ニンジャスレイヤー二次創作:『コモン・イクサ・イン・ニンジャズ・ライフ』より【フォ・ファン・オブ・セクメト】

【皆様方へ】『コモン・イクサ・イン・ニンジャズ・ライフ』はしかなのオリジナルニンジャのイクサを描くための掌編です。当然のごとく二次創作であり、本編との関連は一切ない。よろしくお願いします。


「ザッケンナコラー!」
「スッゾコラー!」
「アイエエエエ!?」

 陰鬱たる暗雲、降り注ぐ重金属酸性雨。路地の奥から響くヤクザスラングと悲鳴にも、通行人は顔を上げることなく己の道を急ぐ。無関心とも取れる奥ゆかしさの賜物であり、ネオサイタマではチャメシ・インシデントだ。

 読者においては仄暗い路地の奥に視線を転じられたし。鉄パイプを威圧的に振ってみせるエクストリーム・モヒカンたちが、傷だらけの無軌道大学生を見下ろしているのが見て取れるはずだ。

「なァ兄ちゃん、ワカル? このままだと死んじゃうでしょ? なにすればいいか、わかってる?」
「アイエエエ……ご、ゴメンナサ」
「イヤーッ!」
「アバーッ!?」

 容赦なき鉄パイプ打擲! 悲鳴とともに無軌道大学生の身体が跳ねる! 取り囲んでいたモヒカンたちがゲラゲラと笑った。

「スッゾコラー! カネ! カネでしょッ!? それでも大学行ってんのか!? 知能指数高いんでしょうがァッ!?」
「あ、アイエエエ……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……もう、もうないんです……!」
「ないなら作るしかないっしょ? いいローン知ってるよ? なにすればいいか、ワカル?」
「フム。なにをさせる?」

 不意に飛び込んできた声に、モヒカンたちは怪訝な顔で振り返る。路地入り口に人影。レインコートを着込み、フードでその顔は伺えぬ。だがその声と背丈からして、幼い少女のようだった。

 顔を見合わせてから、モヒカンの一人が鎌バットを片手にレインコートの少女へと近づいた。

「アー……お嬢ちゃん。何してんの? ここ、アブナイよ? 迷子?」
「面妖な頭をしておるな、オヌシ。当世の流行りか?」

 鎌バットモヒカンは面食らう。見上げる顔は確かに少女。赤褐色に焼けた肌。カチグミ家庭の娘なのだろうか? ならば誘拐して身代金? いやしかし、この真紅の眼差しはなにか……

「それとな」
「エッ?」

 ふと気づいたときには、モヒカンの視点は地を這っていた。自らが倒れたのだと理解するのに数秒。その理由を悟るのにさらに数秒。己の足元を見てようやく理解する。足首が破壊されている。

「頭が高いわ。この無礼者」
「……あ、アバーッ!?」

 激痛に身をよじる! 一方の少女は何事もなかったかのように鎌バットモヒカンを跨ぎ、モヒカンの一団へ悠々とした足取りで向かう。その頃合いにはモヒカンたちも異常に気づき臨戦態勢!

「こ、このガキ!?」
「スッゾコラアバーッ!?」

 一歩を踏み出したバタフライナイフモヒカンが苦悶! おお、ナムアミダブツ……得物を持っていた右腕が根本から断たれたためだ。ニンジャ動体視力を持つ読者であればかろうじて捉えることができたかもしれぬ。少女が放った鋼鉄の星を。赤光の尾を引きながら飛んだスリケンを!

「に……ニンジャ!?」
「ニンジャナンデ!?」
「ナンデとな? 単なる通りがかりよ。安心するがよい。姉上との約束ゆえ、貴様らの命までは取らぬ……クッフフフ! なかなか面白くもがくな、そこのモータル」
「アバーッ! アバーッ!?」

 転げ回るバタフライナイフモヒカンを見下ろし、少女の目が酷薄に歪む。モヒカンたちは硬直し、被害に遭っていた無軌道大学生は失禁し気絶! ニンジャ・リアリティ・ショックである!

