忍殺TRPGソロリプレイ:【ザ・フルメタル・クエスト・オブ・アンノウン・ブラウン】

◇前置きな◇

 まず、今回はラブサバイブ=サンのソロシナリオ……【カブトムシの茶色】に挑戦する。これだ。

 いろいろとインパクトのあるシナリオである。主に……いや、よそう。こればかりは実際に楽しんでのお楽しみだ。

 さて、挑戦者はニュービー……つまり新しくダイスで作った。こいつだ。

ニンジャ名:フルメタル
【カラテ】:5             【体力】:5
【ニューロン】:5           【精神力】:5
【ワザマエ】:1            【脚力】:3
【ジツ】:3(ムテキ・アティチュード)
【万札】:0
【DKK】:0
【名声】:1
装備:家族の写真、○生粋のソウカイヤクザ

 カラテと度胸を併せ持つも、致命的に不器用なソウカイヤクザ……いろいろとドラマを作りやすそうな造形である。(おそらく)厳しいこのニンジャが虫取りに向かう背景だけでもいろいろ考えられそうだ。

 というわけで、早速やってみよう。ヨロシクオネガイシマス。

◇オープニングな◇

 ネオサイタマでは時の流れが速い。人も、車も、経済もあっという間に流れ行き刻々と姿を変えていく。流行はすぐに廃れ、市民たちはメガコーポが作り出した新たな流行に飛びついていく。

 では、今の流行はなにか? それはカブトムシクワガタムシだ。子供達はヨロシサンが売り出したバイオカブトムシやバイオクワガタを戦わせるバイオインセクト・イクサに夢中だし、カネモチは希少な海外産オーガニック・カブトムシをトコノマに飾る。場合によっては虫一匹でヤクザベンツ1台分ほどのカネが動くこともあるほどだ。

 そうした流行は常に経済を生む。よりよいバイオカブトムシやバイオクワガタを求めるビートルハンターたちがネオサイタマの郊外を駆け巡り、時に争い、時に死ぬ。近頃も、オーガニック・カブトムシ目撃情報がささやかれたオクタマ・ウッズへ派遣されたカブトムシ捕獲隊が消息を絶った。依頼主のカネモチにどれだけ資産的被害が及んだか……それはここで語ることではあるまい。

 そして今、オクタマ・ウッズへ単独で踏み込む者が一人。着古したヤクザスーツの袖や裾から覗く肌、そしてその顔にはいくつもの傷が刻まれている。一般市民が見れば恐れ入って自ら道を譲るほどの迫力だ。

 ……しかし、首からぶら下げた虫かごと背中の虫取り網がその威圧感をスポイルしていた。もっとも本人は気にした様子がない。この者の名はフルメタル。ネオサイタマを牛耳るヤクザ組織「ソウカイヤ」のヤクザであり……ニンジャなのだ!

「しッかしまァ、虫取りとはねェ。ガキの時分にもやったことねェぞ……潰しちまわねェかな……」

 ぶつぶつと呟きつつも、フルメタルは無造作にオクタマ・ウッズへと踏み込んでいく。危険なバイオ猛獣も数多いるこの森に、なぜニンジャが? ……それは今、ここで語るべき事柄ではない。

 いずれにせよ、フルメタルのカブトムシ・クエストは幕を開けたのだった。

◇本編な◇

 「イヤーッ!」軽々と『立入林止』『命の保証はありません』『死ぬ』などの看板群もろとも有刺鉄線を飛び越えたフルメタルは、思い出したように額の汗を拭う。恐怖によるものではない。単純に温度によるものだ。

「しッかしまァ、少し離れるだけでこんなに晴れるかねェ。眩しくてしょうがねェ」

 木々の間から漏れ落ちる陽光に目を細めつつ、フルメタルは奥へ奥へと進んでいく。本日は快晴。ネオサイタマ市内では滅多に体験できぬ天候。あるいはピクニックなどに繰り出したくなるアトモスフィアともいえた。

