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プロボノは、会社の鎧を外して、素の自分で見てもらえる場所

ゲスト/西山 典仁さん(人材開発会社勤務)・北場 彰さん(製薬会社勤務)

放送日/2016年4月5日(火)

―― 火曜日の総合司会を担当させていただきます、嵯峨 生馬(さが・いくま)といいます。

火曜日のテーマは「コミュニティーソーシャル」というテーマを立てておりまして、今日一日、地域や社会課題の解決に向かっているようないろんなNPOの活動をご紹介したいと思います。

最初の1時間目は『渋谷のプロボノ部』という番組になっています。

“プロボノ”という言葉、まだまだ耳慣れない方も多いかもしれませんが、これは “公共善のために”という意味を持つラテン語からきています。社会的な活動のために、ご自分の仕事のスキル・経験・ノウハウを生かして社会貢献をしていく活動を“プロボノ”といいます。

プロボノはボランティア活動の一種です。イベントのお手伝いですとか、海岸清掃ですとか、いろんなタイプのボランティアがありますが、プロボノは、例えば営業マンの方だったら営業の仕事をしている、ITの方だったらITを使った何か企画をしたり開発をしたりする、ウェブデザイナーの方であればウェブサイトのデザインをすると、こういった普段の仕事のスキル・経験を生かして、ボランティアをしていく活動のことです。

申し遅れましたが、私は『サービスグラント』という、渋谷1丁目にあるNPOの運営をしています。サービスグラントでは、プロボノを通じてNPOを応援する活動に取り組んでいます。サービスグラントには今、累計で2,700人のプロボノワーカーとして活躍するボランティアに集まっていただいていまして、これまで約400以上のプロジェクトを行っています。

たくさんのプロボノワーカーの皆さんたちにお集まりいただいているサービスグラントですが、プロボノのおもしろさ、難しさ、醍醐味というのは、実際に経験されたプロボノワーカーの声を聞くのに越したことはないだろうと思います。今日から『渋谷のプロボノ部』では、今日このあとも出勤をされる方に朝、このスタジオに立ち寄っていただいて、普段、会社の仕事とは別にボランティアとしてご自分のスキルや経験を活かしてプロボノするという経験をされていらっしゃいますので、実際どんな経験をされてらっしゃるのかをお聞きしていきたいと思います。

この『渋谷のプロボノ部』で毎回、聞き手としていろいろなゲストの方に鋭い質問をしていただきます。北場 彰(きたば・あきら)さんにスタジオへお越しいただいています。よろしくお願いします。

北場:よろしくお願いします。私は長年プロボノをやってきております。嵯峨さんの感じるところと違うところもあると思いますので、そういうところを生かしながらインタビューしていきたいなと思っています。

―― 北場さんおいくつですか?

北場:実は昨日45歳になりました。

―― おめでとうございます。

北場さんがお勤めの会社は、どういった会社で、どんなお仕事されてらっしゃいますか?

北場:外資系の製薬会社に勤めております。今までは営業とかマーケティングを中心にやってきております。

―― そして今日のゲストでお越しいただいたのは、西山 典仁(にしやま・のりひと)さんです。

西山:よろしくお願いします。

―― 西山さんになぜ第1回にお越しいただいたかというと、『渋谷のラジオ』のスタジオから、ものすごく近いところに働いていらっしゃるということもありまして。

簡単な自己紹介をしていただいてよいでしょうか。

西山:セミナーとかコンサルティングをやっている人材育成会社で、マーケティングですとか、広報の仕事をしています。

―― ありがとうございます。ということで、お二人に、特に今日は西山さんに話を聞いていきたいと思うんですけれども、西山さんは、プロボノに関わったのはいつ頃からですかね。

西山:約2年前からですね。実は嵯峨さんの講演を聞いたのがきっかけなんですけども。西武百貨店の方で、『シブヤ大学』の方で。

今43歳なんですけども、40歳というと人生の節目ということで、いろいろ模索しているときに、ちょうど嵯峨さんの講演を聞いて、プロボノっていう存在を知ったのがきっかけです。

長くなってしまうかもしれないんですけど。学生時代から、社会貢献みたいなのには興味があって。NGO活動みたいなのは参加したりして、タイへのスタディーツアーとか、何かしら社会的な貢献をしたいと思ってました。

ただやはり仕事が、20代忙しくなったりですとか、あとやっぱ30代になると結婚して、2人子どもがいるんですけれども、子育てで忙しくてボランティアを遠ざかっていたという形です。

