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【法定地上権】暗記から完全脱却へ

 法定地上権は民法の短答式試験でとても厄介な分野の一つです。予備試験、司法書士試験、行政書士試験、宅建士試験などで法定地上権に苦しむ受験生が多いでしょう。私も昔法定地上権全く理解せず、暗記で乗り越えようとした時期がありました。
 しかし、法定地上権は本当にそんなに難しい分野ではありません。制度の趣旨の本質が分かれば非常に簡単になります。暗記の必要も全くありません。
 今回は法定地上権の短答問題対策のために、「裏」の解説をしていきたいです。

そもそも法定地上権は非常にやばいもの?

 法定地上権の話を理解するには、法的な要件効果や判例に入る前に、まず問題となる場面を理解しなければならない。

抵当権者側の話

 私もみなさんも友人にお金を貸して、友人の不動産に抵当権を設定する経験はさすがになかったと思います。(笑)ですから、抵当権絡む話はイメージしづらい一面があります。ここで、イメージとしては銀行の融資やローンなどの際の抵当権設定が考えられます。まず、次の場面を考えてください。

 X銀行がYに対し2000万円を貸し付けた。Yには時価2500万円の甲土地を所有し、同土地に同じくY所有の1000万円相当の乙建物がある。この場合X銀行はどのように抵当権を設定すべきでしょうか。

 2000万円の被担保債権のに対し、甲土地の時価は2500万円で、債権額を上回っています。そうすると、甲土地だけに抵当権を設定すればよく、乙建物にも設定するとその分の司法書士報酬・登記費用が増えてしまい、めちゃくちゃ損するじゃないかと思いませんか。
 しかし、これは絶対ダメです!なぜなら甲土地のみに抵当権を設定した場合、競売を実施し、甲土地と乙建物の所有者が別々になるとき、地上権が設定されたものとみなされます。(民法388条)
 甲土地に法定地上権が成立すると、価値がグッと下がってしまいます。なぜなら他人の建物が正当に建てられる土地を買っても何のメリットもありません。建物は建てられなく、駐車もできません。仮に地代が支払ってもメリットは少なかったです。(そもそもすでに強制執行に入った段階の人が毎月地代をちゃんと払ってくれるか微妙です。)
 法定地上権のある土地の具体的な額について、私は競売や査定のプロではないので言いづらいですが、一般的には時価の半分以下になると言われます。
 つまり、もともと2500万円相当の土地であっても、法定地上権が成立すると
1250万円すら売れない可能性が高い
です。そうすると、X銀行の2000万円の債権の半額以上は回収できなくなります。
 そのため、法定地上権の成立を防ぐため、総額がオーバーでもったいないと思っても、ちゃんと土地と建物両方に抵当権を設定しなければなりません。

法定地上権が成立すると、銀行員としての人生が終了?

 昔は研修の時に講師の不動産鑑定士で、信託銀行不動産部に勤めてきた先生からこういう話を聞きました。「法定地上権を成立させてしまったら銀行員としての人生はもう終わりだ。」 
 銀行の融資は普通の住宅ローンでも数千万円から一億以上となって、企業向けの融資は何億何十億であるから、仮に法定地上権が成立し、競売額が半分カットになったら損害も数千万円から数億円になってしまいます。ガチで一生働いても償えない金額です。
 普通に考えるとやばかったですね。

絶対に避けなければならない

 以上の話から、抵当権者としては法定地上権はいかにやばいものであるかを理解できましたか。これを踏まえていよいよ本題に入りましょう。

法定地上権の成否

 法定地上権は①抵当権設定時に、土地に建物が存在し、②抵当権設定当時同一人が土地と建物を所有していた。③土地または建物一方に抵当権が設定され、競売の結果、土地と建物が別々の者になった場合に成立します。(民法388条)この要件は短答でも絶対に暗記してください!
 そして、法定地上権の趣旨は建物が土地に存続し得ない状態が生ずるのを防ぐためですが、前述のように、法定地上権は抵当権者などの利益に大きく関わるから、具体的な場面の分析について、むしろ抵当権者の利益を考えた方がわかりやすいと思います。
 ただし、これからの話はあくまで理解の便宜のため、抵当権者の利益の観点からの説明で、法的理論として正しいものには限りません。御注意ください。

要件①について

 まず、要件①が問題になる場合として概ねⅰ更地に抵当権を設定した場合ⅱ建物が再建築された場合の二つのパターンが考えられます。
更地の場合、抵当権者が更地の価値を期待して抵当権を設定したので、後に建物をいくら建てても原則として法定地上権は成立しません。成立したら銀行はめっちゃ損してしまいます。(大判大4.7.1、同7.12.6、最判昭和36.2.10、51.2.27、47.11.2など参照)

 一方、再建築の場合、話がややこしくなります。まず、土地に建物が存在し、土地のみに抵当権を設定した場合、抵当権者が地上権の成立を認識しつつ抵当権を設定したので、別に法定地上権が成立してもいいです。そのため、判例は新旧建物に同一性を維持した場合、法定地上権の成立を認めてます。(大判昭10.8.10)
 そして、土地と建物に共同抵当権が設定された場合の再建築は別の話になります。共同抵当権は最初の話のように、まさに法定地上権の成立を防ぐため一般的に設定されています。
 建て替えしただけで再建築の建物に法定地上権が成立してしまうと、期待された土地と建物の交換価値が土地の半分以下になってしまいます。そうすると、銀行の利益は著しく害され、抵当権設定が無意義になってしまうと言っても過言ではありません。
 常識的に考えても、世間の不動産が担保に託されることが多く、建て替えも数十年一度ですが、普通に行われます。このような日常的なことで銀行を犠牲するわけがありません。
 これは最も法定地上権の成立を認めるべきではない事案です。ですから、「共同抵当権」と「建て替え」がでた場合、法定地上権は成立しないとしっかり判断してください。
(百選Ⅰ92事件、最平9.2.14参照)

要件②について

 まず、土地に対する一番抵当権設定当時、所有が別人だったが、二番抵当権設定した時に建物と土地が同一人所有となった場合を見てみます。
 この場合も一番抵当権の抵当権者が法定地上権は成立しないのを認識しながら設定したといえるので、一番抵当権が実行されても原則として法定地上権は成立しません。
 これに対し、二番抵当権設定当時、土地と建物は同一人所有となったので、抵当権者は法定地上権の成立を認識した上で設定したと言えます。この場合、一番抵当権が解除され、二番抵当権が実行されたとき、法定地上権は成立します。

 次に、ABが共有の甲土地にA単独所有の乙建物がある場合に、甲土地のA持分のみ抵当権を設定したとき、法定地上権の成否を見てみます。
 結論から言うと、法定地上権は成立しません。なぜなら法定地上権が成立すると、土地の共有者Bの利益が害されるからです。Bはもともと負担のない土地を有しており、別人のAの所有の建物のため法定地上権を負担させるべきではありません。(最判昭和29.12.23)
(A所有の乙建物に抵当権を設定した場合も同様)

 一方、A単独所有の甲土地にAB共有の乙建物がある場合、甲土地に抵当権を設定したとき、結論が変わります。
 この場合、抵当権の実行がなされ、土地と建物の所有者が別になったら法定地上権が成立します。法定地上権が成立した方が共有者Bに有利ですから、成立してもいいと考えられます。
(最判昭和46.12.21)

終わりに

 今回は抵当権者や共有者の利益の角度から判例の結論について分析してみました。銀行(抵当権者)の利益の視点から分析することができると、短答で出る法定地上権の問題は暗記にせずに解けると思います。
 少しでも役に立つことができれば嬉しいです。

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