フィンテックはどこから来たのか?

はじめに

「フィンテック」という言葉を聞いたことはありますか?最近、新聞や雑誌はもちろん、テレビでも「フィンテック」という言葉が目につくようになりました。しかし、「フィンテック」とは何か、自分自身の生活にどんな影響を与えるのか、具体的にイメージできる人は少ないのではないでしょうか。

私が代表取締役CEOを務めるウェルスナビ株式会社は、「社員の過半数がエンジニアの金融機関」という、日本はもちろん世界的にもユニークな企業です。そのため「フィンテック起業家」として、経産省、三井住友銀行、みずほ総研、三菱UFJフィナンシャルグループ、東京都、新日本監査法人のイベントなどで話しており、ほぼ月1回のペースになります。

しかし、当の私自身、「フィンテック」とは何か、よくわかっていません。それどころか、「フィンテック起業家」と呼ばれると、居心地の悪さすら感じます。

1年半前に起業した理由は、日本はもちろん海外でも胸を張って展開できる、世界水準の金融サービスを作りたかったからです。金融サービスのあり方を180度転回させ、顧客(ユーザー)にとって最適なサービスが誰でも当たり前に利用できる未来を創ろうと思ったからです。

それが、現在のブームの中で「フィンテック起業家」と呼ばれると、単に「時代のブームに乗ってフィンテックをやりたかった人」と揶揄されているような気分になるのです。きっと、このノートの読者の中にも、行内や社内で新規事業を提案するときに、私と同じような居心地の悪さを感じている方もいるのでないでしょうか。

しかし、だからこそ、「フィンテック」に正面から向き合い、考え、発信する必要があると考えるようになりました。「フィンテック」はやがて、中身を伴った世の中の大きな流れになります。「フィンテック」による日常生活の変化を日々実感するような将来がすぐそこまで来ています。

その最前線で何が起きているのかを、「Fintech- フィンテックに詳しくなるノート」で綴っていきます。

フィンテックはどこから来たのか

私はウェルスナビを起業する前は、マッキンゼーというコンサルティング会社で、主に金融機関向けのプロジェクトを担当していました。マッキンゼーのニューヨーク・オフィスには、金融部門だけでも、私を含めて600名以上のコンサルタントが所属しており、ウォール街はもちろん、全米の金融機関のプロジェクトにチームを派遣していました。

2013年春に、アメリカ最大手の銀行向けのITプロジェクトを担当したことがあります。毎週、世界30ヶ国から抜擢された100人以上が電話会議に参加するような、銀行の将来を担う一大プロジェクトでした。しかし、そのような最先端の金融ITプロジェクトでも、「デジタル化」(digitization)という言葉がキーワードとなっていて、「フィンテック」という言葉は使われませんでした。

それどころか、当時の「デジタル化」のプロジェクトと現在の「フィンテック」はつながっていない—この二つの間には完全な断絶があるように感じます。というのも、発想からプロジェクトの目的や進め方まで、根底から異なるのです。

では「フィンテック」はどこから来たのか?その問いに、「フィンテック」の本質を理解するための大きなカギが潜んでいます。

その答えは、米国最大の銀行のJP Morgan ChaseのCEOを10年以上の長きにわたって務めるJamie Dimon の株主宛て書簡にあります(2015年4月18日付、29ページ)。

Silicon Valley is coming. There are hundreds of startups with a lot of brains and money working on various alternatives to traditional banking. […] We are going to work hard to make our services as seamless and competitive as theirs. And we also are completely comfortable with partnering where it makes sense.”
シリコンバレーがやって来る。何百ものスタートアップが優秀な人材と資金を集め、伝統的な銀行業に代わる様々なサービスを作っている。(中略)我々も、スタートアップに劣らぬ、円滑な顧客体験をもたらす競争力のあるサービス作りに取り組んでいく。その際、スタートアップとの協業が合理的であるならば、それに対する心理的な抵抗感は一切ない。」

(ところで、このDimon書簡全体を読まれたコンサルティング業界の方は気づいたと思いますが、書簡のあちこちにマッキンゼーの匂いがします。その理由については、機会があるときに解説しようと思います。)

アメリカの金融機関は、特に1980年代以降、莫大なIT投資を行ってきました。その中でも、JP Morgan Chaseのリテール部門は、中西部の地銀だった1980年代から、ITを活用したイノベーションに積極的なことで有名です。

他の金融機関ならともかくJP Morgan ChaseのCEOが、わざわざ「シリコンバレーがやって来る」と語ったということは、アメリカの金融機関のこれまでの取り組みと「フィンテック」が全く異質なものであり、「フィンテック」が金融機関の死角から出現したことを意味しています。

では、なぜ今、シリコンバレーがやって来たのか。次回は、その理由を考察します。

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