―― 40歳ちょうど過ぎる頃になって、いろいろ考えたと仰ってたんですけど、もう少しそこを深掘りするとどういうことを考えてたのですか。

西山:40歳というと人生の正午という感じで、午前と午後の中間になるのかなということで、自分の将来のキャリアといいますか、生き方を悩んでいたという時期と、下の子がちょうど保育園が終わってですね。30代は子育て、仕事、家事のバランスで苦労していたのですけども。それがようやく一区切りつきそうだというところで、何かしら自分で模索していきたい時期でちょうど40歳だったというところです。

―― 仕事は当然最優先なので、そこに時間を割かなきゃいけないわけですけど、少し落ち着いてきて、何か新しいこと始めようと思われたのですね。

西山:仕事が落ち着いたというよりは、いろいろ模索していきたいなっていうところで、仕事とのバランスをとれるような。仕事の方も、ある程度慣れて経験を重ねてくると、バランスがとれてくると思いますので、上手く時間を見つけて、ボランティアにも投じる時間を自分で見出してったという形です。

―― もう一つ、西山さんは、就職されてからずっと同じ会社ですか? それとも転職をされたりしているのですか?

西山:最初は金融機関のほうに勤めてまして。実は海外にずっと行きたいと思いまして、外国為替の専門銀行に勤めたのですけども、勤めたあとアジア通貨危機とかあったりして、海外に行くチャンスがかなり少なくなってしまいました。それで30歳手前で転職しまして、今の会社に勤めました。

北場:ちょっと僕質問していいですか。嵯峨さんにまず確認なんですけど、先ほどおっしゃった2,700人のプロボノワーカーの大体の平均。38歳から40歳ぐらいだと聞いたことあるんですけど。それから最近では低年化しているのか高齢化しているのかっていうのを教えてもらいたいと思います。

―― サービスグラントが始まった当初は、20代後半から30代前半までの方が圧倒的に多かったんですね。それから、女性の方が若干多い形だったんです。これが2009~2010年ぐらいになると、男女比が逆転して、男性が6割ぐらいになってきたということ、それからここ3~4年は、40代~50代の方が増えてきたと思うんです。平均年齢をとると、少しずつ上がってる方向と思うんですね。

その前は20代~30代の方は独身で、割と時間も余裕があって、余暇の時間を使って社会活動に参加する感じだったんですけど、西山さんのように子育てをされてらっしゃって、御家庭もお持ちで、バランスってよく皆さん言われるんですけれど、旗から見るとすごくお忙しそうな方が、プロボノに参加されるのをよく見るようになってきましたね。

北場:先ほどの発想から言うと、西山さんがお考えになられた40代ぐらいからターニングポイントとして考えられて、チャレンジされる方が多くなっている感じですね。

西山:周りを見ていると、先が見えないといいますか。会社に依存という生き方もあったと思うんですけれども、やっぱり価値観がいろいろ多様化してきているのを感じます。女性の方が最初プロボノが多かったということなんですが、やはり男性の方が仕事1本だったところから、徐々に会社にいながら社会貢献というのを考えたすような時代の流れと、年齢的なものというのがちょうどクロスしているのかなと思いますけれども。

―― 先ほどからたびたび“バランス”という言葉が出てくるんですけど、西山さんにおける、会社だけだとバランスが悪いというか、どうして社会的な活動をすることで、バランスをとらなきゃいけなかったのか、お伺いしていいですか。

西山:会社だけだと視野が狭くなるというか、会社の中でもいろんな人と付き合うきっかけあると思うんですけど、まったく違うんですね。素の自分を通じていろんな人と知り会いたいなというのがありまして。

正直なところ、会社ですと鎧といいますか、スーツをまとっていると、自分に対して、もしくは会社に接してくれてるのかがわからない部分があって。人によってはそれが50/50(フィフティ・フィフティ)だったり、もしくは自分に好意をいただけているかもしれないんですけども、ひとたび、私の親父世代ですと、会社に魅力を感じて付き合っていた人が多いかなと。その会社を定年したあとは年賀状が極端に少なくなって、友達も少なくなってしまうことがあると思うんですけども、プロボノというのは、素の自分で見てもらえるところが魅力でした。

