高重量デッドリフトで背中が曲がる理由は背中が弱いからではない。

注意:以下の記事は1RMを追求するために取り組んでいる前提です。筋肥大やパフォーマンスアップなどを目的とした内容ではありませんので、あらかじめご承知おきください。

はじめに
 軽い重量であれば問題ないにも関わらず、高重量デッドリフトになると背中(主に上背部)が曲がる理由については、「背中が弱い」「脚が使えていない」「フォームが悪い」「意識性の問題」etc…、様々な見解があると思いますが、本当の理由は何でしょうか?
 その原因を確認するため、まずはどのようなメカニズムが働いているのか順を追って解説します。


①背中が曲がるメカニズムについて
 以下の写真はバーベルを挙上する直前の動きです。
 正しいセットアップを行っているように見えるにも関わらず、挙上する直前で背中が曲がっています。

 写真を見比べると、背中が曲がっている以外にも尻が浮き上がり腰の位置が高く、肩が下がっていることに気付くと思います。まずは腰の位置が高くなっている原因をレッグプレスに置き換えて考えてみましょう。
※以下の写真は90度反転させたものです。

 高重量レッグプレスを行う際、軽い重量と比べて可動域が浅く(狭く)なることが往々に起こると思います。その理由は当然ですが、高重量になると深い(広い)可動域では筋力が足りず、脚で押すこと(特に膝伸展)が出来なくなるためです。同じことがデッドリフトでも起こります。セットアップ時の位置で膝の可動域が深すぎると、身体が無意識のうちに尻の位置を高くし、腰高にすることで膝の可動域が浅くなるように調整するのです。
 腰高デッドリフトであればファーストプル時の膝伸展に必要な力を小さくさせることが可能となりますので、特に脚が弱い場合、このような動きになりやすいと言えます。

 さらに、上の写真の通り、バーベルが動かない状態で背中を真っ直ぐに保ったまま尻だけ高くしようとすると、前方へ転んでしまうため、長さを変えることが出来る背中でバランスを取ろうとしてしまい、その結果、背中が曲がることになります。写真では分かり辛いですが、背中が曲がることで肩が斜め下方に下がり、白線(見た目の背中の長さ)が減少しています。

 以上の通り、複合的な要因ですが、脚力が弱い→尻を上げて必要な脚力を小さくする→前後のバランスを取ろうとする→背中が曲がる(→肩がやや下がる)というメカニズムとなっています。

②腰高デッドとラウンドバックデッドリフト
 ここまでの説明で『最初から背中を大きく前傾させれば尻を高くしても前に転ばず背中を真っ直ぐに保ったまま挙上することが出来るのでは?』と思った方が居るかも知れません。
 所謂『腰高デッドリフト』ですが、それも解決策の一つではあるものの、背中の前傾角が大きくなるため、それだけ強い背中の筋力が必要であり、現実的には高重量で実行することは困難であると言えます。
 下の写真の通りですが、腰高で背中を真っ直ぐにしようとすると、地面に対して背中の角度がほぼ水平になります。もちろん、これを実行している背中が強い人も居ますが、見て判る通り、背中に掛かる負荷が非常に大きいので、かなり人を選ぶフォームだと言えます。

 背中を敢えて曲げることで挙上し易くなるテクニックとして『ラウンドバックデッドリフト』をご存知でしょうか?
 先ほどの写真でも紹介しましたが、背中が曲がると肩の位置は少し斜め下方向に下がります。このことによってモーメント長が変化し、挙上時において、下背部の負荷を低減させることが出来るようになります。
 逆に言うと、背中を大きく前傾させて真っ直ぐ保った状態ではモーメント長が長く、大きな負荷が掛かってしまいます。
 しかし、ラウンドバックデッドリフトには落とし穴もあります。それは、フィニッシュ時において肩を返す際に詰まり易くなることだけでなく、上背部にせん断力が強く働いてしまうことです。

