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反ワクチン運動の疑似科学性について

近年、ワクチン接種や処方薬について、反医療的な言説をしばしば見かけます。

「子宮頚がんを予防するヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種のせいで、けいれんを起こした、神経障害を起こし認知機能が低下した」「インフルエンザで処方されたタミフルで異常行動が起きた」といった事象から、「ワクチンは害がある」「病気は処方薬に頼らず自然治癒するべき」といった主張がなされています。

実際にそのような症状が起きたというのは事実でしょう。

しかし、これらは本当にワクチン接種や薬の副作用なのでしょうか?

このようなケースでは、しばしば「ワクチン接種や薬を処方されて健康被害を生じた人」と「健康被害を生じていない人」の比較が行われています。  

ただし、実際には、ワクチン接種や薬を処方されずに通常に暮らしていても、ある日突然けいれんを起こしたり神経障害を起こす方々が一定数います。
インフルエンザで高熱にうなされて異常行動を起こす例は、薬の処方の有無とは関係なく存在します。  

本当に副作用の影響であるかどうかを明らかにするためには、「普段通りに生活していた人たちが、ある日突然健康被害を訴える確率」と「ワクチンや薬を処方された人たちが、ある日突然健康被害を訴える確率」の比較をする必要があります。  

仮に、通常に生活を営んでいる1,000万人の中で100-200人の人達がある日突然痙攣を起こすのであれば、ワクチン接種を受けた10万人の中にはワクチン接種とは関係なしに1-2人は痙攣を起こす人が出てきてもおかしくはないのです。
インフルエンザ感染が原因で異常行動を示す人が100万人中に400−500人いれば、処方薬の有無とは関係なく、薬を処方された1万人の中に4-5人くらい異常行動を起こす人が現れても不思議ではありません。
それら症状の原因は薬による副作用ではないと考えられます。  

雨乞いをしたら雨が降ったからといって、雨乞いのせいで雨が降ったとは限りません。

現時点では、HPVワクチンや風疹ワクチン、タミフルなどによる副作用では、統計的に有意な差があるとは確認されていません。  

また、実際に副作用がある場合においても、それが一概に悪いかというと、ベネフィットとリスクの兼ね合いなのでそうとは言えません。

実際に「生ワクチン」は病原性を弱めた病原体を接種することによって、軽い感染を生じさせて免疫を誘導するもので、稀ですが感染症を起こすリスクがあります。ある意味、病気に自ら感染しているので、「健康に害がある」というのも100%間違っているとも言い切れないかもしれません。「不活化ワクチン」についても、アナフィラキシーショックなど副作用の可能性は否定できないでしょう。

しかし、軽い感染症を起こすことによって、重篤な症状を回避できるのであれば、ワクチン接種が間違っているとは言えないでしょう。
実際に10人に副作用が出るとしても、1,000万人が癌にかからなくなるというのであれば、メリットがあると言えます。
風疹など、ワクチン接種前の乳幼児が感染すると重篤な被害を受けるような感染症は、周囲の人々、社会全体としてワクチン接種を受けておくことに大きなメリットがあると考えられます。

人類の歴史は、感染症や病気との長い戦いの歴史でもあります。
ワクチンの開発によって、種痘が退けられ、近年でも西太平洋地区においてポリオ撲滅宣言が出されました。
子宮頸がん、風疹、麻疹、水痘、インフルエンザなど、多くの感染症に対してはワクチン接種による免疫付与や免疫誘導が有効とされています。  

最近、風疹の流行によって海外から日本への渡航自粛注意が出された例ように、日本だけが国際的に認められているワクチンや処方薬のメリットを享受できずに感染パンデミックに巻き込まれるなんてことのないようにしてほしいものです。

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ただし、この種の確率や統計の話には難しい問題が含まれています。
社会的、全体的にはメリットを享受することは重要ですが、同時に、個別の問題として健康被害を訴えた人達に寄り添う、何らかの手当てを保証するということもまた大事であると考えます。

確率や統計の手法は社会的に物事を決定する際には非常に有用なツールですが、個人レベルの1回限りの現象については常に限界があることも理解しておかねばなりません。  

逆に、n=1だけの事象で全体を理解した気になってはいけません。


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