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デキる男の悲劇

ファイヤーエムブレムをご存知だろうか。

ファミコンのソフトとして任天堂から発売され、その後ずっと根強い人気で続編が作られているシミュレーションゲームである。

初代作は、中世の剣と魔法の世界を舞台に、マルス王子が様々な能力を持つの戦士たちを集め、敵を打ち倒すために進軍するというものだった。

そのなかにオグマというキャラクターがいる。

オグマはマルス王子の恋人であるシーダ姫の護衛隊長に任じられている傭兵で、実はシーダ姫に想いを寄せているという設定もある。

で、このオグマ、戦っているうちにレベルアップする際のステータス上昇率が、周囲から頭ひとつもふたつも多い優等生で、何度遊んでも最終的に殆どの数値が上限値に達する。

FEは、彼らキャラクターを将棋の駒(ユニット)のように使って戦略的に進めていくのだが、やたらすばしこくなったオグマは敵の攻撃をほとんどかわし、お返しに通常の倍のダメージを与える「必殺の一撃」を2回に1度くらいの割合で放つため、彼を最前線に出してほうっておくと、敵が勝手にオグマに襲いかかっては反撃を受けて消滅するようになる。

大げさな話でなく彼一人だけで1ステージに登場する敵の全員を屠ることができるようになる化物ユニットなのだ。

こうなると、プレーヤーも、おそらく周囲のキャラクターも「オグマがいればいいんじゃね?」という気持ちになって、ゲーム後半は、敵軍のまっただ中に1人で切り込んで、ひたすら剣を振るうオグマの姿が主な風景となる。

ゲームとしては当然かつ必然の展開ではあるが、自分の化け物じみた強さ故に、味方からずっと離れた場所で孤独な戦い続ける彼を、毎度哀れに思う。

強くたって1人は心細いもの。何かのはずみに致命傷を食らったら助けが必要なはずだ。

近くに気休めの味方ユニットを1人くらい配置してやろうにも、オグマが立つような前線に普通のユニットを置いたらすぐに殺されるので、ほとんどのユニットはスタート地点から動かずに待機状態になる。その中心で彼の愛するシーダ姫は、恋仲のマルス王子とイチャついていることは想像に難くない。

正義と義理と叶わぬ恋とプレーヤーの手によって、敵の血で染まるオグマの心中たるや、いかほどのものだろうか。

さらにFEでは、エンディングまで生き残ったキャラクターの後日談がわかるのだが、オグマは「彼もまた戦のあと姿を消した…」とだけ語られている。(スーパーファミコン版)

誰がプレイしても快刀乱麻の大活躍をしているはずなのだから、平和になった国の大英雄として幸せな暮らしをしていても全く不思議ではない。全く動かなかった別の傭兵は、ちゃっかり傭兵隊長におさまり結婚の噂さえあるというのに…。

しかし、その国を治める王となったマルスと、その后に収まったシーダ姫のもとで過ごせというのも無理な話である。

まったくもって不遇の天才であり、世の中不公平だと言わざるをえない。

以上のような話は、世の中の、ちょっと要領の悪い優等生や有能社員がよくこぼす愚痴のそれに似ている。

自分が有能だと感じたら、もう少し周囲を見回して手を抜いたり敢えて助けを出さないようにすることが団体として上手にやっていくコツだと、味方陣営で"待機"のまま戦争が終わるのを待つメンバーの1人であろう僕は思う。

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