北場:たしかに。名刺がなかったときに自分が通用するのか、自分の仕事が、まったく違う境地に行ったときに本当に認めてもらえるのかを確かめてみたい方が多いですね。

―― 西山さんご自身のプロボノの経験を少しお伺いできればと思います。

西山:最初のプロジェクトからリーダー役として、障害者の方が、車いすのバスケットなどのスポーツを小学校の授業の中で広めていくという、熱心にNPO活動されてるところの、ウェブサイトを作る責任者を任されました。当初半年と言っていたんですが、結局1年2ヶ月ぐらい伸びまして、本当に紆余曲折あったんですが、いい経験させてもらったなというのがあります。

―― 本当にいい経験でしたか?(笑) 具体的に、どう苦労されたのでしょうか。

西山:ホームページの対象を誰にするかというところです。小学校の授業で行うことが多いのですが、子ども向けのウェブサイトでもないですし、親向けというのか、もしくは、授業ではある程度学校側にお金が発生するのですから学校の先生向けなのか、教育委員会向けなのか、という対象をどこにするかをすごい悩みまして、それで半年ぐらいいろんな人にヒアリングをして、結局、親向けと学校向けと2つ見れるような形にしたんですが、その辺はかなり苦労しました。

―― 先ほど「いい経験させていただきました」っておっしゃいましたが、約1年2ヶ月の難航したプロジェクトでどんな紆余曲折があったのか教えてください。

西山:最初は皆さんやる気満々なので、半年ぐらいはメンバー7人が一致団結して進んでいて、調査もメンバーが昔の恩師まで連絡をとって、学校の状況はどうなのかとかも聞いたりとか、関係者にもヒアリングをして、調査の段階ではすごくみんな燃えてました。しかし、だんだん実際のウェブサイトを作ることになったときに、メンバーが忙しくなってきたりとか。半年を越えてくると、職場でもプロジェクトは変わったりとかで、ボランティアに携われなくなってたり、皆さんのモチベーションおよび時間的な拘束があって携われる時間が少なくなってきて、雲行きが怪しくなってきたところがあります。

―― プロジェクトが長期化すると、最初のモチベーションもちょっと下がってくる。こういうとき、どうされたんですか?

西山:専門分野のウェブデザイナーとか、コピーライターの方とか、他の人がカバーできない領域がありまして、そういう人がちょっと忙しくなって何もできなくなってしまうとプロジェクトが一気に停滞してしまいました。

本当に専門家の人が何もできなくなってしまったものですから、別の人を見つけて、手伝ってもらったという形になりました。

―― いまから振り返って、あのときどうすればよかったとか、気づきにつながっていますか。

西山:できる限りのことは自分でやったつもりです。ピンチヒッターみたいな人が、特に専門家のときにはいてもらったほうがいいなと感じました。今後プロボノ全体を考えたときに同じようなケースが発生してくる可能性もあると思うので、そういったときに生かす経験になってくればいいかなと思って、自分のモチベーションを無理に振るい立たせたというところがあります。

―― そのプロジェクトのあと、ほかにもプロジェクトをやってらっしゃいますよね。

西山:“1DAY(ワンデー)プロボノ”といいまして、1日でプロボノを終えようというような企画があり、その中で、東京都日野市にある「ひの市民活動団体連絡会」というところが、日野市の住民とNPOとをつなげるイベントのためのチラシをつくるところで、その内容案を1日でまとめ上げるプロジェクトに携わらせていただきました。

―― “まち活”と書いてありますけど、具体的にどんなことなんですか。

西山:これは、日野市にあるNPOの人も住民と意外に関わるきっかけがないことから、「ひの市民活動団体連絡会」が、2月11日にNPOと住民とを合わせるという活動です。来場者が少ないため、その告知のためのチラシをつくる手伝いを、プロボノで行いました。

最初5名のメンバーで事前研修に集まるところ、2人しか来なくてですね。やっぱりプロボノというと仕事でないものですから、最初のプロジェクトで苦労したのにまた2回目も、私は苦労するのかとびっくりしたんです。

ただ、当日は5名のうち4名集まりまして、そのときに初顔合わせしたメンバーで意気投合をしまして、一気に意見を出し合って。この団体さんが、チラシの案を出したときにかなり喜んでくれまして。やっぱり第三者視点といったところはすごいありがたいということで。私どものたった半日くらいなんですかね、かなり採用してもらいまして、本当に役に立てたかなという充実感はあります。