 もっともオクタマ・ウッズはその手のレジャーにまるで向いていない。時期の乱れによって携帯IRC端末の通信は途絶。写真を撮って共有することもできぬだろう。一応持ち込んでみた方位磁石も意味もなく回転する。要は役立たずだ。

 ……もし不幸な一般市民が、このような魔境に放り込まれ、さまよい続けたらどうなるか? 「GRRR……」十中八九、この密林に潜むバイオ猛獣たちの餌食となるだろう。

 フルメタルは足を止める。喧しくがなりたてるバイオニイニイゼミの鳴き声の隙間から、無視できぬ唸り声を聞き取ったからだ!

「GROWL!」

 果たしてその唸り声の主がフルメタル横手の茂みから飛び出してきた! 腹を空かせたバイオレオパルドである!

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 →  2, 2, 3, 3, 4 成功

「イヤーッ!」「ギャウンッ!?」だが、その牙が獲物に届くことはついぞなかった。彼が喰らうことになったのはフルメタルの痛烈なヤクザ・ケリキック! 鋭いピンヒールがその喉奥に突き刺さる!

「オトトイキヤッガレ、ガキめ」

 這々の体で逃げていくバイオレオパルドの背に唾を吐きかけてから、フルメタルは再び探検へと意識を戻す。彼女は生粋のソウカイヤクザであり、この程度のトラブルは危機にも入らないのだ。

◇◆◇◆◇

 やがてフルメタルが行き当たったのは沢だ。タマ・リバーへと合流し、最終的に海へと流れる雄大な自然。が、今のフルメタルにとっては単なる障害に過ぎない。「イヤーッ!」適当な木を蹴り折り、即席の橋を作り出す。水中になにがいるかわかったものではない。不用意に飛びこすのは危険……そう判断したためだ。

 そしてその勘は的中した。

 SPLASH、SPLASH、SPLASH! 突如として上流から水飛沫が迫ってくる! 「「「Arrrrgh!」」」ナムサン……それは恐るべきバイオピラニアの群れ! フルメタルのピンヒールに付着したバイオレオパルドの血の僅かな匂いを察知したのだ!

 フルメタルは舌打ちし、向き直る。群は沢の横幅いっぱいに広がっている。回避は無理だ。ならば迎え撃つのみ!

【回避】判定(難易度NORMAL)
3d6 → 3, 5, 6 成功
2d6 → 5, 6 成功

 「イヤーッ!」「Arrrrgh!?」まず先頭を切って突っ込んでくるテッポダマめいたバイオピラニアを蹴り返す! 先頭ピラニアは仲間の群れの中へと吹き飛んでいき「Arrrrgh!」「Arrrrgh!」「Arrrrrrgh!?」瞬く間に食い千切られ死亡! 血に飢えたバイオピラニアはしばしばこうして共食いを起こすのだ!

 無論、バイオピラニアの群れはこれしきでは止まらない。フルメタルは「イヤーッ!」その場で高度垂直跳躍! その反動で丸太橋がへし折れる! 「Arrrrgh!」それを追うように高く跳躍する一匹のバイオピラニア! 大きく顎門を開きその脚を食い千切らんと、

「イヤーッ!」「Arrrrgh!?」

 ご、ゴウランガ! フルメタルはそのバイオピラニアを踏み台に横手へ跳躍! 見事に対岸へ着地したのだ! 「Arrrrgh……!」蹴り落とされたバイオピラニアが仲間に食い千切られ、ズタボロになっていく。共食いだ。

 興奮冷めやらぬ様子のバイオピラニアの群れは怒涛の勢いで下流へと突き進んでいく。彼らはこのままタマ・リバーへ踊り込み、不幸なネオサイタマ市民やラッコを食い荒らしながら海へ向かうのだ。

