生き残るのはハイブリッド企業だ。

『欧米の仕組みでは、資格や学位がないと、勤続年数が長くても管理職になれません。工場労働者の一部は熟練工や技能工になっていくけれど、大半の人は技能蓄積があまり進まなかった。また学位も職業経験年数もない若者は最初から雇ってもらえないので、若年失業率が高くなる。1970~80年代にかけて、欧米各国はそうした悪循環に陥りました。ところが同時期の日本の企業は、何の訓練も受けていない素人同然の若者を新卒一括採用し、長期雇用して、社内教育で彼らに技能を蓄積させていた。この社内訓練と長期雇用の組み合わせで、日本の製造業は高品質の製品を産み出せていると言われていたのです。ただこれは、あくまで結果としてそうなっただけです。政府や財界が、そういうメリットを意図して、長期雇用や新卒一括採用をしていたわけではなかった。欧米のような職種別の訓練制度がなかった日本では、企業が社内訓練する以外に方法がなかったし、近代的組織のモデルが官庁しかなかったので、こういう慣行が定着したということです。またこうした「終身雇用」や「年功賃金」のメリットを享受していたのは、じつは少数派でした。私の試算では、おそらく全有業者の3分の1を超えたことはない。日本の有業者の大半がこの恩恵に浴していたかのようなイメージがありますが、実際はそんなことはなく、大企業正社員だけだった。〜日本の大企業だと、一つの部門が沈滞してくると、その部門を縮小し、そこにいた社員を配置転換で異動させる。日本では社員の専門性を重視しないので、そうした対応ができるわけです。これが他国の企業だと、職種ごとに人を雇っているので、配置転換ができない。だから一つの部門がダメになったら、その部門の従業員を解雇する。だから失業が問題になりやすい。あるいは、政府が公的に職業訓練を提供して、転職するように促すしかないわけです。〜逆に言うと、日本の大企業が長期雇用をできたのは、配置転換ができたからです。この配置転換ができるゆえに、日本は失業問題が少なく、日本企業は業種にこだわらず様々な分野に進出していける非常にフレキシブルな組織だと1980年代には言われていました。〜また日本型雇用は、高度成長期に製造業中心でやっていくには適していましたが、その強みは90年代以降のグローバル化と情報化によって失われました。精密な設計図を、労賃の安い他国の工場にメールで送るだけで、国内工場と同じように製造できるようになった。もう国内での製造にこだわる必要はない。そうなると、日本製造業の最大の強みだった、一般工員の長期雇用による技能蓄積が意味を持たなくなった。〜このままでは厳しいでしょう。1990年代から「もう持続しない」と言われながら、よく20年以上も持たせてきたと思います。なぜ20年以上も持ってきたかというと、このシステムの年功序列で上にあがった人々が、変えたくなかったからでしょう。非正規雇用を増やして賃金コストを削ることはやっても、基本は変わらなかった。じつは統計的には、非正規雇用は増えているけれど、正社員は1980年代から減っていない。私の試算では、年功賃金を享受している層は1980年代から全有業者の3割弱で、この数字もほとんど変わっていません。では増えた非正規労働者はどこからきたかというと、自営業が一貫して減っている。かつての日本社会は、農林水産業や商店などの自営業が多かった。彼らは、所得はそれほど高くなかったけれど、親から受けついだ持ち家があったり、地域社会の相互扶助を得たりして、それなりに安定した暮らしができていた。1970年代に「一億総中流」と言われた時期でも、年功賃金を享受していたような大企業正社員は、おそらく全有業者の3割程度だった。「一億総中流」の実態は、みんなが大企業正社員だったということではない。大企業正社員以外の人々も、自営業者として地域社会で安定して暮らしていたというのが、「一億総中流」のように見えたということだった。ところが1980年代の日本では、自営業者が急速に減って、非正規雇用者が増えている。構造的に見れば「正社員が減った」のではなく、かつてならば「大企業型」に入れない・入らない人たちの受け皿だった自営業が存続困難になり、非正規雇用者に切り替わっている。このままだと、仮に上の3割の大企業正社員の安定を維持できたとしても、下の7割が持たない。上の3割の安定性も、いつまで持つかはわかりません。大手製造業や銀行のここ数年の惨状を見れば、おそらく今後は、上の3割を2割や1割に絞る方向に必然的になっていくのではないでしょうか。しかしそうなったら、大卒でも就職できない人が大量発生することになりますから、社会が不安定になるでしょう。私は、単純に日本の雇用慣行を欧米型に改めればいいとも思っていません。欧米型だと、格差が別のかたちで拡大する。どういう仕組みにしても、一長一短ある。〜回答①は、「労働者の生活を支えるものである以上、年齢や過程背景を考慮するべきだ。だから、女子高生と同じ賃金なのはおかしい。このシングルマザーのような人すべてが正社員になれる社会、年齢と家族数にみあった賃金を得られる社会にしていくべきだ」。回答②は、「年齢や性別、人種や国籍で差別せず、同一労働同一賃金なのが原則だ。だから、このシングルマザーは女子高生と同じ賃金なのが正しい。むしろ、彼女が資格や学位をとって、とり高賃金の職務にキャリアアップできる社会にしていくことを考えるべきだ」。そして最後の回答③、「この問題は労使関係ではなく、児童手当など社会保障政策で解決するべきだ。賃金については、同じ仕事なら女子高生とほぼ同じなのはやむを得ない。だが最低賃金の切り上げや、学位・資格・職業訓練などの取得機会などは公的に保障される社会になるべきだ」。戦後の日本の多数派が求めたのは①の方向でした。②はアメリカ、③は北欧や西欧に近いですが、②だと格差が開き、③だと税や保険料の負担増が増えます。』

これまでのグローバル化と言われた言い種はほぼ「欧米化」だった。欧米のご都合主義は中国やインドの台頭で化けの皮が剥がれてきた。さて、ヒノモトを含めた列強ではない「中小国」は「弱さ」と「適応性」をもってその国の良さを残しながら地球規模的にどんな立ち位置にするかだろう。経営とは「営みを経る」事が重要なのだ。生き残るのはハイブリッド企業だ。

消滅間近…正社員という「特殊な身分」は、なぜ日本に生まれたか
日本社会のしくみの根幹にある存在
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66618

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