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ルミネtheよしもとで出会った親子

「双方の気持ちが理解できる」
そんな特殊な立場に立った時、どちらの味方に立つべきか。どちらも尊重する言葉が出てくるか、そして瞬時に行動へ移せるか?
人間性はそこに出るかもしれない。久々に外に出てそんな体験をした。

***

8月末、妬けつくような猛暑の1日が終わる頃。家族が寝静まった布団の片隅でスマホの画面にそれを見つけてしまった。
「ルミネtheよしもと、明日!残席あります!」
何組か書かれた出演者の欄にインパルス板倉さんの名前もあった。たまたま仕事は休み。朧気な意識が一気に冴え、気付いたらチケットを予約していた。暗闇の中予約メールの受信震動を気付かれないよう即時に消す。好きな芸人さんを生で観れる喜び、緊張、朝からの入念な段取りを巡らせ始めなかなか寝付けなかった。

いつも通り9時に子を預けに行くが、流石に後ろめたさを感じる。以前園長が「親御さんが息抜きする為の施設でもあります」と言ってくれたのを思い出しつつ新宿へ。トイレで久々のフルメイクを施す。
誰も見てないのは解ってるがただの自己満だ。仕事以外で自分の用事で出掛ける、という行為が約1年振りだった。

初めてのルミネは1席ずつ空けてあり、前後も1メートル程離すように配置されていた。換気や消毒もきちんとされておりスタッフさんの気遣いが感じられる。

余談だが音楽のライブしか行った事がない為、半券切り渡しの時「お目当てはどちらですか?」等と聞かれなかったのに少し驚き。でもいい面子だったらあれもこれも見たいってなるよな。

平日昼間だし空いてるかな、という思いはいい意味で裏切られる。やはり皆娯楽を求めてるんだなと感じた。
開演ギリギリ、ちょうど前の席に子連れのお母さんが座った。うちとそんなに変わらない年頃の未就学児が膝の上でスマホを一緒に見たり持参の玩具を触ってたり。
正直一瞬、大丈夫かな?と思った。よしもと側は夏休みだからと安い子供料金も設定していて大歓迎なのだ。

結論から言うと、その子は実にお利口さんだった。疑ってごめんよ。

比べたり卑下するのはよくないと聞くが、自分の子供だったらコロチキがど~も~!と出てきた瞬間に
「あ!あ!あ!なだうなだう!!」と叫び立ち上がり指差すであろう、親の観るナダルアンビリバボーとかで慣れてるから……。
そして暗闇に驚いて泣き、飽きたら奇声の1つや2つ上げてる所が目に浮かぶ。

話戻って、お喋りもヒソヒソ声だったから特に気にならず、初の生板倉さんを堪能できた。
次々と出てくる芸人さん達を見て思ったが、どうしてもYouTube等で観た事のあるネタが続いてしまう。それは本当に仕方無い事だと思うし実際リアルだと声量、客席の空気、笑い声、色んなものが一体化してまた違った見方もできる。
しかしテレビであまりできないようなオール新ネタをぶっ込んで下さった板倉さんに大感謝、実に感無量だった。心配だった園からの着信も無い、こんなに満たされた気持ちは何時振りだろうまた来ようと帰りのエレベーターへ乗り込む。

「ほら、乗るよ急いで」
慌てて駆けるような足音が近付き[開]ボタンを押すと、前に座っていたあの親子が乗ってきた。軽く会釈され[閉]ボタン、3人乗せたエレベーターが下がり始める。その途端。
「もう!いい子にしてなかったから、今度は連れてこない!」
「ごめんなさい…」


えええええええ。
背筋を氷でなぞられたような感覚。


1階に着くまでの数秒間、全力で思考を巡らせた。こんなに脳をフル回転させる事もそうそう無い。
どうする?「そんな事ないよ~いい子にしてたよ」と言おうか。でも向こうからしたら私は後ろの席だから全く見えてない、完全に見知らぬ不審者だ。マスクしてるからって密室で話し掛けるのもいかがなものか。それに……

無情にも到着の音が小さく鳴り、結局親子が降りるまでまた[開]ボタンを押し続ける事しかできなかった。

迎えまでまだ少し余裕があったので、軽い昼食を摂りながらもどうしてもモヤモヤは晴れず。
あのお母さんの気持ちも解ったのだ。彼女はきっと酷い人なんかじゃない。どうしても預けられない事情か、もしくは全然外に遊びに連れていけてないから久々に一緒にライブへ、といった所か。
でも実際は小さい子が居たらなかなか集中して観られないのが現状、これは日々痛い程身に染みている。でもちゃんと静かにねとあやし続け最後まで膝の上に乗せていた。
となると、「いい子にしてたよ」はお母さん自体を否定する棘になりうる可能性もある。そう思うと喉元まで出かけた言葉を飲み込む他無かった。
こうやって私は『sailing day』を聞いて余韻に浸りながらも、自分を無理矢理正当化した。正解とは何ぞや、なんて不甲斐ないのだろう。

化粧を拭き取り証拠隠滅して園へ行くと、いつも通り大声で盛大な出迎えを受け勢いごと抱き止める。先生にも内心大感謝。
きっとあの子もママとお出掛けできて喜びでテンションも上がっていた筈だ。あの後美味しいご飯でも食べて、また笑えてればな。そう願ってやまない。

もしまた次似たような機会があったら、私は間違いなくお節介ババアになる。あの「ごめんなさい」と呟いた横顔が脳裏に過る度思う。

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