「ヘッ! 意外といい運動になるじゃねェか、虫捕りッてのもよ」

 去っていくバイオピラニアたちをひとしきり眺めてから、フルメタルはまた森の奥へと進む。彼女の目的はあくまでオーガニック・カブトムシであり、バイオ生物の観察ではないのだ。

◆◇◆◇◆

「あァ……?」

 オーガニック・カブトムシを求めた探索行に果たしてどれだけ時間を費やしたことか。辛抱強くオクタマ・ウッズを歩き続けていたフルメタルは、視界に飛び込んできた異物に眉根を寄せた。

 それはこの大自然に似つかわしくないコンクリート建築物だ。屋根には太陽電池が設置されており、これで電力をまかなっていたのだろう。……もっとも、その太陽電池もろとも蔦や苔に覆い尽くされている。すでに廃棄されたのだろうか。

「なンだありゃ。ドージョー……なわけねェよな。研究所か……?」

 フルメタルは訝しむ。が、その思考は一瞬にして吹き飛んだ。目の前を過ぎった小さな茶色の影が故だ。おお、見よ! 立派なツノをしたオーガニック・カブトムシが飛んでいる!

「あッ……!? ま、待て! 少し待て!」

 フルメタルはわたわたと背中の虫捕り網を掴もうともがく。が、そんな彼女を気にすら風もなくオーガニック・カブトムシは飛び去っていった。その行く先は……例のコンクリート建築二階である!

「ックソ、アーッ! 逃げられ……てねェ! ラット・イナ・バッグって奴じゃねェか、ありゃア」

 地団駄を踏みかけたフルメタルはすぐに正気に戻る。少なくとも森の中を飛び回られるよりは再会可能性も捕獲可能性も高い。彼女はピシャリと自分の頬を張る。二階の窓には鉄格子が嵌められている。潜入するなら堂々と入り口からだ。あの様子なら中に住人はいないだろう。

 彼女は足早に謎めいた建築部の入口へと接近。ドアに取り付けられているのは旧式の電子ロック……

【カラテ】判定(難易度EASY)
5d6 → 1, 2, 3, 5, 5 成功!

「オジャマシマス!」

 CRAAAAASH! フルメタルは迷うことなく扉を蹴り壊す! いかに電子ロックを備えていようと古びた扉がニンジャの暴力に耐えられるはずもなし。真っ二つに折れたそれは景気良く吹き飛び、屋内の壁に激突してもうもうと埃を舞い上げた。

 フルメタルは油断なくザンシンする。彼女のハッカー適性は決して低くなく、持参したハンドキーボードを使えばもっと穏便にエントリーすることができただろう。だが彼女は細かいことが苦手なのだ!

 中からバイオ猛獣の類が飛び出してこないことを確認したフルメタルは、堂々とした足取りで謎めいた建築物へと侵入した。

◇◆◇◆◇

 中はひどく静かだった。人はもちろん、バイオ生物も住み着いてはいないらしい。それでもフルメタルは用心しつつ、二階への階段を探す。その先にカブトムシがいるのは間違いないからだ。

「ン……」

 ふと、机の上に置いてあった雑多な資料が目についた。フルメタルは何気なくそれを手に取り、内容を確認する。欠損が激しく、まるで内容の読み取れないボロボロのメモ書きや設計図のコピー。

「機械……いや、サイバネか?」

 フルメタルは顔をしかめる。この手のものはチンプンカンプンだ。彼女の息子であれば、あるいはその内容を読み取れたかもしれない。不意のセンチメントに思わず苦笑した。息子はすでに死んだ。つまらないヤクザ同士の抗争の最中で。

 興味本位で別の資料を手に取ろうとした彼女は、ふと机の端にあったそれに気づく。

1d6 → 2 【万札】3獲得

 ……薄汚れた数枚の万札だ。彼女は当然のようにそれを懐にしまいこんだ。彼女のバストは豊満である。汚れていようがカネはカネ。ヤクザである以上、もっと汚れたカネを手にすることだってある。気にすることはない。

 机の上を整頓し、綺麗に書類別に分類。フルメタルは満足し、階段を探そうとして……ふと思い立ち、設計書と思しき資料を回収した。こうしたものが大好きなマニアックに売りつけられるかもしれぬ。そう考えながら。

◆◇◆◇◆

 ようやく階段を見つけ、登った先にあったのは電子ロック付きの扉「イヤーッ!」

【カラテ】判定(難易度EASY)
5d6 → 3, 3, 5, 5, 6 成功!

