Avicii「SOS」と、生き残るということ

これは何度も、何度も繰り返し言ってることだけど、僕は編集者として、もしくは書き手として、「生き残る」という言葉を使うときには、すごく慎重に気をつけていることがある。

企業や組織については別だけれど、特に人を対象にした文章のときには「生き残る」とか「生き残れない」みたいな書き方は、できるだけ使わないようにしている。

そして、雑誌やウェブでそういう見出しを見かけたり、誰かの発言でそういうことを言う人がいたりしたら、注意深くその媒体や人とは距離をとるようにしている。特に自己啓発とかビジネス系の媒体には、たとえば「◯◯な人間じゃないと、この先の時代は生き残れない」みたいなことを言う人が多い。

もちろん、世の中を「サバイバル」とか「弱肉強食」という原理で捉える世界観を持った人たちがいるのはわかっている。人や組織や、いろんなものを「勝ち組」と「負け組」の二つにわけたがる人がいるのはわかっている。

でも、僕は「生き残る」とか「生き残れない」という文言を目にしたとき、いつも、死者のことを考える。

たとえば、すでに鬼籍に入った同世代の友人たち。過重にかかった負荷の中で、肉体か、精神か、自分を支える幹のようなものが折れてしまうような形で命を失っていった若い人たち。それから、才能の萌芽を見せていたり、もしくはすでに華々しくそれを発揮し活躍しつつ、敢え無く夭折を遂げてしまったアーティストたち。

そういう人たちのことを、僕は「生き残れなかった」とは思いたくない。

そういうことを踏まえて、改めて刺さったのが、昨年に急逝したAvicii(アヴィーチー)が残した新曲「SOS」。タイトル通りの一曲で、歌詞にはとても痛切な心情が描かれている。

Can you hear me SOS
Help me put my mind to rest
(聞こえないか このSOSが
助けてくれ 心から安心したいんだ)

アヴィーチーことティム・バークリングが2018年4月20日にこの世を去ったとき、彼はニューアルバムの制作をほぼ終えるところまで手掛けていた。

残されていた楽曲のデータ、メッセージ、メモ書き、その他もろもろをもとに、スタッフとソングライターはそれを完成させた。

それがシングル「SOS」、そしてアルバム『TIM』が6月にリリース予定。

ヴォーカルには「Wake Up」でもコラボレートしたアロー・ブラックが参加した。

以下のページのインタビューで、アロー・ブラックはこんな風に語っている。

「歌詞の中で、彼ははっきりと自身の戦いについて書いている。だからそこにアプローチして皆で共有するのは、とても重要なことなんじゃないだろうか。特に、彼の見方と彼のやり方で、多くの人たちの耳と心に届けることが。‘助けて欲しい’って言ってもいいんだと、皆に伝えるんだ」

極論、業界とか企業とか組織とか、そんなものは、それを立ち上げた人や受け継いだ人の情熱と意思が薄れたんだったら、畳んだっていいと僕は思ってる。ビジネスが人をすり潰しながら「生き残る」ことなんて考えなくていい。

でも、もしすり潰されそうな人がいるなら、そういう人が「生き残る」ことができるように、沢山の人が自分自身の戦いの中で「SOS」を言えるように、そうして社会に支えられて生をまっとうすることができるように願う。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

27

柴 那典

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。