ここが問題 新しい水産資源の資源管理 第3章 資源尾数を推定する

 第3章では資源量推定方法について説明します。資源量推定方法もいろいろな方法がありますが、現在、最もよく用いられている方法が、VPA(virtual population analysis)と言われる資源尾数の推定方法です。。

 バーチャル・リアリティー(仮想現実)という言葉は日常でもよく使われますが、VPAで使われているバーチャルは「仮想」という意味よりも「実質的な」という意味合いで使われています。従って、VPAを日本語に訳すと「実質的資源分析法」といった意味になりますが、VPAに対応する日本語訳はありません。

 以下で説明するように、漁獲が1年間のちょうど中間地点で一気に起こると仮定したり、最高年齢に対する漁獲係数Fを与えてしまうなど、とにかく、力ずくで資源尾数を計算してしまおうという発想が、「実質的な(virtual)」という名前がついている由来ではないかと思います。名前の由来の詮索はこの辺にして、VPAの説明を始めることにします。

3.1  生残率は期間の長さによって異なる

 VPAと言われる資源尾数の推定方法について説明する前に、生残率は期間の長さによって異なるということをお話しておきます。自然死亡係数が0.4の場合について(サバ類やマイワシなどの場合に相当)説明します。第2章の表2-1 で示したように、自然死亡係数が0.4の場合の1年間の生残率は0.67(67%)でした。


図3-1 生残率は期間の長さによって異なる

 半年間の生残率はというと、0.82(82%)になります(図3-1、第2章のコラム2-1)。半年間の生残率と1年間の生残率の関係は、半年間で0.82が生き残り、さらに次の半年間でその0.82が生き残るので、結局1年後に生き残っている割合は、0.82×0.82 = 0.67 になるという関係になります。

 当たり前のことですが、「生残率は1年間か半年間かその期間の長さによって変わる」ということが、次にお話しするVPAの計算で重要になりますので、念のためここで説明しておきました。もちろん、「生残率が期間の長さによって変わる」ことは、漁獲がある場合についても同じです。

3.2  VPAによる資源尾数の推定

 次に、VPAと言われる資源尾数の推定方法について説明します。VPAとは、自然死亡係数の値は既知という条件のもとで、年齢別の漁獲尾数データを用いて、年齢別の資源尾数を計算する方法です。

3.2.1  人工データの作成

図3-2 は自然死亡係数が0.4である魚が0歳で1,000尾いた場合に、漁獲係数が0.3となる漁獲の強さで操業した時に、魚の数が減少していく様子を示したものです。

 この場合の生残率は年間約0.5になるので(第2章の表2-1)、1歳魚の尾数は1000×0.5=500、2歳魚の尾数は500×0.5=250、3歳魚の尾数は250×0.5=125となります。しかし、寿命を2歳と仮定していますから、3歳の誕生日を迎える直前に125尾の魚はすべて死んでしまうものとします。

 第2章の図2-4、図2-5、図2-6に示したように、この時の漁獲尾数は0歳で220尾、1歳で110尾、2歳で55尾になります。


図3-2  自然死亡係数が0.4である魚が0歳で1,000尾いた場合に、漁獲係数が0.3
となる漁獲の強さで操業した時に、魚の数が減少していく様子を表す.

3.2.2   VPAを用いるための仮定

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