 CRAAAAASH! 扉が真っ二つに割れる! フルメタルは細かい作業が苦手なのだ。彼女はザンシンし……目を細める。今回のザンシンは無駄ではない。

 まず、部屋の奥の壁には光沢のある茶色。すなわち目当てのオーガニック・カブトムシ。どうやらまだ逃げていなかったらしい。チョージョーである。

 が、フルメタルは険しい顔でその前に立ちはだかる邪魔者を睨みつけた。それは逆関節二脚のモーターニンジャ、オムラのモーターヤブだ。いや、ただのヤブではない。その前方にはクワガタのハサミめいた二門の追加マシンガン砲塔! 改良型なのだ!

「ド、ドドドドーモ! モータークワガタです!」
「ドーモ。フルメタルです」

 オジギを返したフルメタルは迷うことなくカラテを構えた。モーターヤブは運用次第でニンジャも殺しうる強力な兵器。だが彼女の至上目的はオーガニック・カブトムシであり、この馬鹿げたポンコツに臆してそれを諦めるという選択肢などないのだ!

「侵入者を排除します。モータークワガタは賢く強い!」
「ザッケンナコラーポンコツ! テメェみたいなクズ鉄製のクワガタなんぞお呼びじゃねェんだよ! イヤーッ!

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 1, 2, 3, 5 クワガタ【体力】12→11
【まとめて回避】(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 1, 2, 4, 5 成功!
【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 3, 4, 4, 4, 6 クワガタ【体力】11→10
【まとめて回避】(難易度NORMAL)
5d6 → 2, 4, 4, 5, 6 成功!
【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 1, 1, 5, 5 クワガタ【体力】10→9
【まとめて回避】(難易度NORMAL)
5d6 → 3, 5, 5, 5, 6 成功!

 「ピガーッ!?」モータークワガタがよろめく! 弾丸めいたフルメタルの飛び蹴りだ! ピンヒールが堅牢なモーター装甲をへこませる!「ししし侵入者を排除!BLATATATA! 飛び離れたフルメタル向け、モータークワガタの両腕と頭部からマシンガンが放たれる!

 フルメタルは目を細め、歩き始める。必要最低限の動きで弾丸を避け、必要最低限のカラテで回避の難しい弾丸を弾く。この程度の銃弾の雨など、ニンジャだった前から体験してきた。彼女は生まれついてのヤクザであり、それを理解せずに嘲笑ってくる連中をことごとく叩きのめしてきた。

イヤーッ!」「ピガーッ!?」強烈なカラテパンチがモータークワガタに突き刺さる! BLATATATA! ノックバックしたロボニンジャはなおもマシンガンを乱射! フルメタルは顔をしかめる。

「賢いッてんならもう少し別の芸見せてみろや! イヤーッ!
ピガーッ!?
「逃げるだろうがよ、カブトムシがよォ! イヤーッ!

 なおも銃口を向けようとするモータークワガタに対し、フルメタルは体を捻り回し蹴りを叩き込む! 逆関節脚部にカラテを叩き込まれたモータークワガタはブザマに転倒! 

「ピガガガーッ! 自己診断開始! 自己診断開始!」

 緩慢に腕を振り回すモータークワガタにフルメタルは舌打ちする。この状態であればオーガニック・カブトムシの捕獲も試みることができるかもしれない。が、自分をナメたこのポンコツを放っておくのは実に癪!「イヤーッ!

