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砂漠にて

ここ一週間くらい、ほぼ砂漠にいる。
砂漠の写真も、もはや写真なんだかAI生成画像なんだかわからない。
広漠な大地を眺めていると、なんだかとても不思議な気持ちになる。

こんなところでも4Gが繋がり、東京の自室にあるA6000サーバーにアクセスできる。今の所、まだOpenOrcaの日本語訳と、Wikipediaから日本語のクイズを作るプログラムが元気に動作している。タスクが必要以上に増えると何もできなくなるからとりあえずこれでいい。月末までにはA100 80GBx11台のマシンが稼働できるようになる予定で、これはオープンソースコミュニティ向けに解放しようかと考えている。つまり、企業でも個人でも、成果をオープンにするならば無料または限りなく無料に近い金額で使用できるようにするつもりだ。ただ、A100は確保したが肝心のシャーシがまだ届かない。

もちろんABCIもあるが税金でできることは限られている。来年度Q3にはシンABCIとしてH100が4000ノードくらい立ち上がるらしいが、そんなに待っていられないし、予定通り実現する保証もない。そもそもそんな電源をどう確保するのだ。初期のABCIは電源問題でフルパワーで稼働させるとよくストールしていた。

僕の乏しい経験から推察すると、税金を投入する以上はそれなりの「効果」が求められる。しかもそれを議会で通さなければいけないし、議会を通した後も、業者を公募し、入札などをしなければならない。もちろん税金を使う以上は当たり前の話なのだが、それではいつまで経っても意味のある活動にはつながらない。だから自分の力でできるところまでは民間がある程度採算を度外視して取り組まなければならない。先の見えない未来に投資できるのは直感を持つ個人だけだ。

僕は今、会社組織というくびきから解き放たれているので、自分の時間と能力を好きなことに使うことができる。

今僕がやりたいのは、我が国におけるAI産業のアクセラレートだ。僕自身もプレイヤーだが、それ以上に全体のレベル感を欧米並みに上げていきたい。全体のレベル感が上がらなければ、日本はAI時代に間違いなく没落してしまう。たまたまこの時代に居合わせ、たまたまこの分野に詳しくなってしまった人間に課せられた一つの運命だと思って、我が国のAI産業の発達に貢献したい。

昨日、砂漠の真ん中で、奇妙な建物を見つけた。
立ち寄ってみると、それは自動車のコレクションだった。

様々な年代の様々な国の自動車が集められ、ピカピカに磨き上げられていた。これはこの地の豪族が集めたコレクションらしい。世界ひろしといえどもこれだけの車を並べている場所はなかなかないのではないだろうか。

多分、この豪族が相当な車好きだったのだと思うが、これを誰でも観覧可能な状態に維持していると言うのはなかなかすごい。

僕は金持ちではないが、こんな資産の使い方をしてみたいものだと思った。
人間には誰でも資産がある。鉄身の五体と、その頭脳、そして時間だ。

僕は今、国内のAI産業の発展に貢献する価値があると思っている。
いい加減なものではなく、「本物」のAI産業を日本に根付かせたい。そこには若い人たちがたくさん参入してきているが、日本の資本構造ではできることにかなりの低めの限界がある。

あえて日本でAI企業を作るメリットは三つある。一つは、人件費が安いこと。もう一つは土地が安いこと。最後の一つは、日本独自のデータが豊富にある、つまり文化資源が豊富であることだ。

海外に目を向ければ、実は生成AIに対して熱心なのは英国、フランス、カナダ、中国、中東なのである。意外かもしれないが、アメリカは後発だ。それはシリコンバレーが儲かりすぎていて、わざわざ生成AIみたいなリスキーなものに手を出す必然性がつい最近まで感じられていなかったのと、そもそもシリコンバレーには「ニセのAI」が多すぎて悪貨が良貨を駆逐する状態になっていたためだと個人的には思う。

「ニセのAI」というと聞こえが悪いが、言い方を変えれば「古いAI」と言うことになる。「古いAI」は生まれてから半世紀近い間、恐ろしく限定された範囲を除けば、ほぼ役に立たないものと思われていたし、それは今も変わっていない。しかし世にあるAIの学位はほとんど全てこの「古いAI」を勉強した人が持っていたものであって、最近流行りの「ディープラーニング」の学位を持ってる人そのものがかなり少ない上に、仮に今その学位を持っていたとしても、その知識はすでに時代遅れになりつつある。

「生成AI」と言う言葉は本質的に意味がないのだが、「古いAI」と区別する上では非常に意味がある。古いAIは原理的に何かを生成すると言うことができないからだ。

「古いAI」の代表がIBMのWatsonで、ディープラーニングブームの時にWatsonをディープラーニングだと勘違いして買った人たちが大量に発生し、「AIは役に立たない」と言う間違った経験を獲得してしまった。これが世界的な現象だったので、当然我が国も相当数「Watsonを導入したが役に立たなかった→AIは我が社では役に立たない」という間違った認識が広まってしまった。

実際には(最近の)AIはどのような分野でも大いに役に立つ。そして役にたつAIを作ることができるのは、日本ではスタートアップ(とYahooやCyberAgentなどごくわずかな例外)だけである。

なぜか?(生成AIでも使われる)ディープラーニングを中心とする学位を取得した人は、大企業の上層部にはまず存在せず、それどころかニューラルネットを役立たずの黒魔術と決めつけ、若い社員がどれだけ進言しても一向に取り合わない幹部が多かったからだ。

そんな組織が今頃慌てて「うちもディープラーニングやってます」と言っても、老舗の蕎麦屋が急にラーメン屋になったようなもので、ラーメンは明らかに、老舗よりもスタートアップの方が美味い。それは後発の方が圧倒的に有利だからだ。

今30代の人間が技術のトップをやってないような会社(つまり大半の大企業)は確実に生成AIに乗り遅れている。これはもう仕方ない。今の30代もギリギリだ。でも30代はギリギリ「機械学習」が見直され始めた世代であり、(ディープラーニングで使う)ニューラルネットの不可解な黒魔術もすんなりと受け入れることができる。これは理解力の問題ではなく、信仰の問題である。

僕なんかもう50手前だから、若者がワーキャーやってるのを遠くから眺めているだけだ。

ただ救いがあるとすれば、ディープラーニングを胡散臭い黒魔術だと思い込んでいた人が改宗するのは難しいだろうが、AIに全く興味を持っていなかった人、いわば「にわかAIファン」はすんなりとこの新時代の価値観を受け入れることができる。これは結果的に間口を広げるという効果を生む。

間口が広がれば、知恵が集まり、知恵が集まれば、それは叡智となって人類全体の底上げをすることになる。

それに何より重要なのは、結局はデータだ。
日本は「データ」を作り出すということに関して世界随一の能力がある。
ここに関しては工夫のしがいがあるはずだ。

まさにこの砂漠のように、工夫の仕方は無限大だ。
未踏の世界を征くが如く、日本のAIスタートアップには頑張って欲しい