北場:このプロボノには長期であったり1DAYであったり、いろんなオプションサービスを提供するものがあります。長期と1DAYと、こういうところに気をつけてやったほうがいいよとか、何かポイントあったら教えてもらいたいなと思います。

西山:長期のほうは団体さんと交渉をして、ボランティアということで最初の目処からスケジュールを、リスケができるようなところがあると思うんですけど、1DAYでの場合は1日で終わらせなきゃいけないということで、時間内にいかに終わらせるか。この1時間では何を決める、次の1時間で何を決めると最初にメンバー間で合意をして、決めていくところが大きな違いですね。

先ほどワークライフバランスという話をしたんですけども、短期の場合は事前研修のほかは1日で終わりなんですが、長期ですと、仕事がどうなるかわからない方は、最初は1DAYで試すのがいいのかなと思います。いきなり長期というのもありだと思うんですけど、6ヶ月という目安が1年とかに伸びるプロジェクトも結構ありますので、海外転勤を控えてそうだという方は結構厳しいのかなと思いますので、最初の入り口としては1DAYというのはすごくいいと思っています。

北場:私の経験から。長期のほうに、残念ながら仕事が忙しかったり、プライベートがなかったりと辞められた方がいらっしゃったんですね。その方が1DAYで非常に活躍されたという事例があって。1回失敗してももう1回チャレンジできるのがプロボノのいいところだと思ってるんですね。大雑把な話をすると、途中で逃げても大丈夫だというかね、誰も怒られないという、そういう環境が素晴らしいのかなと。

西山:やはり他のプロジェクトを見ていても、全員が最後までそろってというのが逆に全部ではないですし、半分までいかないのかなと。

地域貢献とか、地域での活動とかってときに、よく企業戦士の人が引退後に、地域になかなか男性が入っていけなくて奥さんだけが入っているというケースがあると思うんです。世の中の女性男性問わず、社会人のうちにこういった経験をしておくのは、将来本当に役立つのかなとすごく思います。いきなり定年を迎えてギアチェンジというのが難しいと思いますので、徐々に慣らし運転ではないですけども、プロボノを通じて社会とのかかわりを模索していくのが、日本社会にとっても、個人にとっても良いことだと思います

あと逆に世の中の男性が、定年後元気がなくなってしまうこともあると思うんですが、本人だけではなくその奥さんにとっても、プロボノというのはいいことだと思ってます。

北場:たまたまネットで見つけたんですが、「リタイア前にやるべきだった後悔ベスト20」ってあったんですね。先ほど西山さんがおっしゃったところがすべて網羅されています。トップが“一生続けられる趣味を見つければよかった”で2位が“親とよく話をすればよかった”、3位が“友達を多くつくればよかった”でした。この1番と3番はプロボノで実現できると思ってるんですよ。特に面白いのがですね、7番目に “会社以外の居場所を見つけておけばよかった”というのがあって、先ほどの西山さんのお話のとおり、大事なのかもしれませんね。

西山:居場所づくりというのは、本当に必要ですよねぇ。

―― 1DAYのプロジェクトをやったあと、さらにまた別のプロジェクトに関われましたよね。

西山:これは良かったです。「ふるさとプロボノ」といいまして、鳥取の方から依頼があったプロジェクトでした。とっとり県民活動活性化センターが地元のNPO、団体に対してプロボノを派遣するというので、メンバー4人で、実際に鳥取に行かしていただきました。ある温泉地域がちょっと寂れていて、それをどう盛り上げていくかというプロジェクトに去年の10月から携わらせていただいて、ちょうど3月に終わったところなんです。これについてはもう4人が本当に最初から意気投合して、最後までモチベーション高く終えることができまして、私にとってもすごく思い出深いプロボノだったなと思っています。

―― 地方の寂れた温泉場を元気にする。実際やるのはすごく難しい感じもしたんですけど、西山さんはそこにどう関われたんですか。

西山:できることとできないことを明確にしていきました。地域の人は最初、古い温泉旅館が潰れてしまって、そこに露天風呂を改めてつくろうというところなんですが、実際に市の補助金を得て、いくらかお金を投入したんですけれど、露天風呂が維持管理していくのにすごくお金かかるので、足湯だけになってしまったのです。足湯だけでは自立してお金を稼いでいけないので、近くに茶屋のようなカフェを始めたんですけれども、そのカフェをどう運営していくかが課題となりました。

