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声の持つ魔法/倍賞千恵子「ぼくらが旅に出る理由」

まさか、あの曲がこんな風によみがえるなんて思ってなかった。

映画『GAMBA ガンバと仲間たち』の主題歌として公開された小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」。歌うのは倍賞千恵子。アレンジは高木正勝。これがほんとに素晴らしい。

ラジオで流れてきた曲を聴いてあまりに心動かされたので、映画を観に行った。『STAND BY ME ドラえもん』の白組が手がけたフル3DCGの映画は、ファミリー層向けのエンタテインメントとして、とてもウェルメイドな作品になっていた。それはそれで楽しめた。でも、この曲が流れるエンドロールが映画とはまったく別の作品として成立していて、それだけのために千数百円を払っていいくらいの価値があった。

エンドロールを手がけたのはアートディレクター・森本千絵。上の動画は映画のダイジェスト版PVになっているけれど、エンドロールではまったく違う映像が流れる。本編で冒険を終えて新たな旅立ちに向かったガンバと仲間たちが、切り絵になって映画のスクリーンを飛び出して「こちら側」にやってくる。そして、こんな風に歌われる。

遠くまで旅する恋人に あふれる幸せを祈るよ
ぼくらの住むこの世界では 旅に出る理由があり
誰もみな手をふってはしばし別れる

小沢健二が書いたこのフレーズに、倍賞千恵子のやわらかく優しい声で新しい魔法のようなものが宿った感じがする。「ぼくらの住むこの世界」という言葉に、原曲とはまったく違う意味合いが重ねあわせられる。

そして、この映画のポイントは、ガンバたちが暮らすのが「どこか別の世界」ではなく「2015年の東京」である、ということを強調していることにもある。映画のオープニングは東京の空の俯瞰映像から始まる。架空の世界と日常の“足元”がつながっているということも、ちゃんと描かれている。

そこが、歌詞の〈東京タワーから続いてく道 君は完全にはしゃいでるのさ〉というフレーズとつながっていたりもする。

そういうことも含めて、主題歌にこの曲を選んだこと、そしてシンガーに倍賞千恵子という人を起用したこと、そういういろんな文脈が、とてもジンと来たのです。

これ、配信でいいからリリースされないかなぁ……。


ちなみに。この曲はいろんな人にカバーされていて、その中ではフジファブリックと安藤裕子によるカバーがとても好きです。


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柴 那典

a.k.a シバナテン。ライター/編集者/音楽ジャーナリスト。自分がいいなと思った曲をメモ書きと共に紹介していくよ。

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