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【蓮ノ空感想文】蓮ノ空が描く「卒業」に心を打たれすぎている

卒業するアイドルを見るために蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブを追いかけ始めたはずだった。
だけど今、スクールアイドルとしての姿を一度も見ていないはずの人の卒業を受け止めきれずにいる。

私はもともとアイドルマスターシリーズを広く浅く追いかけていた。
多くのプロデューサーと同様、蓮ノ空について知ろうと思ったのは異次元フェスがきっかけだ。正確に言えば、異次元フェスが終わってすぐの頃、X(旧Twitter)のTLに流れてきたツイートが決め手だった。
詳細は忘れてしまったが、「蓮ノ空はリアルタイムに時間が進むから、メンバーはみんな進級するし卒業する」という趣旨のものだ。

アイドルマスターシリーズに限らず、多くの二次元アイドルコンテンツはいわゆるサザエさん時空を取っており、誕生日を祝うことはあっても年齢が上がることはない。
二次元アイドルはいくらか追いかけていても、現実のアイドルには疎い。そんな私にとって、アイドルの「卒業」は、概念として知ってはいても縁遠いものだったのだ。

蓮ノ空を追いかければ、「卒業」という言葉が持つ重みに触れられるかもしれない。

空いた時間に同時視聴会のアーカイブを見続けて、最新話まで追いついたのは1月の中ごろだったと思う。リアルタイムで活動記録を追い始めたのは16話からだ。
その16話で語られた、一つのエピソードが決定的だった。

瑠璃乃「ほんで、さちパイセンは、なにができるんですかー!?」
綴理「なんでもできるよ。」
沙知「いやさすがになんでもは! どれも70点くらいだよ!」
沙知「当時から、歌は梢! ダンスは綴理! トークは慈! キミ達の方がずっとうまかっただろうに!」
梢「ふふっ、ご謙遜を。」
慈「なんたって沙知先輩は、ひとりで私達3人とユニットを組んでた、バイタリティモンスターだからね!」

「活動記録」第16話『Special Thanks』PART3 より

この話が語られたとき、沙知先輩がたった一人でスクールアイドルクラブの看板を掲げていたということを初めて意識した。今の2年生たちが入部したとき、彼女はどんな気持ちだっただろうか。
なにより沙知先輩は、スクールアイドルクラブのメンバーたちよりも先に、あと数ヶ月で卒業してしまう存在なのだ。

「沙知先輩が卒業する3月までに、できる限り彼女の想いに触れるべきだ」そう考えていた。
活動記録を読み返し、カードの特訓メッセージを可能な限り聞いて回り、沙知先輩のこと、第102期蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのことを調べられる限り調べた。
そのうえで、102期にあったできごとや、その時沙知先輩が何を思っていたのか。そこに少しでも近づく必要を感じていた。

れいかさん「綴理ちゃんもさやかちゃんと同じで、先輩に連れてきてもらってたわ。それでさやかちゃんと同じように、きょろきょろこの街を見てたの。でも、そうねえ。ふふっ。」
れいかさん「さやかちゃんと違って、色々大変だったわぁ。どう大変だったのかは、さやかちゃんに話した通りね。」
さやか「あー、あはは……。……でも、夕霧先輩も、その上の先輩に連れてきて貰っていたんですね」

「活動記録」第5話『顔を上げて』PART4 より

1月当時、沙知先輩の過去に関するエピソードは希少だった。これからの活動記録でどこまで語られるかもわからない。
ならばと存在しない記憶を捏造し始めた。言い換えれば二次創作だ。毎日のように頭を悩ませ、語られているエピソードの隙間を埋めるように物語を組み立て、文字にした。
知っての通り、過去がちゃんと語られるのかという懸念は杞憂だった。
沙知先輩と第102期のスクールアイドルクラブについて、絶対に語られてほしいと思っていたことはすべて活動記録18話の中で語られた。公式供給ばんざいである。