そのときに、ある程度みんなの自助努力でできることをA案、地域を巻き込んでできる考え方がB案、莫大な資金といいますか、ある程度補助金が宝くじみたいなものがない限りはできないものをC案と区別させていただきました。そのうえで、「AとBとCがありますね」と我々の視点からきちっと整理をして提案することで、向こうはまずはAから頑張っていこう、最初からC を狙うというのはちょっと厳しいのかなと整理させていただいて、最後納得いただいたところが、自分たちでもいいアドバイスといいますか、調査ができたなと考えています。

―― 鳥取のある温泉場に、よそ者がアドバイスするということで、本当にその地域で変わるものなのでしょうか。

西山:メンバーにもよると思うんですけども、地域の活性化に、よそ者・若者・馬鹿者が必要と思うんですけども、我々はちょっとした馬鹿者でよそ者だったのかと。

最後に、決意表明というのを団体の方にしてもらうことになりまして、いつまでに何々を頑張りますと。具体的にはパンフレットを来月までには作りますとか、自分たちだけだと宣言しにくいと思うんですけども、我々のような外からの人がきちっと、自分たちで決めたことはやってくださいよと提案することで、自分たちは完全なその地域の素材にはなれないと思うんですけども、スパイスのような役割はちょっとできるのかなと、多少お役に立てたのかなと思ってます。

―― きちんと相手方にこちらからの提案がしっかりと届いたということなんですが、何が良かったと思いますか?

西山:やはり先方が危機感を共有したのが一つかなと思います。他人まかせで誰かがやるだろうということは、結局すべてのプロジェクトが崩壊してしまうと思うんですが、何人かの方が自分ごとにとらえて、それを実施しているということで、キーパーソンが何名かすごく努力してと、他人まかせしない人が何人かいたところが、今のところは上手くいっているのかなと思ってます。

―― 受け入れる側に素地があったのはそうですけど、一方で提案をする側も、アイディアっていうのは、逆に言ったら思いつくことはたくさんあると思うんですね。それを相手にしっかり届く、相手の心に響くようにするには、西山さんが注意されたこと、心構えとかありましたか。

西山:先ほど言いましたABC案といいますか。ちょっと背伸びすれば届くようなもの、ちょっと勢いつけてジャンプすれば届くB案、もしくは棒高跳びみたいに、道具がないと届かないC案ときちっと区分けして、Cをいきなり目指してもダメだから、短期的にはAから徐々に進めていってというような、自分たちの身の丈といったところを整理して。もしくは本当に棒高跳びみたいな棒が必要というときには、それは補助金かもしれないですけども、行政の理解もしなきゃいけないと。ただいきなり行政の理解も得られないので、Aという実績を積み重ねていくのも必要だということで、時間軸もちゃんと示せたところで、ある程度受け入れていただいたのかなと思います。

北場:いろいろ苦労されて、貴重な経験という話もありましたけども、それを職場とかに転用できる部分とかあるんですかね。

西山:プロジェクトを進めていくときに、メンバー間へのモチベーションの上げ方とかはプロボノのほうでも役に立つと思います。仕事のほうでもチームを作ってやっていかなきゃいけないというときに、阿吽の呼吸だけでなく、ある程度仕組み化が必要だなと思いました。プロボノにはいろんな人、年齢、地域、職場がバラバラですけども、事務局の人が苦労して、マニュアルを作られてると思うんです。同じ職場にいると、阿吽の呼吸で通じると思うんですけども、ただ職場も異動があって違う人に説明しなきゃいけないというときに、自分でもマニュアルをつくったり仕組み化するというのは、プロボノでの経験が役に立っているのかなと思います。

―― チームワークと話がありましたけど、仕事場ではどういうポジションですか。

西山:担当課長で、マーケティングチームを4~5名でやっています。例えばウェブサイトのリニューアルをやるとか、ウェブの更新を図るとか、どうやって自分たちの会社の集客につながるかという立案、および広報のリーダーという形で、どうやればマスコミに我々を知ってもらえるかというところでは、自分が引っ張ってかなきゃいけないところで、プロボノでも同じようなポジションが多かったので、その辺はリンクしてると思ってます。

―― このお話ぶりからしても、西山さんはすごく誠実な方で、職場でも部下の皆さん、上司の皆さんたちと接してると思うんですが、ご自分の中で、あまり気づかれないくらいかもしれないんですけど、プロボノに関わったことによって、周りの人たちとの接し方が変わったことって何かありますか。

