病を患うと「患者」となるが自身が病を患っていないと感じている間は診察も診断も治療もできない。

『では今後、製薬企業含む医療プロバイダは「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の二律背反をいかにして克服すべきだろうか。一つの方向性が「予防領域への展開」である。従来の「臨床アウトカム(有効率、奏効率など)」向上をターゲットとした治療のみならず、「経済アウトカム(費用対効果)」と「患者アウトカム(QOL、ADL、治療満足度など)」を包含する「ヘルスアウトカム」全体の向上に貢献することが求められるこれからの医療において、「予防」アプローチが重要性を増してくる。~一方で、これからの予防医療が従来のそれと大きく異なるのは、その対象が「慢性疾患患者」だけでなく、「健康な個人」にまで拡大されている点である。こうした「健康な個人」を対象とした予防医療を可能とする大きな要因の一つが、デジタル技術の革新である。例えば、モバイルヘルスデバイスの普及は、これまで収集することが困難であった個人のバイタルデータへの常時アクセスを可能にする。高品質なデータをリアルタイムで大量に収集することができれば、これまでブラックボックス化されていた「健康な個人」が「患者予備軍」へと遷移するプロセスの解明も進むであろう。また、遠隔診療やAIによる診断補助が、地理的あるいは人的制約を取り除き、医療提供の垣根は格段に低くなる。今後、さまざまなデジタル技術が、潜在的な患者の早期発見に大きく貢献するだろう。加えて、デジタル技術の革新により、患者側に大量のデータが蓄積し、医師と患者間のパワーバランスが大きく変化するであろう。その結果、これまでの医療機関を中心としたマス対象の医療から、「患者中心の個別化医療」へとパラダイムシフトが加速すると考えられる。予防医療を事業化(マネタイズ)するためには、「サイエンス起点でのアプローチ」と「エンゲージメントを高めるアプローチ」の双方が必要である。人間は、病気にかかって初めて健康のありがたさ、予防行動の大切さを実感する生き物である。予防医療ビジネスがマネタイズに至らない大きな理由の一つが、健康な個人にとって、疾患に対する予防行動をとることのメリットがいまひとつ見えにくく、対価の支払いに至らない点にある。「健康な個人」を予防行動に向かわせるインセンティブをいかに設計し「エンゲージメント」を高める仕組みを設計できるどうかが、マネタイズに向けた鍵となると言えよう。日本には、ライフサイエンスと医療業界に精通した製薬企業/医療機器メーカーも、消費者マーケティングに長けた消費材プレーヤーも、最先端のデジタル技術を有するテックプレーヤーも存在する。従来の業際を超えた異業種のコラボレーションにより、画期的な予防医療のビジネスモデルを新たに構築することができるのではないか。』

「生きる」とはQOL(人生の質)であるがADL(日常生活動作)が困難になればおのずと人生の質も下がる。病を患うと「患者」となるが自身が病を患っていないと感じている間は診察も診断も治療もできない。最近はフィジカルな面だけではなくメンタルな面で病を患っている可能性があるモノが悲惨な事件を起こしている場合も散見される。未病・予防医療の促進と社会問題と化している「ヒトの質の低下」はデリケートな問題だが喫緊の課題だろう。

デジタル技術が拓く未病・予防医療の未来――新規ビジネスモデル構築とマネタイズの切り口 (1/2)
製薬企業含む医療プロバイダは「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」の二律背反をいかにして克服すべきだろうか。
https://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1908/21/news005.html

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