煮え切らないことしか言えないのがキャリアの本質。
…ってわたしは思う（いやわたしだけじゃないはず）。

でも、世間で注目を集めるのはだいたいにおいて、はっきり決めつける言説のほう。昔から書店には「20代で～をしておけ」「30代の正しい過ごし方」「40代、今すぐ～をしないと手遅れ」「50代、～をする最後のチャンスだ」「60代から始めるベストな～」みたいな本が山積みされ続けているから、売れるのだろうね。

最近ちょっと私の界隈で「キャリアの9割は20代で決まる」って主張が話題でざわついている。個人的にどこから突っ込めばいいかわからない。ま、それはそれとして、

とはいえよく聞かれるのだよ、この手のことは。

・ここから5年後に正社員になりたいので、どんな資格を取れば有利か
・考えてもいなかった内容で転職オファーが来ている。これは乗るべきか。
・次の転職で最後にしたい。このあと一生続けられる仕事はなにか
・●●業界に就職したいので、大学１年の今やるべきことを知りたい
・柴田さんが読むべきだと思う本を教えて　←ざっくりすぎ（笑）

「わたし失敗したくないんです」「失敗が怖いんです」という言葉とセットだったりすることも、少なくない。

当然「ああ、それは〇〇ね！」と即答できることなど一つもない。
本人がどう生きてきた人か、どう生きていきたいのか、そこに向けてどのくらいのリスクが取れるのか、どの程度本気なのか、今どんな環境にいて、何を思っているのか、なぜそんな問いが生まれたのか…それによっても全然違う。簡単じゃない。

たしからしい一般論、ってやつはもちろんある。
だが、その言われている一般論が10年後に通用するかどうかなんて、誰にもわからない。だから一緒にいろいろ考えてみる。いつだって毎回手探りだ。とても決めつけることなどできない。

話は変わるが、高校生や大学生に活躍している社会人が話をするという授業（キャリア教育）がある。そこでの話を聞いていると、その社会人の皆さんは「高校生の頃にこんなことをしてきたのがよかった。大学生ではこういうことで頑張ったから今がある」みたいな話をされる。まあ先生からもそんなテーマでリクエストされるからね。それを聞いた学生や先生は「ほらね。やっぱり社会で活躍している人は、昔からちゃんと〇〇していたよ。だから…」みたいにとらえる。

でもそれ、わたしは結構な「後付け」だろうと思っている。社会人が嘘をついているわけではない。ただ「今の自分があるのは、高校時代どんなことをしてきたからですか」と問われると、問いに合わせて思考が動いて、昔の（当時なんとなくやってきただけのことを）意味付けするようになるからだ。そのうち自分でも「そういうことだったな」と心から信じるようになる。それは別に悪いことではない。ただ、ほんとうにそうだったかというと「後から生まれた物語的真実」である可能性が高いと思っている。

でもそういう言葉を聞くとみな、キャリアというものはそうやってあらかじめ準備して動いた人のところに輝く、みたいに考えてしまう。決してそんなことではないのに（そんな場合がないわけではない）。
そんなこと言ったら、わたしなんて、今ここにこうなるために20代の最初の2年、最低のポンコツ営業職であることも、その後部下に対して酷いチーフだったことも、初の産休も「狙ってやった」ことになる（笑）。もちろんそんなわけない。偶然の積み重ねだ。その場の動き方、次へのつながりにポイントはあるけれど、それは今をゴールとして、そこめがけてそうしてきたわけではない。個人的には超ジグザグの出たとこ勝負のキャリアなので、余計そう思うのだろうけど（これもまあ、n=1の話）。

人はみな、自分の体験、自分の知見の範囲で「これだ」と思うものを信じがちだ。そうなると風景はその「これだ」のメガネ越しに映って見えてくる。でも当該のその人も、10年後には違うことを考えるものだよ。そんなことはあったりまえのことだ（だから若くて勢いのある人ほど、断言しがちな傾向があるなと思ったりする）。

何度もいうけれど、キャリアには唯一の正解などない。
ただそのときどきで、有利か不利かっていう環境適応度合の差があるだけだ。ただしその状況だって固定のものではない。ただ、今ここにあるものにあわせることを事業として行っている人（たとえば人材紹介事業とか）にとっては、ある種の「あっせんしやすい（＝ニーズの多い）人かどうか」の正解があるだろう。でも、わたしのような野良キャリコン（笑）にとっては、一人一人のオリジナルのキャリアの課題に向き合うことが、本質だと思っている（それが超難しくてやっかいであることもわかっているけれど）。

したがって、これからもいい素材を鍛え上げて高く売る（？）みたいな世界はお任せして、わたしはごちゃごちゃして煮え切らない世界にどっぷりつかっていこうと思っているからね。難しくておもしろいこの世界に。

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