西山:仕事は、厳しく言ってしまうと契約関係なので、組織から使命を与えられて、プロジェクトを担っている以上やらなきゃいけないんですけど、プロボノの場合は逃げられる環境もある。自分たちの主従関係ではなく、そのあと解散してしまうかもしれないんですけども、お互いを知らなかったチームメンバーと一つのプロジェクトに向かって一緒にやっていくところは、すごく役に立っているといいますか、勉強になっているなというところが変化ですかねぇ。

北場:西山さんこれだけいろいろやられて来て今までも、志高くいろいろ対応されたと思うんですね。

西山さんの中で1年後、3年後、5年後プロボノに関してこう接しようとか、こういう発展型で対応したいなとかっていうお気持ちはありますか。

西山:プロボノとしてというより、社会的なNPOの認知を高めたいというのは、自分としての将来的な長期ではあります。NPOの方々というのはすごくいいことをやっているのですが、給与面が厳しかったり、何でこんなに頑張ってるのに皆さんは理解してくれないんだろうと思うことがあります。

社会の中で、すべて0か1かではなく、NPOもある程度のサービスの対価をもらってもいいかなと思っているので、自分たちも身を粉にして、NPOに関わる人が厳しい生活をするのではなく、社会に役立てるにはそれなりのものを得た上で、社会に役立てるという循環を作っていければすごくいいのかなと思います。

北場:嵯峨さんにも聞いてみたいんですけど、プロボノワーカー、今後その3年後5年後、恐らくこんなふうに変わるんじゃないかとか、こんなふうになってるんじゃないかっていうのも、何かお持ちだと教えてもらいたいです。

―― ざっくりとしたイメージなら、もっと身近なものなっているということですね。ごく当たり前の活動の一環としてプロボノに参加する形ですね。今は、それなりに思いたって、渋谷のサービスグラントの事務所へ来て説明会に出たりして参加するのが今の状況と思うんです。自らかなり思い切って足を運ばないといけないんですね。ですけど、社内の食堂の掲示板に、「こういうプロボノあるから行きましょう」みたいな、社内でそういうサークルがあってお誘いがあるという感じですね。町の掲示板でも、「どこそこでこういうプロボノ募集してます」みたいな形が見えるとか、社会参加の機会が身近な場所にあるっていうのが一つ、抽象的ですけど、ビジョンとしてあると思うのですよね。

北場:敷居の低い形で普及することがあっていうことですよね。

西山さんの周りで、“プロボノ”と言って、「わかるわ」という割合はどれぐらいですか?

西山:低いというのが現状ですね。「プロボノ? 何ですか?」っていう感じで、プロボノに関わっていない人たちは、8~9割はまだ知らないというのが正直なところかなと思います。

北場:どういうふうにご説明されているというか、フレーズとかありますか。

西山:お気軽にできると言ったら失礼かもしれないんですけども、“誰でもできる、身近な社会貢献”というところは自分でも心掛けています。誰でもできるというふうにしないと、どんどん敷居が高くなって、一部の人たちだけが関わるというのでは、社会的なものが認知としても広がっていかないといけないと思います。

北場:特に仕事してるとね、私の仕事姿を子どもに見せたい、子どもに継承させたいという話があったりするんですけど、西山さん、プロボノされてて、例えばお子さんが大きくなられたときに、プロボノやらせたいという気持ちとかありますか。

西山:いろんな背景にいる人たちが集うというのはこれから求められてくることだと思いますし、同じようなところだけではなく、プロボノがより身近なものにということだったんですが、逆に子どもについては、子どもが大人になる前に、高校生プロボノとか、中学生プロボノとか、あってもいいのかなと思っています。

―― プロボノをやってる大人たちって本当にさわやかな素晴らしい人たちではないですか。そういう人たちを中学・高校のとき、大学生のときとかに、一緒に目の当たりにすると、将来が明るく見えるんじゃないかなと思ってるんですよね。だからもっと若い人たちがその付き添いでも鞄持ちでも、プロボノの皆さんと一緒に何か、打ち合わせに出てみるとか、そういう機会をつくっていかないといけないかなと思ってます。

西山:NPOを見学する場とか、社会に本当に役立って頑張っている人がいることを、小さいときから知る機会ってのは本当に必要なんじゃないかなと思います。

―― もう25秒でこの番組も終わりです。あっという間に1時間過ぎてしまいました。今日は西山さん本当にありがとうございました。

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