 ここで言うせん断力とは、我々が重力やその他の負荷を受けた際に起こる捻じれを起こすような圧力のことです。以下の写真をご覧ください。

 釣り竿などと同じように、背中の曲がる始点(撓りが大きい部分)においては、せん断力が強く働きます。その結果、上背部の負荷が増し、胸椎のヘルニアなどの危険が伴います。一方で、モーメント長自体は短いため、腰椎のヘルニアと比べると危険性は多少低いとも言えます(※)。
 ※安全なフォームだということではありません。

Tips 肩の外旋について
 デッドリフトの際、肩の外旋を意識したことがあるでしょうか?教科書的なフォームにおいては肩をニュートラル~やや外旋させることが推奨されるかと思いますが、1RMを追求する場合、敢えてなるべく外旋させないという方法があります。
 具体的には、以下の通りです。

【肩を外旋させた場合】
 見た目の腕が短くなり、ファーストプル(=脚で押す距離)がやや長くなる反面、上体を立て易く、また膝上からフィニッシュ付近の可動域が短くなります。一見、脚力に自信があれば肩を外旋させた方が良さそうに思えますが、挙上時にかなり腰を落としている場合、最初から強く肩を外旋させてしまうと、余計に脚で押す距離が長くなるため、脚力が持たない可能性が生じます。このことから、肩の外旋は脚力に自信があったとしても、フォーム全体でバランスを考える必要があると言えます。

【肩をニュートラルに保った場合】
 見た目の腕が外旋させるよりも長くなるため、ファーストプルで自然と尻の位置を高く、脚の弱さを補うことが出来る反面、フィニッシュでやや詰まり易くなります。
 また、既にお気付きかと思いますが、ラウンドバックデッドリフトにおいては肩は外旋させずニュートラルにさせることがほぼ必須となります。なお、肩がニュートラル気味であるほど、背中が若干曲がりやすくもなりますので注意が必要です。

 結局のところ、肩を外旋させるかニュートラルに保つかについては、絶対的な答えはなく、自身のフォームをしっかり分析しつつ、ストロングポイントとウィークポイントを把握した上でバランスを取って決めるしかありません。

③背中を曲げずに挙上する方法
 背中が曲がってしまう人の大半は、背中が弱いのではなく、むしろ脚力が背中の筋力に比べて弱いため、フォーム論や意識性の問題ではなく、単純に脚力を向上させることが求められます。
 ここで注意すべき点は、『脚力を使ったフォームや意識を身に付ける』ということではなく、『脚力自体を高める必要がある』ということです。脚力が十分にあってフォームや意識が悪いケースもありますが、それは初心者がほとんどであり、それは単なる練習不足・経験不足です。
 例えば、『ポーズデッドリフトやデフィシットデッドリフトで脚の使い方を覚える』という表現は、ある程度の経験者にとってはあまり適切ではありません。これらのバリエーションは背中を曲げないデッドリフトに寄与しますが、あくまで脚力の向上が目的だと意識すべきでしょう。他にもレッグプレスやスクワットなど、脚にフォーカスしたトレーニングが不可欠です。

 最後に
 以上、解説をいたしましたが、『そうは言っても背中が曲がるのは背中が弱いからだろう』という反論もあるかと思います。そういったケースがないとは言いません。しかし、背中が曲がった状態でバーベルを浮かし、粘りながらも背中の力で挙上する人が居ることも事実で、その人を指して『背中が弱い』と言えるでしょうか?『脚が使えていない』という点も部分的には合っていると思いますが、それは初心者にありがちな意識性やフォームの問題ではなく、純粋な脚力不足によるものだと考えるべきかと思います。
 本文中でラウンドバックデッドリフトや腰高デッドリフトについて今回少し触れておりますが、これらのテクニックはメリットとデメリットのどちらも大きく、興味のある方は必ず安全面に配慮した上で挑戦してください。

 稚拙な文章に最後までお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。無料で公開させていただきましたが、この記事が参考になった方はぜひ300億円ください。10億円、1億円でもけっこうです。何卒よろしくお願いします。

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