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第68回日本伝統工芸展に行ってきた。人間国宝〜大谷早人さんの講演感想〜

親が通っている木工クラブが香川県の香川県立ミュージアムで開催中の「日本伝統工芸展」に行くとのことで、一緒についていった。

木工クラブのメンバーは人生のベテランレベルに属する方々。みなさん、彫りや絵やそれぞれに精通していて、その歴も40年とかそういうレベル。なので展示を回っている時も、色々と教えてくれる。
例えば、木工芸に今年は珍しく楓の木が多く、これまでとトレンドが変わったこと。木工作品の味わい方。香川の漆芸の歴史や技法について。常連の作家さんについては、今年はどんな作品を出しているのかを楽しみにしている、などなど入場料650円以上に楽しんだ。この展覧会では人間国宝の作品も45点も展示されていて、着物や茶釜などもあった。

この日を選んで伝統工芸展に行ったのは、人間国宝大谷早人さんの講演会があるからだと、リーダーが教えてくれた。テーマは「籃胎蒟醬(らんたいきんま)―僕と太田先生との思い出―」。大谷さんの師匠であり、同じく人間国宝の太田儔(ひとし)先生との思い出がテーマだ。
なんと二人の出会いは大谷さんが12歳(小6)のとき。その時太田氏は教師として男木島(瀬戸内海の島)に赴任してきたそうだ。
その頃は、夜になると学生は先生たちの家に遊びに行き、トランプをしたり、話をしたり交流していたという、なんともすてきな習慣があったそうだ。(多くの先生は月〜土を島にて単身赴任するため)。その時に太田先生尾宅で見た漆芸に心を打たれた大谷少年は、以降魅了されつづけている。

太田氏が教師だったこと、その後作家として成功されたことも感動的だったけれど、少年大谷氏の感受性や、その後何十年も太田氏が亡くなられるまで共に生活をし修行されてきたことにも感動。

漆芸と言えどもその技法は色々ある。二人は「籃胎蒟醬(らんたいきんま)」という技法の人間国宝。その魅力についても語ってくれた。多くは省略するが、木工の技術、竹細工の技術、塗の技術ともにマスターしなくてならない上に、太田氏が発明した点描のような効果を出す「布目彫蒟醬」は、1mmの中に3本の彫り線を網目のように入れて、漆を流し込み、研ぐことを繰り返すという、気を失いそうになるほど手間と技を必要する。伝統という技の中でも、新しい手法を開発し進化し続けていることに感動を覚えずにはいられない。もちろんそれは相当な技術をもっていないとできないことで、これってやっぱりそこに到達した人にしか見えない景色なんだろうな。

モチーフについても面白いエピードがあった。インスピレーションの源は日々の生活の中にあるという。なにもすごいところから神のお告げが降りてくるわけではないのだ。今回の展覧会に出品した籃胎蒟醬油飾箱の「茜」は、幼少の頃に過ごした男木島の夕日がモチーフだそうだ。最近は故郷にも住処をもうけ瀬戸内海に沈む夕日などを飽きずに眺めているのだそう。その自然の美しさからもらった感動が一つの作品になった。

トップ画像ともに:籃胎蒟醬油飾箱「茜」引用元:https://www.pref.kagawa.lg.jp/kmuseum/kmuseum/tenji/tokubetsuten/dentnou_68.html

籃胎(らんたい)の特徴はボディを竹で編むのだけれど、素人の私は最初耳を疑った。竹を取りに行き(しかも真竹限定)幾度も割って薄い皮上にして、更にそれを編んでボディを作るという。「手間かかりすぎ!木工だとダメなんですか??」と半泣きで心の中で尋ねた。
大谷氏がボディに求めるものは、軽くて薄いのに、頑丈で壊れなくて、何十年たっても形の狂わないものだという。その理由は太田師匠から受け継いだ思想というか哲学に根ざしていた。「資源の少ない日本には大量生産、大量消費のライフスタイルは向かない。代々伝えていくのが日本の生活文化なんです」。これには心を打たれた。一時流行った「もったいない」という言葉も、はじめて一つの円として理解できたような気がした。竹は他の木材と比べ経年による収縮率がなんと1/10だという。

「茜」の造形は竹編みの特徴である、造形が柔らかくなりやすい、時にはとろんとした印象になりやすいところにメリハリをつけるために上部に稜線を描いた意匠にしているそうだ。

最後に漆器の良さも教えてくれた。しっかりと水分を拭いて保管することさえすれば、普通に洗剤の着いたスポンジであらっても問題ないそうだ(食洗機と乾燥機は避けたほうがいい)。逆に環境ホルモンを含むウレタン食器よりも遥かにメリットがある。漆は殺菌作用、熱さや冷たさが外につたりづらく(手に持っても熱くないし、料理も冷めないなど)、体にもよく、軽くて丈夫なのは、ジェネレーションを超えて使えるほど。もうこれからは椀物は漆にしようと心のなかで決めたほど感動した。



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