 しかし、その中で。鉄パイプモヒカンが虚勢を張った。

「て、テメェ……オレたちハゲタカ・チームにケンカ売ったらどうなるかわかってんのか……!?」
「ほう? 面白いな。どうなる?」
「ざ、ザッケンナコラ……! アニキたちが黙っちゃいねェ。アニキたちはニンジャだぞ! テメェなんぞ……!」
「ほ。ニンジャがおるか。そういうことははよう言え。愚か者め」

 鉄パイプモヒカンは押し黙った。少女が予想外の反応を返したからだ……彼女は笑ったのだ。とても嬉しそうに。

「何人おる? 二人か、三人か、もっと多くか? 許す。案内せよ」
「エッ」
「なにをしておる? 妾をそのニンジャの元へ案内せよ。妾としてもオヌシら相手では昂ぶるものも昂らんからな」
「エッ……」
「早くせよ。妾の堪忍袋を温める気か?」
「あ、アイエエエ……!?」

 鉄パイプモヒカンは悟る。己がなにか、とんでもない間違いをしでかしたのだと。他のモヒカンたちと同時に彼は失禁した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 もはや打ち捨てられた廃ビル。そこにハゲタカ・チームのアジトは存在した。そして今日もその一室で、誰にも顧みられることのない残虐が行われていた。

「イヤーッ!」
「アババババーッ!?」

 天井から吊り下げられた男が炎に焼かれ悲鳴をあげる。掌から放出していたカトンを止めた赤橙装束のニンジャは嗜虐的に目を細めた。彼の名はフレイムハンド。

「いい加減に灰にしちまったらどうだ? フレイムハンド=サンよォー。オレらはいつまでお預け食うんだよォー……」
「あ、アイエエエ……」

 椅子に座り、気怠げな声を上げたのはジャガーコート。こちらもまたニンジャだ。その足元には下着姿の女が転がっている。彼女は吊るされた男を見ていた。いや、見せつけられていたのだ。ジャガーコートがその頭を足で押さえつけている。フレイムハンドが引きつった笑みを返した。

「ヒヒッ! こ、こういうのはじっくりやるんだ。ウェルダンだ。ヒヒヒッ!」
「まァた悪い癖だよ……ナントカ言ってやってくださいよ、ヴァルチャーウィング=サン」

 ジャガーコートが言葉を投げかけたのは、その様をIRC端末を持って撮影していた重サイバネニンジャである。名をヴァルチャーウィング。彼こそがこのハゲタカ・チームのリーダーであった。

「構わん。じっくりやらせろ。私としても少しばかりIRCのネタが欲しかったところだ」
「チェッ! 本当どうしようもねェんだから……ほれ、感謝しろよ女ァー? フレイムハンド=サンが満足するまで、ファック・アンド・サヨナラはお預けだからよォー」
「アイエエエ!?」

 転がされた女が泣き叫ぶ。彼女は恋人……吊るされた男だ……と非日常スペースで前後するためにここを訪れ、当然のようにヴァルチャーウィングらに捕らえられた。彼らはここが恐るべきハゲタカ・チームのアジトと知らなかったのだ。その預金は搾り取られ、もはや命以外に支払えるものはない。

 フレイムハンドが男の顔に掌を近づける。ナムサン……その顔を焼こうというのか? しかし男はもはや抵抗する気力すら失ってしまったと見え、無抵抗である。女は涙した。その様を見たニンジャたちが笑う。

 そのときだ。不意にドアが開け放たれた。顔を出したのはエクストリームモヒカンである。ジャガーコートが怪訝な顔をした。

「なんだァ? お楽しみの最中なんだけどなァー? ノックもなしに邪魔すんのかよォー」
「アイエエエ……ゴメ、ゴメンナサイ。でもお客がアバーッ!?」

 モヒカンが突如横に吹き飛ぶ。異常事態を察したフレイムハンドが「イヤーッ!」掌からカトン・ウェイブを放ち入り口を一掃せんとす! モヒカンと入れ替わるように現れた、レインコートの小柄な人影に炎が迫る。ナムアミダブツ!?

「イヤーッ!」

 否! 闖入者はレインコートを脱ぎ捨て、跳んだ! 飛び蹴りでカトン・ウェイブを打ち払う! そしてそのまま矢のごとき速度でフレイムハンドの首を刎ねたのだ!

「アバーッ!? サヨ」
「イヤーッ!」
「ナラッ!?」

 爆発四散直前、闖入者はフレイムハンドの心臓を摘出。そのまま迷うことなく口に運び、咀嚼した。背後でフレイムハンドが爆発四散。

「……あまり味が良くないな。カラテがなっておらんか」
「な……ナンテメッコラー!?」

 ジャガーコートが足元の女を部屋の隅に蹴り転がし、憤怒とともに立ち上がる! ヴァルチャーウィングもまたIRC端末を捨て、背部からサイバネウィング展開! 備えられた銃口の照準を闖入者に合わせる!

