茗荷谷駅

 茗荷谷(みょうがだに)といういささかマイナーな駅をご存じだろうか。丸の内線で池袋から2駅、文の京という名の通り様々な教育機関が集う文京区にある小さな駅である。  
 丸ノ内線の中でも最古参となるこの茗荷谷駅には、地下鉄でありながら地上駅であるという不思議な特徴がある。東京23区は標高差が激しいために、丸の内線や銀座線などの歴史の古い、地下の比較的浅い部分を走る路線では地上に出てしまう駅がいくつかあり、茗荷谷もその一つというわけだ。その激しい高低差は同時に地形の美しさでもあり、豊かな緑と相まって東京の中枢でありながらどこか郊外の閑静な街のような風情を漂わせている。  
 そして私が中学高校の6年間を過ごした母校があるのもこの街である。誰にとってもそうかもしれないが、この時期は今思えば些末なものから自分の核となるような大切なことまで、あらゆる悩みを抱えていた。    
 今でも当時の記憶は鮮明に思い出せる。朝のいらだった人々をかきわけながらすし詰めの電車内へ滑り込み重い鞄を抱えて電車に揺られていると、なにも考えないように押し殺していても、不安定な対人関係、将来への漠然とした不安や焦りなどで心が曇っていく。
 しかし、新大塚駅を過ぎトンネルをぬけると、突如轟音が止み眼前に広い空が広がる。さっきまで一様にうつむいていた周りの乗客も一斉に車窓を見る。この、地下鉄の鬱屈した空気がはじけとぶ開放的な瞬間が好きだった。ぼんやりと沈んだ気持ちはトンネルの闇と一緒に吹き飛び、根拠のない期待感で胸をいっぱいにしながら改札をくぐればのどかな茗荷谷の街と共に新しい一日が始まるのである。

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