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【書評】やさしい・失敗しない 低侵襲ソフトティッシュマネジメント

月刊『日本歯科評論』では,当社発刊本の書評を随時掲載しております.2021年1月号掲載分の「HYORON Book Review」を全文公開いたします(編集部)

水上哲也/福岡県福津市・水上歯科クリニック

■少ない侵襲で同じ結果を出すためのノウハウが満載


私たちは,ともすれば派手な臨床結果や,複雑で華やかな臨床術式に目を奪われがちであるが,より少ない侵襲,より短い治療期間で同じ結果を出せるのであれば,それに勝るものはない.そのことを改めて実感させてくれるのが本書である.

治療において侵襲度合いは,術中の侵襲度の強さと治療に要した時間を掛け合わせた総量と考えられる.著者が述べているように手術の大きさを変えるだけではなく,2回で行う手術を1回で行うこと,あるいは時間を短くすることも侵襲度を減らすための重要な努力目標であるが,この考えはしばしば見落とされる.本書ではそのための手法をわかりやすい臨床写真で示してくれている.

本書の中で最も印象的なことを2つあげるとすれば,第一にインプラント周囲炎の発症リスクを減らすために,インプラント周囲粘膜の厚みを3mm,角化粘膜の幅を4mm以上と定めていることである.
そして第二にインプラント二次手術を行う際の角化粘膜確保のための基準線を“ヒーリングアバットメント舌側接線”と規定していることである.

著者の研究結果に基づき,ポケット深さとBOP陽性が相関するという事実を踏まえ,健常なポケット深さが約2mm,そして骨頂部の粘膜の厚みの1mmを足し合わせて合計3mmと粘膜の厚みを設定している.インプラント周囲の粘膜は可動性があると骨吸収をきたすリスクが6.76倍であることが示されており,基本的に非可動性であることが望まれる.
そしてインプラント周囲の上皮性付着が2mm,結合組織性付着が1mm,そして骨に付着している組織の幅を1mmと規定し,合計4mm以上の角化粘膜の幅が必要と規定している.

あくまでも著者の仮説としているが,この数値は論理的で納得でき,臨床の現場において非常に有用な数値である.この基準値を設定してくれたことは非常にありがたいことである.
また,重度歯周病で抜歯に至った症例や,骨造成を伴うようなインプラント症例では角化粘膜の幅の不足をしばしば経験する.この時確保するべき角化粘膜をどこを基準として考えるかは難しい問題である.本書で規定されているヒーリングアバットメント舌側接線のコンセプトには私も同感であり,非常に役に立つ.

その他,インプラント周囲のthinningは他には見掛けない内容である.
かつて歯周外科には厚すぎる口蓋の歯肉を薄くするためのthinningの術式が用いられていた.現在ではインプラント周囲粘膜にこそこの考えが必要であると感じている.厚すぎる周囲粘膜によるトラブルをしばしば経験するからである.

第5章では修復処置を応用した軟組織のマネジメントについても解説されている.レジン充塡,ラミネートベニア,テンポラリークラウンなどを上手く活用した軟組織のマネジメントが紹介されている.
また,第6章でインプラント埋入術前処置としてのエクストルージョンの具体的な手法が大変明解に解説されている.特に大きな粘膜の裂開があるようなケースに対して行うバッカルルートトルクの手法についても詳述されており,実際の裂開症例で応用したい.

第7章ではフラップを剝離翻転しない臨床的歯冠長延長術について紹介がなされている.
生物学的幅径を得るための骨外科を伴う歯肉弁根尖側移動術の治療結果は不確実であり,しばしば予想した結果とならないことを経験する.また,予想以上に治癒期間を待たないといけないことも多い.症例次第ではシンプルで低侵襲なこの術式は非常に有効である.

本書は,著者が冒頭に述べているように,アルバムをパラパラめくるように眺めるだけでも十分に楽しい本である.
研究者でありながらこれだけの綺麗な臨床写真を撮影し,確実な治療を実践されていることに脱帽する.若い先生からベテランの先生まで幅広い層の臨床医に役立つ書籍である.


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『やさしい・失敗しない 低侵襲ソフトティッシュマネジメント』(林 丈一朗 著)
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