見出し画像

知らない女の香りをつけている

この前、友達の買い物に付き合って伊勢丹のマルタンマルジェラに行った。マルジェラには服や靴のほかに、沢山の種類の香水が売られていて、すべての香水にはシチュエーションの名前が付けられていた。全部嗅いだ中で、一番しっくり来なかったものがLazy Sunday Morningと名付けられた香であった。怠惰な日曜の朝。ボトルには、ベッドでまどろむ裸の女性の写真が貼り付けられている。

香水って基本的には、いい香りと感じるものと、臭くて鼻が曲がりそうになるものの2種類しかない。でも、この怠惰な日曜の朝に限っては、決して嫌いじゃなく、むしろいい匂いだな、と思うものの、ただひたすらなにかがしっくり来ないのだ。この妙な感覚がずっと引っかかり続けて、結局私は後日、怠惰な日曜の朝を入手してしまう。

首に少しだけ付けてみると、しっくりこない理由が一種で判明した。これは、少なくとも私ではない、知らない女の香りなのだ。私でない女の香りなのだから、しっくりこなくて当然だ。

それで私はその日以来、毎日のようにその香水をつけている。しっくりこない感覚で外堀を埋めきった末に、浮き上がるようにして見えてくるものを待っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?