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バーに集まる変人たちその日常

変人の集まるバー「バー末」
バースエ、と読む。なんという場末感。店長兼マスター兼店員の名前は「一末(いちまつ)」ちなみに28歳男。
なるほど一末の末ね。確かに一末の一の方から取ったら「バーー」絶対バーイチとかバーハジメとか読んでもらえない。あぁバーワンという手もあるか。ともかくこの物語の主人公一末はバーの名前をバー末にした。そしたらどうしたことかこの場末にぴったりな人間が毎夜訪れるようになった。

「今日もこれだよ、おかまは毎夜安酒を求めて這いつくばって来るし、今日目の前に座ってるのは脂ぎったおっさん。あーおっさん、間違いなくおっさん。ちょと後頭部やばくね?良い粉あげよっか。麻薬じゃねーよ?いや、麻薬みたいにどんどん求め始めるかもな。そうこれ、ハゲ隠しの粉!ちょっと振りかけるとこのよーに!後頭部のサバンナがオアシスに!」

バー「バー末」このバーの特徴は客がマスターに喋るのではない。基本的にマスターの一末が喋りまくるのである。しかもそこそこ毒舌。毎日来ているオカマは慣れたもんだが、初見のおっさんはちょっと引いている。マスターの前のカウンター席に座ったのを後悔したかもしれない。それとも、おっさんと言っても見た感じアラフォーのおっさん。おっさん呼ばわりが癇に障ったか。

「おっさんだけどさ、おっさんって言われると傷つくわー。自分で言うのはいいけど、若いにーちゃんにおっさんって言われるとくるわー。しかも誰がハゲじゃい!でもその粉は試させて」
確かに不毛地帯というほどハゲてない。ちょっと密度が減ってきた程度だ。

「じゃあさ、オニーサン。あんたのお名前伺ってもいーかしら?アタシあんた好きよぉー?」
オカマはボックス席から獲物を狙う目つきで出てきておっさんの隣に座った。
おっさんさらに引いている。

「あー大木だけど…」
「大木さぁん、あんたキレーな目してるのねぇ、大きいし。明るい茶色ね」
おっさんに迫るオカマ。本気の目だ。唇を突き出して。おっさんもはや半笑。


「ウェルシア、この店に人が来ないのはお前のせいじゃないかって毎晩思ってるよ!いつもいつも初見の客口説きやがって。つーか守備範囲どうなってんだ。アレがついてりゃどんなでもいいのか!?で、大木さん何飲む?」
詰ったと思ったらケロッと真顔に戻ってオーダーを取る。一末という人間は読みにくい。
大木はジントニックを頼んだ。ウェルシアは聞かれてもいないのに自分の性癖についてベラベラ喋っている。誰でもいいわけじゃないのぉ。でもどこか一箇所だけでも見所があればいいの。指が長いでも背が高いでも声がいいのでも。その点この人は背も高くてガッシリしてて顔も悪くないわぁ。などと好き勝手言っているが誰もほぼ聞いていない。
一末は酒を作りながらさらに喋る。


「でさ、大木さんどうしてこんなバーに来てくれたんです?」
大木は元々甘くはない顔を渋くさせた。
「いつも行ってるバーに行く気分じゃなくてね。あそこにはいい思い出が多すぎる」
一末もウェルシアもいつものマシンガントークモードから聞くモードに切り替えた。
「30代半ばまではよかったなぁ。仕事も色々成果出して、今の彼女と出会って暮らし始めたりさ」
一末が大木の前にジントニックが置かれる。大木はそれで喉を潤しつつ続ける。
「でも最近は上手くいかなくてね、営業成績も落ちて、それは俺だけの問題でもなく会社の問題でもあるんだけどさ。俺ね子どもが欲しいんだわ、でも彼女はけっこうガッツリ仕事しててさ、お互い欲しいんだけどできなくてさ、彼女にだけ仕事辞めろって、したいことやめさせるのも違うと思うんだよ。まぁそんな感じでウダウダ思うことがあって知らない場所で飲みたくなったんだよ」
無理に話をまとめるように大木は話を切った。


「そうねぇ、毎日悩みはつきないし嫌なこともあって、でも誰もなにもしてくれないの。王子様は現れないの。だから自分で全部なんとかするしかないのよね、頭擦切れるほど使って体使ってね」
大木は緩く何度も頷いた。
しかし、ゆるっと流れる穏やかな空気を一末は平気で破壊する。そういう奴なのである。
「俺さ、元々ここでじいちゃんがおでん屋やっててさ、で、じいちゃんが引退するってんで改装してバーにしたわけ。もう昔々からここに店あるからテナント料とかは払ってなくて、経費と言や酒代、つまみの仕入れ代に電気代とかまぁそんなもんで、そんなもんなんだけど全然客が来ないもんでもう生きてるのが不思議なレベルでビンボーなんだけどさ、割と嫌いじゃないんだよね今の生活」
店の梅酒を飲みながら一末は何も考えてないように言う。多分ホントに何も考えてない。
「あんた幸せよねぇ。幸せそうだもん。アタシあんたのそんなところが好きなのよぉ」
一末に手を伸ばすウェルシア。それを一末は容赦なく払い落とす。
やさしくないのに居心地が良くて大木はゆっくり目を閉じた。


彼は何を思うのか。

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shibako

京都の美大生やってました。現在web関係の者。シナリオなりコラムなり色々書いていきます。
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