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オーストラリアでレンタカーを借りてみた話(3) ミステリーカーでウルルを堪能

エアーズロック空港のレンタカーカウンターにて

シドニーを散策した翌日、オーストラリア国内線でエアーズロック空港に飛んだ。なーんにもない空港だった。

ところで「ウルル」と「エアーズロック」という表記が混在しているが、これは本質的には同じものを指す。先住民であるアボリジニの呼び方が「ウルル」であり、後にオーストラリアに入植した西洋人による呼び名が「エアーズロック」である。空港の名前はエアーズロック空港であり、ハーツレンタカーの営業所名はエアーズロック ウルル 営業所だったので、今回のノートではその通りに記してある。

こんなに何にもない空港、初めてだ

平屋のターミナルの片隅に、ハーツレンタカーのカウンターを発見。「到着便の時間帯のみ対応します」と書かれていた。1日に数便しかないので、ずっといてもすることはないのだろう。ちょうど1組対応中だったので、その後に並んで待つ。

私の順番が来た。シドニーのホテルで手痛い洗礼を受けたのでおっかなびっくりといった体でのぞんだのだが、ハーツのエアーズロック空港にいたお姉さんの英語は聞き取りやすくて助かった。

「ミステリーカーの予約ね」
「そうです」
「えーと……もしかしてひとり?」
「いえ、3人です」
「3人か……」

お姉さんは一度、奥の部屋に引っ込んだ。並んだレンタカーのキーを見比べている。しばらく思案したのち、最初に用意されていたキーを片手に戻ってきた。この行動の意味は、あとでわかることになる。

「ところでGPSオプションを予約しているけれど、本当にGPSが必要?」
「確かにGPSを予約しました」
「これは、ここの地図。空港から出て、途中で左に曲がるとホテルで、曲がらずにまっすぐ行くとエアーズロック。道はこのひとつだけ。GPSは必要ない。どうしてもというなら貸すけれど、私はあなたにGPS代を請求したくないわ」

予想していない事態だった。知らない土地を走るのだからナビがあった方がいいだろうという浅はかな考えを、お姉さんはあっさり否定した。そして、こう続けた。

「ツアー? フリー?」
「フリーです」
「だったら、いいことを教えてあげる。この夕暮れを見るのはこのポイント、日の出を見るならこのポイントがオススメよ」

やさしいお姉さんが「夕暮れを見るポイント」として印をつけた場所には「Uluru Sunrise Viewing Area」と書かれていた。あえてそう言うからには何か理由があるのだろうなと思案している私を、思いがけない衝撃が襲う。お姉さんはプリンタから出力された貸出書類に、おもむろに大きなバツを書いたのだ。

お姉さんが盛大にバツをつけた図(イメージ)

レンタカー貸出前の書類にバツをつける。一般的な意味合いとしては「貸出時にここに傷があった」と示すもののはずだ。ボンネットにルーフにリアゲート、そんなあちこちに傷があるクルマなの? 砂漠の中にあるレンタカー窓口だし、そんなこともあるのかな。なんて考えていた私に、お姉さんはこう告げた。

「ここには、乗らないでください」

いや、乗らんやろ、そこには。

いよいよミステリーカーと対面

地図とともに、クルマのキーが手渡された。日本のレンタカーのように目の前までクルマを持って来てくれるのではなく、駐車場から勝手に乗っていてというスタイルのようだ。キーに書かれたナンバーを頼りに見つけたクルマは、思いのほか大きかった。

ミステリーカーの正体は、KIA Carnivalだった

駐車場で見つけたのは、KIA Carnival。3列シートの8人乗りSUVだ。2020年にモデルチェンジしているので、ひとつ前のモデルということになる。

このクルマを見て、カウンターのお姉さんの言動と行動に合点がいった。ミステリーカーを選んだ相手に対して、まあゆったり乗れればいいだろとCarnivalを選んだのだろう。ところが相手は3人だという。もっと手頃なクルマがあるのではないかとオフィスを見回したが、恐らく都合のいいものがなかったに違いない。まあいいかと、3列シート車を3人組に貸し渡したというわけだ。

2列目シートと3列目シート

いやまあ、ゆったりしている。

全幅 1,985mm/全長 5,115mm/全高 1,755mm。
私が所有したことのあるクルマでも、これを超えるサイズはダッジ ラムバンベースのキャンピングカーしかない。

