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新聞記事やプレスリリースにおける科学記事の曖昧さについて

近年、大学や研究機関では「役に立つ研究」やアウトリーチが求められていることもあると思いますが、時々首を傾げたくなるような発表を見かけます。
疑似科学や捏造など科学者の不正行為によるものは論外ですが、それ以外でも新聞記事やプレスリリースでは不正確で不誠実なものが目立つように思います。

医療や食品の分野では「健康にいい」「病気になりやすい」、植物や環境の分野では「植物が大きくなる」「植物の生産性が上がる」「植物や微生物から油をつくる」といった類の表現がそれにあたります。

「健康にいい」といっても、筋肉が衰えないのか、骨が丈夫になるのか、糖尿病などの疾患になりにくくなるのか、「ガンに効く」と言われても、どのガンに効くのか、「頭が良くなる」の内容は?、「病気になりやすい」って、どの病気?など、もっと具体的に何かあるだろうと思うのです。

「植物が大きくなる」「植物の生産性が上がる」と言われれば、それは根なのか茎なのか花なのか、葉のサイズなのか、長さなのか、厚みなのか、細胞数が増えるのか、細胞の体積が増えるのか、開花時期がずれるのか、植物乾燥重量なのか、それぞれ何倍になるのか、どのくらい変化するのか、といった情報が当然あるべきで、そういったきちんと測定すればすぐにわかる情報の記載のないもの、論文として発表されていないもの、論文中でもそういった情報が書かれていないものは、ほぼトンデモ科学と考えてよいでしょう。

また、「植物や微生物から油をつくる」という話も、植物や微生物が油脂類を作っていることは当たり前の話であって、どういった種類の油が何倍増えるのか、植物や微生物が大きくなるのか、細胞数や菌数が増えるのか、油脂を作る代謝系を改良したのか、新たな精製法を開発したのか、遺伝子操作や変異株によるものなのか、薬剤やストレスなどの何らかの処理をするのか、といった情報が当然あるべきで、そういった情報が見えないものは鵜呑みにするべきではないと考えます。

論文として発表されていないもの、論文へのリンクの貼られていないもの等、情報のソースを追えないものもしばしば見受けられます。そういった発表にエビデンスはあるのでしょうか?

世の中で「役に立つ研究」が求められているからといって、「役に立つ」と言った者勝ちというのは違うのではないでしょうか?

メカニズムがわからないからといって即「疑似科学」というものではありませんが、そういった目立つ発表をもてはやす風潮はどうにかならないものかと思います。
そういった声に流されてあちこちで呪術的なことが行われる、そういったことに研究費や人材などの限られた研究リソースが費やされるという事態は避けてもらいたいものです。


追記:例えば、血液型で「A型は〇〇」「B型は〇〇」といった言説がよく流布されてますが、たった4つの表現型、2つの遺伝子座で何でもかんでも決まるわけはありません。

2018年6月28日の朝日新聞に「A型の人は旅先の生ものに注意?」というタイトルの記事が掲載されていました。
A型の人の腸は病原性大腸菌の分泌するタンパク質と結びつきやすいので、おなかを壊しやすいという話題でした。
しかし、実際に情報ソースの論文をたどってみると「病原性大腸菌H10407 (O78:H11)株の場合…」という限定された内容でした(文献)
旅先の途上国で腹痛になる原因はこの菌だけではないので、A型の人だけが旅先でお腹を壊しやすいというわけではありません。
0157など他の病原性大腸菌やコレラ菌などもいるので、他の血液型の人も旅先の途上国では生ものに注意しましょう。

Pardeep Kumaret al. Enterotoxigenic Escherichia coli–blood group A interactions intensify diarrheal severity.
J. Clin. Invest. 2018;128(8):3298-3311. https://doi.org/10.1172/JCI97659.

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