見出し画像

ザウルスと携帯電話(2) − 宣言する力

 ザウルスと携帯電話の接続システムという今までに無かった新規性のある商品を作れた理由は意外とシンプルで、「出来ると言って回った」ということ、つまり自分にも他人にも宣言して回ったことだと私は考えています。しかも、よく分かっていない仕事を「6ヶ月で出来る」と言い切って、紆余曲折はあったものの実際に6ヶ月で作れました。

 新しいプロジェクトや新しい商品やサービスの立ち上げなど、いかに検討しようと100%できる確証などある訳はありません。日本人は真面目なので、確証が無いことは言わない方が良いと思う傾向にありますが、新規なことに対して確証があるはずがありません。それでも言い切る、それがとても大切だと思います。

 「自分と周囲に宣言する」→「やってみる」→「出来る」→「自信がつく」という繰り返しこそが、人間の創造する力を育てるものだと思います。ちなみに自信というものは根拠がない方が良いと私は思っています。根拠のある自信は、その根拠が崩れた時に脆く崩れてしまいます。しかし、根拠がない自信は崩れません。

 戦前に強い男子テニスプレーヤーがいたそうです。しかし、無名の選手に負けて自信喪失し、英国の世界大会に行く途中で船から身投げして自殺されたという話です。当時は国の威信を賭けての試合だったので、今と比べ物にならないプレッシャーだったと思います。自殺したくなるのも当然だと思うのですが、その自信の元が過去の実績にあったというのが、もう一つ大きな要素だったと考えます。

 日本人は多くの場合、努力量とか、勉強量とか、苦労とか、過去の実績とか自信を過去に求めがちですが、過去の根拠に基づいた自信は、何かあれば脆く崩れます。そして、新しいことにチャレンジするのに役に立ちません。

ビジネスの基本(2):自分や他人に宣言する

ビジネスの基本(3):根拠のない自信を持つ

 また「想いは実現する」という話もあります。しかし、心の中で思っただけでは実現しないと私は考えています。それを言葉にして、自分も含めて多くの人に話すことで初めて想いは実現するのです。ですから、根拠がなくても自分の想いを多くの人に伝えることが大切だと思います。

 最近、海に流れるプラスチックゴミを掃除する若者がいたり、また幼い女の子がそういう問題提起をしたために、世界中でプラスチックゴミを制限する動きが広まっています。これもそういう、宣言するみたいな話だと理解しています。

 話をザウルスと携帯電話のシステムに戻します。チップを売りに来たメーカーがいて、それを社内で企画提案、そして商品開発に着手しました。しかし、技術開発部門と製品品質部門は手を引きました。

 こういう話はどこの組織でも良くある話です。テレビのドラマを見ると、組織間の軋轢でそういうことは日常茶飯事として起こっています。特に日本の組織は官僚化しやすいので、実際に体験している人も多いのではないでしょうか。

 しかし、私の場合はそこで商品開発を止めるという判断もせずに、そのまま商品開発に着手しました。今思うと、当時は単に若くて無謀だったのですが、今ならプロジェクトを中止するという判断もあったのではないかと思います。

 技術開発部門の仕事とか、製品品質部門の仕事とかを実務レベルで聞き回って、何とか商品化することに成功しました。管理職とか責任者は組織間の軋轢みたいなものがあり、話に乗って来にくいですが、実務者クラスであれば親切に教えてくれます。

 その時のポイントは情熱と相手の立場を悪くしないスタンスだと思います。一つ一つの説明は省きますが、一つだけ書かせていただきます。当時、携帯電話はまだ普及しておらず、かなり高価だったのですが、私は自分で買いました。多分、会社の金で購入したのであれば、あまり説得力は無かったのですが、実際に携帯電話を自分の金で購入したのは説得力があったと思っています。

 情熱とか本気度とかは言葉だけでは伝わりません。何か形にして伝えないと人は相手にしてはくれません。だから、何らかの形で本気度を示すことは、人を動かすのに欠かせない要素だと思います。

ビジネスの基本(4):情熱や本気度を形にして示す

 これは過去の成功者をみても感じますが、やはり人を動かすのは論理よりも、情熱や本気度です。特に新しいこと、今までに無かったことの場合は、人は利益とかでは動きません。利益で動くのは、既に実績があったものだけです。全く新規のものに関して、利益とかで動く人はほとんどいません。

 特に日本人は尚更です。日本人は、実績が出るまでは基本的にサポートしようとしません。海外、特に欧米系の人は、ガッツがあるとか面白いとかでサポートしてくれますが、日本だと余程の実績がないと、ほとんどの人は「口は出すが、サポートはしない」という感じになってしまいます。それを覆せるのは、情熱や本気度を示すしかないと思います。

 先程のプラスチックゴミの話でも、その若者は自分一人の力でプラスチックゴミの掃除を始めます。それで多くの人が感動し、手伝い、そして政治的な動きにも発展します。このように、情熱というか本気度を示すことは、人を動かすのにとても大切な要素なのです。

 もちろん、日本人でも新しいことを積極的にサポートする人はごく稀にいます。例えば、シャープの佐々木元副社長は、ソフトバンクの孫正義さんが電訳機を持って現れた時に支援して、それが今のソフトバンクの礎になったと言われます。

 そういう日本人もたまにいるにはいますが、ほとんどの日本人は石橋を叩いても渡らない人が多いので、情熱とか本気度を形に示すことはとても大切だと思います。

 日本人は新しい挑戦を否定したり、非難したりすることは多いのですが、逆に実績を出しさせすれば、それが掌を返したように変ります。ザウルスの時も同じで、企画の段階では完全に手を引いた技術開発部門が、そのチップを自分たちで開発するということで仕事を取っていきました。

 若かった当時の私は、節操がないと思いましたが、今思うと結果が出たものに対して、日本人は積極的に関与したがります。

ビジネスの基本(5):周囲の反対は実績を出せば変わる

 新しい挑戦をしている人たちにこれは声を大にして言いたいのですが、実績さえ出せば人の評価は180度変わります。そして、その時の評価は何もしなかった時の何倍にも良くなります。実績を出した後は周囲が違った目で見るようになります。

 ですから新しい挑戦を尻込みすることなく、ぜひやってみてください。挑戦に失敗したとしても、評価が悪くなることは実はあまりありません。周囲が反対するのは、色々と心理的な要因が主なので、結果にあまり関係ないのです。もちろん、失敗したらしばらくはその評価がついて回るかも知れませんが、意外と周囲の人の心理としては安心感みたいな感じに変わるので、思った程悪くはならないのです。

 特に日本人は、新しい挑戦には反対しがちですが、一度実績を出すと信用する人が多いと思います。もちろん、嫉妬的な感情とか、上下関係の中で起こる反発とかは存在しますが、話を聞こうとする形に変わります。ですから、できれば新しい挑戦をして、周囲を認めさせる実績を作ってください。

 それは組織の中で活きることにも、組織から独立して活躍するにもとても大切なことだと思います。自分と他人に宣言して、根拠のない自信を持ち、情熱や本気度を形にして示せば、多くの場合で成功することが出来るでしょう。そして成功すれば、反対していたり、敵だった人たちが味方に変わります。

 多くの日本人、特に若い人たちが、失敗を恐れずに新しい挑戦に取り組んで頂いたら社会はどんどん良くなっていくのではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?