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海外事業本部企画(1) ― マネージメント

 シャープには社内公募という仕組みがありました。ウェブの仕事がやりたいと当時の社内公募に応募して移った先が海外事業本部という組織です。シャープはソニー程ではないにしろ海外でのプレゼンスが高く、売上の比率が高い状況でした。シャープは色々なことをやっていた会社で、情報商品として電卓や電子手帳、複写機、家電として液晶テレビや白物家電と、他社に比べて幅広い商品の品揃えがありました。

 海外事業本部というところは、海外の販売会社の取りまとめみたいな組織であり、海外のトップの指示を世界に伝えたり、海外の状況を取りまとめてトップに報告するという、ある意味官僚組織でしたが、海外の販促などを取りまとめて行うというファンクションも持っていました。当時は組織上、ブランディングと販促が分かれていたのですが、機能としては、似たような位置付けだったと思います。

 私のミッションは、海外の販促を取りまとめるシステム開発と海外の販促支援やウェブの運営だったので、あまり本社機能という仕事はしなかったのですが、近くにいたので本社機能とか、そのミッションとかいうことを考えるきっかけにはなりました。そして、それが色々と読んだり、考えたりしていたビジネスの概念を深めることが出来たと思っています。それはマネージメントの話です。実際の具体的事例は少ないのですが、そのマネージメントの話をさせていただきます。

 海外事業本部には、もう一つの役割がありました。海外の販売会社や生産会社の責任者が日本に戻って来た時の席を用意する、という役割です。日本に戻ると役職がワンランクとか2ランク下がるので本人にとってあまり嬉しくない面もあったと思います。もともと一時的帰国みたいな要素もあって、日本に帰って来ても直ぐに海外に赴任される方が多かったと思います。

 海外の販売会社や生産会社に帰ったら、皆さん経営者であり、責任者です。国内の仕事だとほとんど携わることのない、経営的な数字を扱い、マネージメントします。現地会社の人事も携わります。こういう経験を若い時にするというのは、大きく違うと思います。通常の仕事と組織を管理する仕事とは全く別物ですから。

 もちろん、日本にも管理職という階層はありますが、管理職は経営層ではありません。会社の数字や人事を扱うのは経営層になります。それを若くして体験できるのです。人間は環境の生き物なので、体験した内容で考え方も変わります。

 当時の上司の一人は欧米で販売会社を大きくされた方で、一時期、若い人向けに販売会社の教育を社内で塾的にされ、私も受講させていただきましたが、こういう形で、海外で仕事をされていたのかと思った記憶があります。そういう人たちが集まった場所が海外事業本部という場所だったのです。

 会社の経営云々に関しては巷に多くの情報が溢れているので割愛しますが、その中で特に大切だと思ったことがあります。それはゴールを含めた管理指標を明確にすること、そしてその指標の変化を適切に社内にフィードバックすること、が本社機能というかスタッフ機能の仕事の中核だということです。

 例えば、少しだけ私が窓口をしていた仕事に海外液晶テレビアクオスの指標管理がありました。当時の専務の指示だったのですが、各販社での配荷店数、配荷商品数、回転率(売れて新しい物を仕入れる比率)を毎月報告してもらって、それを報告していたのです。

 このようにビジネスにおいて指標を決めて、それを管理するということは基本の基本だと思うのですが、その指標の決め方がとても重要になって来ます。アクオスの場合は売上というよりも、どれだけ扱い店数が増えたか、そしてどれだけ動いているか、を中心に管理していた訳です。

 私が管理指標の話で思い出すのは、アマゾンを創設したベソスのインタビューです。インタビューアーがベソスに「最初、ずっと赤字が続いていたのに心配はなかったですか」と質問したのに対して、「顧客満足度のアンケートがずっと高い結果を示していたので全然心配しませんでした」と答えていました。彼の中では顧客満足度が経営の管理指標だったのだと思います。

 現在、アマゾンは巨大になり過ぎて、配送業者に対する過酷な要求だったり、社員の給与が少なかったり、税金をほとんど納めていなかったり、と様々な問題を指摘されていますが、アマゾンの経営の指標が「顧客満足度の向上」であれば、例えば即日配達を実現するために配送業者に過酷な要求をしたり、値段をなるべくリーゾナブルにするために税金や給与を抑えたりする意味も見えて来ます。多分、儲け主義というより経営指標の問題なのだと思います。

 このように経営指標をどう設定するかは、企業経営の根幹に関わります。多くの人が携わる組織であればある程、経営理念の共有化に加えて、経営指標の明確な設定とその適切なフィードバックが重要になります。これは人事評価にも関係して来ます。

 もっと簡単な例でいうと、経営指標を売上にするのか、利益にするのか、でも変わって来ます。理由は割愛しますが、一般に製造業では利益や粗利よりも売上を指標にした方が上手く行きますが、サービス業やネットビジネスでは利益を指標にした方が上手く行きます。それにも関わらず、日本では多くの企業や銀行などが、未だに暗黙的に売上を経営指標として考えています。日本でサービス業とかウェブ関連のビジネスが拡大しない一因はそこにあると私は考えています。

ビジネスの基本(14):指標を明確にして適切にフィードバックする

<指標について>
① 本質や環境を考慮して指標を設定する
② 可能な限り人がコントロールできる目標とする
③ 指標は必ず計測し全員にフィードバックする

 まず①についてですが、本質の重要性に関しては今まで説明をしてきました。しかし、環境や時代を考えるということも必要です。

 高度成長のインフレの時代、設備投資をする製造業は上手く回っていました。物作り日本といいますが、何もインフレの時に製造業で成功したのは日本だけでなく、中国も、東南アジアも同じです。なぜならインフレという環境が製造業などの設備投資産業に適しているのです。

 例えば、工場を建てて設備に投資してもインフレなので投資の負荷は相対的に年々減っていきます。また土地も値上がりし、年々余力も増えていきます。インフレの時は最初に大きな投資をした方が事業は良くなるのです。

 しかしデフレの時代は逆になります。設備投資の負荷が年々重くなり、土地とかの評価額も下がり、余力も減っていきます。また商品価格も価格競争の中で下げざるを得ず、人を正社員で雇ってしまうと業績が下がった時に対応できなくなってしまいます。非正規の議論がありますが、インフレが続く時であればともかく、デフレが長年続く時代に正社員を増やせと経営者に言っても酷な面もあると思います。

 このデフレ環境の中で、政府は物作り日本の復活とか言っていますが、個人的には正気だろうかと思っています。デフレ環境で物作りを進めると悲惨な結果が待っているとしか思えません。デフレ脱却が出来れば物作りで良いのですが、デフレが続くようであれば、初期投資が少なくて済む事業を積極的に応援した方が国家としての経済は良くなると思います。

 話が少し外れましたが、何を言いたかったかというとインフレ環境とデフレ環境で当然、指標となる数字は違ってくるはずだということです。本質と環境を考えるのが一番目です。

 次に必要なことは、従業員とか関係者がコントロールできる数値が良いのです。アクオスの例をあげましたが、売上は販売店に依存するのでシャープの社員がコントロールすることはできません。

 しかし、開拓するお店の数はシャープの社員の努力でコントロールできます。ある経営者の方が「売上は偶然に左右されるが、経費削減は従業員の努力で実現できる」と、人事を経費削減率で評価されているという話を聞いたことがありますが、このように人の努力で達成可能か、偶然に左右されるかは、指標を決める上で重要です。

 そして、最後にその内容を全員にフィードバックすることにより、事業が上手くいっているかどうが、全員が確認できるようになります。こういうポイントが指標を決めるにあたって大切だと思います。

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