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Kanye West featuring Paul McCartney 「Only One」/21世紀の「レット・イット・ビー」

12月31日、唐突に届いたカニエ・ウェストからの新曲。フィーチャリングはポール・マッカートニー。YouTube映像は公開されていなくて、視聴はオフィシャルサイトのみ。あとiTunesで購入可能。

http://www.kanyewest.com/

http://smarturl.it/Only1

本当にすごい曲だと思う。2015年最初の衝撃。何度も聴き返しているし、そのたびにグッとくる。泣ける。

ポール・マッカートニーはキーボード(オルガン)での参加。去年から秘密裏のうちにコラボが行われ、共作した中で最初に公開される曲なんだという。ニュー・アルバムには他にもコラボが収録される予定だとか。リアーナが参加したバージョンもあるらしく、とても楽しみ。

そして、何がグッとくるかって、この曲の歌詞なんだ。この楽曲は2007年に亡くなったカニエの亡き母ドンダ・ウェストに捧げるもの。というより、母親が天国から息子、そして孫へ送るメッセージを題材にしたバラードになっている。

イントロはこんな風に始まる。

As I lay me down sleep
I hear her speak to me
(あるとき、眠っていたら、あの人の声が聞こえてきたんだ)
Hello 'Mari, how ya doin'
(マリ、元気でやってる?)
So tell the voice inside ya head to believe it
(私はあなたの頭の中に直接話しかけてるの)
I talked to God about you, he said he sent you an angel
(神様はあなたに天使を送ったって言っていたよ)

※「Mari」はカニエ・ウェストのミドル・ネーム「Omari」から。「天使」というのは、娘のNorthのことだと思う。

そしてサビではこんな風に歌われる。

Hello my only one, remember who you are
(ハロー、私の“オンリー・ワン”。あなた自身が誰なのかを思い出して)
You got the world cause you got love in your hands
(あなたが世界を手にしたのは、あなたがその手に愛を持っているから)
And you're still my chosen one
(それにあなたはまだ私の「選ばれた人」)
So can you understand? One day you'll understand
(わかる? きっといつかわかるでしょう)

アウトロではこの言葉だけが繰り返される。

Tell Nori about me
(ノリに私のことを伝えて)

※「Nori」はNorthの愛称

最初から最後まで、亡き母が息子に語りかける言葉がそのまま歌詞になっているわけだ。

カニエのレーベルから発表されたコメントの中で、同楽曲の製作過程は次のように説明されている。

「2014年初頭、ポール・マッカートニーとカニエ・ウェストはロサンゼルスの小さな山小屋で一緒に制作を始めました。2人におけるシンプルなブレインストーミング・セッションから始まったその制作過程が『オンリー・ワン』を生み出したのです」
「その後、レコーディングに戻って演奏した際、素晴らしいことが起こりました。カニエは家族と共に座って、娘・ノースを膝に抱えながら自分が『ハロー、オレのオンリー・ワン…』と歌う節を聞いていました。するとその瞬間、自分がそんな歌を歌ったことを覚えていなかっただけでなく、その言葉が実はカニエ自身から発せられた言葉でもなかったのではないかと気づいたのです…」「そしてカニエは自分の師であり、聞き役であり、親友であった亡き母ドンダ・ウェストがいまでも自分を通じて語りかけているのだということが分かったのです」。

http://www.cinemacafe.net/article/2015/01/05/28468.html

つまり、この曲はポール・マッカートニーが書いたビートルズの「レット・イット・ビー」とまったく同じような背景を持った曲だということだ。ポールも、亡き母メアリーが夢にあらわれて彼に告げた言葉からあの曲が生まれたということを語っている。

When I find myself in times of trouble
(悩み苦しんでいるときには)
Mother Mary comes to me
(母なるマリアが僕を訪れ)
Speaking words of wisdom 
(知恵ある言葉をかけてくれる)
Let it be
(なすがままに)
「ある晩,僕は母親の夢を見た。彼女は僕が14歳のとき死んだから,彼女の声は長いことぜんぜん聞いていなかった,だからとってもうれしかった。それで僕は力が湧いてきて『僕が一番みじめなときにメアリー母さんが僕のところへ来てくれた』って文句が思いうかんだ」

(『ブラックバード ポール・マッカートニーの真実』ジェフリー・ジュリアノ著 伊吹 徹訳 音楽の友社刊 p141-142 より)


つまり、カニエ・ウェストの「only one」は、ビートルズ「レット・イット・ビー」と同じく「亡き母親が自分に大切なことを語りかける」というモチーフから生まれた曲で、だからこそポール・マッカートニーがフィーチャリングされていることにも、二つの曲をつなぐ大きな意味が生まれるわけだ。

名曲だと思う。(2/100)

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