと思う。

 エフェクトは文字を柔らかく若めな字体にしながら、コーヒーを漂う液体感。でも、目に映る風景を書く時は固い文体にしてコントラストがとても良い。
 多くの感情が溶け合ったコーヒーが、サビ終わりでサァっと一気に溶けていく美しさと儚さ。とても綺麗。

3. 唄う冬葵

  ネオ歌謡曲。
 初めて披露した時から余りに良過ぎたのだけど、今回またそれを大きく超えてきた。今回のライブで最もストレートに胸に刺さった曲。
 他の曲と違って、音をさほど盛ってない。歌をメインにどっしりと据えてるから、水科葵の歌の良さを存分に感じられる。
 でも、今回の響きの歌声は比較的最近生まれたものではないだろうか。音源より更に艶やか。きっと歌の世界観ができている。感情に直接揺さぶりをかけてくる美しさ。
 この情念の包容力、本当にすごい。順調にオトナの良い歌を歌うようになった、素敵な年の取り方をした声。さらっと聞きこなせない。
 落ちサビからラスサビへの積み上げ方は、もはや水科葵のお家芸。ヤバ過ぎる。
 古くから馴染んだ音、新しく生み出した音、まさに水科葵を形成する音で出来た唄。これからきっと何処までも変化するのだと思う。
 フェイクがエフェクトの雪を揺らす風になってる。
 ピアノの気合がすごすぎんか。間奏のピアノがヤバはる過ぎる。

 演出はとにかく雪を降らした事がとても強い。
 そして文学よりも、詩や句の趣にいくことで和の感じを出したのが、この歌の懐かしさに添っていて綺麗だった。
 カメラワークと相まって、もっとも演出が美しいステージだったと思う。

4.DALA-DALA

 イントロがめちゃくちゃオシャレじゃないか。
 ダルそうな歌声から、笑顔を、環境を、自分を組み上げていく過程で、声がどんどん整っていく感じがまぁ物語。
 ポップだけど、四曲の中で最も柔らかい。そして、前三曲でずっと温めてた楽の部分をここで出したからか、笑顔が眩しい。
 多分一番自分を甘やかすのが苦手だからこそ、願望すら込めてそう。だからこその「甘やかすのさ」と宣言になってたり、「窓を開ければ心地よい風が吹いて"くるだろう"」という未来形だったり、実は餡パフェ(unperfectの勝手な略です。公式ではありませんゴメンナサイ)以上に嫌いな自分を、頑張ろうとする自分を解放していく歌なのかもしれない。
「とにかく何もしたくない」の強さが言葉と相まって非常に印象的。落ちサビからの「食っちゃ寝 over and over again」の流れが楽しくて好き。
 それにしても、ここでようやくみずしーの笑顔が見れたというのが、見てる方も安心した。

 演出は、取っ散らかった部屋の中といった感じが大変いい。
 餡パフェが頭の中の散らかりなら、これは本当に部屋の散らかりを現すような。

総評

 歌に関するエフェクトを最大限切っていく。なんだったら、エコーもかなり最小限にしてる。
 演出も「色を取り戻す」という形だからこそかモノクロ調だから、派手さがなく最小限。みずしーの歌を聴け!と言わんばかり。
 MCもほぼ無い。いわゆるトークで掴みをとってきたジェムカンにあって、それを封印してる。
 本当に潔い。めちゃくちゃ潔い。なんだこの潔さ。
 本当にこの人は武士だと思う。
(というか、タイトル画像を撮ってたら4曲中3曲が脚だった。きっとあまり顔を写さないようにしていたのかもしらん)

 ライブで一曲ずつ聞いただけで、「この曲のこの部分は、こうやって変化しそうだな」「こういう歌い方もしてきそうだな」「ここ捻ってきそうだな」と妄想が止まないのは、これまでみずしーが多くのライブで魅せてきたパフォーマンスへの信頼感があるからだなと、思考の由来を考える。

 この五年間を歩みながら『アイドル』という立場に意識的に取り組んできた日々は多くの技術と力と絆をもたらし、彼女を強く創り上げ、ここに満を持して『アイドル』以外の姿で彼女は立った。元々持っていた面、あるいは積み上げてきた面を、新たに見せてきてくれるのが楽しみで止まない。
 というか、五年間を歌に踊りに、表現に捧げてきて、それでも自身の衝動を消すことなく、新たな地平から歩くことを決めた彼女は本当に、アーティストなのだと思う。
 初ライブから既に音源よりも歌い込みが進んでるのはどういうことなんだろうか。普通は音源よりも多少なりとも下手になっているのが普通なのに、歌によっては成長すらしている。貪欲が過ぎる。
 その貪欲な姿勢が、本当に眩しい。

 これからも、貴女の歌が聞きたい。

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