 彼女は回転跳躍し、断頭台めいたかかと落としを叩き込む!「ピガガガガガーッ!?」あまりの威力にモータークワガタの巨体が……跳ねた! 頭部からバチバチと火花を散らしつつも態勢復帰! そのカメラアイが明滅する!

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 5, 6, 6, 6, 6 サツバツ!クワガタ【体力】9→6

「ピガガガガガーッ! ゼ、ゼゼゼ……ゼンメツ・アクションモード! 開始!」
「アァ?」

 突然の不穏な動作にフルメタルは片眉を跳ね上げる。ナムサン……もしこの場にオムラエンジニアがいれば、その言葉の意味を悟って青ざめたことだろう。本来は開発中の新型機『モータードクロ』に搭載される予定の対ニンジャ火力展開形態……それがゼンメツ・アクションモードなのだ!

 無論、フルメタルがそこまで知るはずもない。だが彼女のニューロンは己に危機が迫っていることをインセクツ・オーメンめいて悟っていた。

(ムテキで防げるか? いや……ダメだ。なにかまずい。他に手は……)

 ニンジャ・アドレナリンが過剰分泌し、主観時間を泥めいて緩慢にする。フルメタルは打開策を探すため部屋を見回した。部屋の片隅に死体。かつて行方不明になったのであろう調査隊の成れの果てか。盾に使えるか? 無理だろう。彼女は別の打開策を探そうとし……ふと目を止めた。

 そこに茶色に輝くなにかがあった。

イヤーッ!」彼女は状況判断より早く走りだす。ニューロンが叫んだのだ。あれが突破口なのだと!「ゼンメツ! ゼンメツ!」モータークワガタの機体からガトリングガンがせり出し、照準をつける! アブナイ!

 彼女はその茶色を手に取る。オーガニック・カブトムシと同じく、奥ゆかしく輝くそれを。そして……頭から被った! おお、見よ! それはカブトムシめいて雄々しきY字のツノを生やすヘルメット……否、フルフェイスメンポである!

 モータークワガタのガトリングガンが回転を始めた、そのとき!「イヤーッ!」「ゼンメ……ピガッ!?」モータークワガタの機体が揺らぐ! 弾丸めいて突進したフルメタルが、そのメンポのツノをモータークワガタに突き刺したのだ! その様、まるでバイオスモトリの懐に潜り込む小柄なオーガニックスモトリのごとし! そして! おお! まさか!

イィィィ……ヤァァァアアアアッ!」「ピガ、ピガガガガーッ!?」ゴ……ゴウランガ! なんたるカジバ・チカラと謎のヘルメットメンポが合わさったことによる奇跡的カラテの高まりか! 築き上げられたモータークワガタは上下逆さとなり、大地に叩きつけられたのだ! ガトリングガンが明後日の方向へ弾丸を吐き出し……やがてその回転を止めた。

 フルメタルが飛び離れると同時、モータークワガタは爆発四散! あとにはゼンめいた静寂が残った。

「ハァーッ、ハァーッ……! 手間取らせやがって、このポンコツ……いや、ンなこたァどうでもいい!」

 額の汗を拭おうとしてフルフェイスメンポに阻まれたフルメタルは、ようやく冷静になり部屋の奥へと振り向く。先ほどの戦闘の騒ぎでオーガニック・カブトムシが逃げている可能性にようやく気づいたのだ!

「……こいつァ」

 そして彼女は静かに目を見開く。壁には拾い上げたフルフェイスメンポと同じく、奥ゆかしい茶色の輝きを放つオーガニック・カブトムシがいた。恐る恐るフルメタルが接近しても逃亡する様子はない。

 フルメタルはいくばくかのソンケイをこのオーガニック・カブトムシから感じ取った。このカブトムシであれば、何一つ問題はあるまい。彼女は丁重にオジギし、危なっかしい手つきでカブトムシを捕まえる。カブトムシは暴れることなく彼女に掴みとられ、虫かごの中へと収まった。

 カブトムシを求める冒険は、こうして幕を閉じたのだった。

『カブト投げ』発動
モータークワガタ【体力】6→0
オーガニック・カブトムシ、【万札】10、*カブトムシの茶色*獲得

◆◇◆◇◆

 ……数日後、トコロザワ・ピラー!