運転席に私、助手席に長男、2列目シートに母。3列目は無駄な空間だ。しかし砂漠の中を走るには、このくらいのゆとりがあっていいなと思えるサイズ感だった。

ちょっぴりインプレッション

クルマ系のメディアに寄稿することはあっても、自動車のプロではない。しかし100車種を超える試乗経験はある。そんな私の独断インプレッションを書き残しておく。「それはあなたの感想ですよね」程度に読んでほしい。

私が借りたCarnivalは2.2ℓのディーゼルターボエンジンを積んだモデル。あとでスペックを見たところ、8速ATを積んでいたようだ。ディーゼルエンジンに多段ATの組合せなので、よほどのことがなければ回転数が跳ね上がることはない。低回転からトルクが出るディーゼルエンジンの特性を活かして、ゆったりと、しかし十分なパワー感を見せながら走る。

2.2ℓディーゼルターボエンジン

足回りの印象は、数十年前の日本車を思い出させた。ステアリングを切る、荷重移動が起こってぐらりと車体が傾く、それから旋回運動が始まる。コーナリングの動作ひとつひとつに、ワンテンポの間がある。そういう意味でも、ゆったりしたクルマだった。

インパネ

インテリアを見渡すと、数十年前のクルマを思い出させる乗り心地とはミスマッチなハイテク装備が並ぶ。Apple CarPlayに対応したタッチパネルオーディオは特に便利だった。

Apple CarPlay対応タッチパネルオーディオ

ウルルを堪能するにはホテル&レンタカーを絶賛オススメ

さてKIA Carnivalについて語ったとことで、ウルルでレンタカーを借りることの意義を、少し解説したい。

これはあとから知ったことなのだが、ウルル観光はシドニーからの日帰りツアーが多いのだという。朝の飛行機で来て、観光バスでウルルを観光して、夕方の飛行機でシドニーに戻る。それが多い理由は簡単で、ウルルには宿泊施設があまりないので泊まれないのだ。

しかし私たちは幸運にしてウルルにホテルとレンタカーを確保できた。これによって、ウルルの夕暮れや日の出を楽しむことができたのだ。そして、ここでハーツレンタカーのカウンターにいたお姉さんのアドバイスがおおいに生きることになる。

お姉さんは夕暮れを見るスポットとして、ウルルの南東にあるUluru Sunrise Viewing Areaを勧めてくれた。行ってみて、納得。ウルルの向こうに沈む夕日を堪能できる場所だったのだ。

ウルルと夕陽

この夕暮れの美しさに味を占めた私たちは、翌朝の日の出も狙う。もちろん向かったのは、Sunrise Viewing Areaではなく、Uluru Sunset Viewing Areaだ。これが実にいい選択だった。

これから昇ろうとする太陽に照らされる逆光のウルル
ウルルからのぼる日の出

この経験を通して理解したのは、Sunrise Viewing Areaは朝日に照らされるウルルを見ることができる場所であり、Sunset Viewing Areaは夕陽に赤く照らされるウルルを見ることができる場所なのだろうということ。私はウルルからのぼる朝日を見ることができて嬉しかったのだが、どっちを見たいかは人によるだろう。

見る角度は個人の好みによるとして、夕暮れや日の出は日帰りツアーでは決して見ることができない。困難ではあるけれど、ウルル観光を考えている人にはぜひ、ホテルとレンタカーの確保をオススメする。

これらの景色を見て思い出したのが、レンタカーカウンターのお姉さんの注意だった。この景色を見ていると、目の前にある草木をよけて写真を撮りたいと思ってしまう。一歩高く……そう思ったときに目の前にあるクルマ。登りたくなる気持ちがわかってしまった。私はクルマ好きなので借り物のクルマに登ることはないが、言っておかなければ登ってしまう人はいるだろうなと思った。

海外旅行じゃなくてもクルマに登っちゃうお調子者はいるしね

返却はキーを放り込むだけ

上の方に書いたのだけど、ハーツレンタカーのエアーズロック ウルル 営業所は到着便の時間以外は人がいない。出発便に合わせて空港に行くと、人がいないわけで。じゃあどうやってレンタカーを返すのかと言うと。

Key Return Hereと書かれた箱

カウンターの横に設置された箱に、キーを放り込むだけ。それだけ。

日本のレンタカーの感覚だと、傷が増えていないか一緒に確認したり、燃料を補充されているか確認したりするステップがあるけれど。そんなことは気にしないようだ。なんか無責任な気分になりながら、キーを放り込んで、エアーズロック空港発の飛行機に乗り込んだのだった。

(1) 出国前の準備
(2) シドニーでタクシーに乗ってビビる
(3) ミステリーカーでウルルを堪能
(4) シドニーも走ってみればなんとかなる

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