しかしそんな活動も無駄ではなかった。
沙知先輩の視線でスクールアイドルクラブを見ようとしてきた二ヶ月の中で、沙知先輩はもう推しと呼んでも差し支えない程度には存在を大きくしていたのだ。

同時に、沙知先輩が後輩たちの姿にどれだけ救われ、心を砕いてきたかを考え続けるうち、スクールアイドルクラブのメンバーたちのことも大好きになっていた。
配信は欠かさず見た。初めて見た配信では、ギフトを一つも持っておらずAfterを見れないことに歯噛みした。
推しの「卒業」を目の当たりにするための心の準備は整っていた。

しかし、一つだけ気になっていたことがあった。
私はスクールアイドルとして活動する沙知先輩の姿を、一度としてこの目で見たことがないのだ。

沙知「ね、綴理。こうやって裏側からスクールアイドルを支える仕事は、どうかな。綴理にとっては、スクールアイドルじゃないかな?」
綴理「……それは、そうかも」
沙知「スクールアイドルは不完全でも熱を持ったみんなで作る芸術。綴理ならきっとそう言ってくれると思ったよ。だからあたしは、クラブに戻らなくても、スクールアイドルのつもりだ。」
沙知「もちろん、自分をスクールアイドルだと思うかどうか……その価値観は人それぞれだけどね」

「活動記録」第13話『追いついたよ』PART8 より

沙知先輩は活動記録の中で、自らをスクールアイドルだと語った。
その言葉に疑問を挟もうとは思わない。引退するまではスクールアイドルとしてライブや配信をしていたことだって、語られているから知っている。

しかし、それはあくまで「こういうことがあったらしい」という知識に過ぎないのだ。
ステージ衣装を身にまとう姿も、歌声も、ダンスも、配信内でのトークでさえも。私は目にしたことがない。

実のところ、沙知先輩が蓮華祭のステージに立ってくれるのではないか、と期待する心があった。
活動記録が一つ一つ公開され、蓮華祭が近づくにつれてライブの趣旨を理解し、その期待は薄れてはいたものの、それでもどこか捨てきれずにいた。
全てを諦めきれたのは、ステージが幕を下ろした直後だ。Fes×LIVE AFTERが閉幕してすぐ、公式アカウントから1枚の写真が投稿された。

蓮華祭のステージの上で、衣装を身にまとったスクールアイドルクラブのメンバーたち。そして、制服姿で彼女たちに囲われる沙知先輩。
これが、彼女の「卒業」を象徴する一枚なのだ。
私が推しと呼ぶことにしたメンバーのスクールアイドル活動を見ることは、ついぞなかった。

翌日、2024年3月29日。活動記録18話『いずれ会う四度目の桜』EDが公開された。
このエピソードを以て、大賀美沙知という少女の物語は幕を下ろした。きっとこれ以上、彼女の旅路が語られることはないだろう。その事実に思い至るたび、胸の奥を掴まれるような痛みを覚える。
思えば私が蓮ノ空のことを応援する時間のほとんどは、頭の片隅で沙知先輩のことを想い続ける時間でもあった。

そのうえで、やはり思う。沙知先輩の卒業は、スクールアイドルクラブのメンバーたちのものだ。
私たちはその一幕をひっそりと覗き見させてもらったに過ぎない。
だからこの感傷は、推しのスクールアイドルの卒業を目の当たりにしたが故のものではない。『みんなで叶える物語』に登場する、大好きなキャラクターが全ての出番を追えたことに対する、喪失感にも似た祝福なのだ。

一年後に、私はきっとスクールアイドルの卒業を正面から受け止めることになるだろう。
彼女たちは後輩だけではなく、私たちにも別れの言葉を告げるはずだ。
直接言葉を交わしたわけではない沙知先輩との別れすら、こんなにも重くのしかかり受け止めかねているのだから、その日が来たときどんな感情でいるかは想像もつかない。
今はただ、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのことを、より一層応援していこうと心に決めるばかりである。

沙知先輩、ご卒業本当におめでとうございます。
蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのこれからの旅路に、幸多からんことを。

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