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月が綺麗ですね

異星人の攻撃で月が破壊されることが分かった。
開き直って騒ぎ立てるニュース番組、インターネットを駆け巡る科学的見地からの推論、右往左往する陰謀論。情報は弾けて世界中に霧散した。一言でまとめると、俺が生まれて十四年間で一番の混沌が世界に広がった。

二学期が始まって間もないうちの臨時休校、追って沙汰があるまで、みたいに先生は言うけど、ないよね。母さんも父さんも泣いてるし。こわ。
生まれて初めての完璧な非日常。やっばー、だけが本気の感想。不謹慎とかピンと来ない俺らのグループラインが真夜中にも関わらず死ぬほど盛り上がってワクワクは急上昇、そんな中で友人からポンと出た「お前、告白しねえの?」。その一言にハッとした。

確かにこの機に乗じるしかない。憧れのクラスメイトの外村さん。こんなド田舎をもろともせず独りを貫く孤高の美人。ずっと好き。

行くわ。勢いで言い切ってトークルームを切り替えてクラスのグループラインから初めて外村さんにえいっと言葉を飛ばす。「谷垣だけど。いま話せる?」
ほぼ同時にスマホからギュイギュイッとアラート。月が攻撃を受けた。そんな情報今さらだ。月は割れるんでしょ?
返信を待たずに俺は自転車に飛び乗った。外村さんちを目指す。

走りながら見上げた雲ひとつない夜空。月。黄色い円形に黒くヒビが入っているのが肉眼でもわかる。始まった。ネットの話だと、一時間程度で「割れた」状態になることは知っていた。その情報が正しいかどうか知らないけど。

外村さんちまでは飛ばせば十分程度。自分でも怖いくらいの速度で外灯の少ない坂道を駆け上る。急げ。乗じろ。言っちゃえ。

外村さんちまであと数百メートルのところまで来て、ペダルを漕ぐのをやめてスマホを見る。「新規メッセージがあります」。さっきの俺のラインへの。外村さんから!

片手親指、ぐいっと画面をタップしてトークルーム。それまでやりとりのない空色の背景には吹き出しが二つだけ。少し前のはさっきの俺、最新のは外村さん。
「月が綺麗ですね」
そう一言だけ。は? 何それ。

片手でブレーキを握りしめる、急制動につま先を立てて、とと、と自転車を停める。外灯と外灯の間。夜が濃い。何か返さなきゃ、と親指が彷徨う。
ぽん、とさらに外村さんから。「とか言い出したら殺す」

?? 全然わからない。月が綺麗だって? 言ったら殺す?
夜空を見上げる。月のヒビが少しだけ広がっているような気がする。綺麗か?

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