「チバ=サン、シツレイイタシマス」

 廊下を歩いていたチバは、傍からかけられた声に不機嫌そうに足を止めた。視線の先に跪いているのは、傷だらけの顔の女ヤクザである。

「ドーモ。フルメタルです」
「僕は貴様のことなぞ知らん。なんの用だ? くだらぬことで呼び止めたのなら、今すぐフジオにケジメさせるぞ」
「シバラク。……これを献上致したく」

 フルメタルが恭しく掲げたのは虫かご。その中に収まっているのは、かのオクタマ・ウッズ探検にて捕獲したあのオーガニック・カブトムシだ。虚をつかれたのか、チバの目が丸くなった。

「エッ! 良いのか!?」

 年相応の喜びが含まれた声。フルメタルは一瞬顔を綻ばせそうになり、慌てて鉄面皮を保つ。目の前にいるのはソウカイヤ首領、ラオモト・カンの子息が一人。帝王学を学ぶ未来の支配者だ。それに対し子供扱いはあまりにシツレイだろう。

 やがてチバもそのことに気づいたのか、気をとりなおすように咳払いをした。

「……ゴホン。献上とはアッパレな心がけだな、フルメタル=サン。来い。褒美をくれてやろう」
「アリガトゴザイマス」
「それにしても、貴様……どこでこれを?」
「は。……まあ、その……散歩の途中で偶然見かけまして……」
「ムハハハハハ! 嘘の下手なやつめ! まあいい! これからも僕や父上のために励むが良い!」
「ハイヨロコンデー」

 チバが歩みを再開し、フルメタルがその後に続く。彼女のニンジャ聴力は、嬉しげなチバの呟きをそれとなく聞き取っていた。

「……このカブトムシであれば……待っておれよヨルジ……すぐに目に物見せてやる……」

 フルメタルは静かに口元を緩ませる。彼女はこう見えて耳ざとい。少なくとも、このチバが腹違いの兄弟たるヨルジに対して憤懣やるかたない様子で呟いていたことを耳に止める程度には。なんでも向こうは立派なオーガニック・クワガタを手に入れたのだそうだ。表面上は下々の流行と侮ったふりをしていても、羨ましさは隠せなかったのだろう。

 フルメタルに血の繋がった家族はもういない。ソウカイヤ傘下のヤクザクランの娘として生まれた彼女は、度重なる抗争で両親を失い、夫を失い、子も失った。故に、今の家族はソウカイヤだ。チバはソウカイヤの子の一人である。それとなく世話を焼いてしまうのも、仕方ないことだろう。

オーガニック・カブトムシ消失
【万札】15、【名声】3、【余暇】2獲得

「ときにチバ=サン。そのカブトムシはなかなか根性が据わっておりますよ」
「ほう? なぜそう思う」
「なにしろ銃弾飛び交うイクサでもどっしり構えておりましたからな。ハハハ」
「……貴様、どこまで散歩に行ったのだ?」

 ささやかな会話とともに、未来の帝王と女ヤクザは廊下の奥へと姿を消した。

◇リザルトな◇

 というわけで、フルメタル無事生存! 当初の目的だったチバへのカブトムシ献上もできご満悦である。

 彼女も余暇を得たわけであるが、それを利用してカブトムシの茶色の追求に進むか……それは誰にもわからない。

 いずれにせよ、ラブサバイブ=サンに改めて感謝を! そしてここまでおつきあいいただいた皆様、本当にアリガトゴザイマシタ! また気が向いたらやるよ!

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