 闖入者……少女は、二人を睥睨し愉しげな笑みを浮かべた。金装飾で胸元と腰回りを隠しただけの軽装。赤褐色の肌が露わだ。しかしハゲタカのニンジャたちが目を奪われたのは、少女の口元を覆う獅子の牙めいた意匠のメンポ……!

「ま、よい。雑に扱っても構わんニンジャが二人もいるのはチョージョー。麗しき気分ゆえ、アイサツしてやろう。ドーモ。セクメト・ニンジャです」
「ドーモ。セクメト・ニンジャ=サン。ヴァルチャーウィングです」
「ジャガーコートです。イヤーッ!」

 アイサツ終了と同時、ジャガーコートがキアイを入れる。その身体が膨れ上がり、ジャガーめいた獣毛と爪牙が生えた。ヘンゲヨーカイ・ジツだ!

「何者だ貴様! イヤーッ!」

 BRATATATA! ヴァルチャーウィングが背部サイバネウィングから弾幕を張り、叫ぶ。セクメト・ニンジャは興味深げに目を見開き「イヤーッ!」カラテを振るう。弾丸が触れた側から融解し、飛沫となって四方へ散った。

「何者か、とな? 単なる通りすがりよ。だが喜ぶがいい。オヌシらを妾の遊び相手としてやる」
「イヤーッ!」

 横手からジャガーコートが迫る! ビーストカラテでセクメト・ニンジャの首を刎ねんとす! だが、セクメト・ニンジャは単に一瞥をくれただけだ。彼女は片手でそのカラテを受け止めた。

「ヘンゲヨーカイを持ってしてもこれか? この地のニンジャとやらは、充分なカラテ鍛錬すら積めんのか」
「い……イヤーッ! イヤーッ!?」

 不穏なアトモスフィアを察知したジャガーコートは飛び退ろうとした。できぬ。細腕を振り払うことができぬのだ! なんたるニンジャ膂力!? 苦し紛れに振るった左の一撃も、同様に受け止められてしまう!

 セクメト・ニンジャが表情を変える。失望の顔に。

「ウルタール=サンの評価を改めてやらねばならんな。あやつも当世ではやる方やもしれぬ」
「い、イヤーッ! イヤーッ! ……グワーッ!?」

 ジャガーコートが不意に苦悶の声を上げる。セクメト・ニンジャに受け止められた箇所から、異様な熱が広がってきたのだ。それは早々に身体中へ回り、頭へ這い上り、脳を侵した。ジャガーコートは成すすべなく崩れ落ちる。その目が熱で白濁した。

 ヴァルチャーウィングは深呼吸し、構えた。思わぬときに思わぬ強敵。しかし、自分にはまだ切り札がある。ユガミ・ジツ。空間ごと敵を捻り切る、サツガイより授かった力……!

「イ」
「遅いわ、阿呆」
「グワーッ!?」

 だがそのジツが牙を剥くときは永劫なかった。セクメト・ニンジャは既にワン・インチ距離にあり、その爪を右肩に突き立てていたのだ。サイバネティクスがまるでトーフめいて切断されていく。

「サイバネ、というのだったか? これは。なかなかに面白い」
「グワーッ!?」

 右腕切断! ナムアミダブツ! セクメト・ニンジャの爪は既に左肩に差し込まれている。赤熱した爪は、まるで最高級ステーキを切り分けるナイフめいてサイバネの奥底まで入り込んでいた。

「当世のニンジャのいじましき努力……クッフフフ! 妾が世話になっておるドージョー主もオヌシと同じような異装でな? 興味があった。クフフフ!」
「グワーッ!? アバーッ!?」
「このような鉄に、果たして妾の熱は通じるや否や? 疑問は試すが一番よな。そうであろう?」
「アバーッ!?」

 セクメト・ニンジャが離れる。コケシめいたヴァルチャーウィングはしかし、もはや追撃すらできぬ。異様な熱が身体中を侵食していた。脳を、ニューロンを焦がし、サイバネティクスすらも溶かし始める……!

 セクメト・ニンジャは満足げに頷いた。彼女のカラテ熱は接触により敵を蝕み殺す。姉たるバステト・ニンジャのように遠方の相手に即座に作用させるわけにはいかないものの、一度回れば死は免れぬ。しかしサイバネとやらに通じるかどうか? その疑問は今解消された。通用する。彼女は笑った。

「クッフフフ! ご苦労、ご苦労! 褒美としてカイシャクしてやる。ハイクを詠むか?」
「アバーッ! サツ、アバーッ!?」
「詠めぬか。ま、よいわ。イヤーッ!」
「アバーッ! サヨナラ!」

 ヴァルチャーウィングは無造作に首を刎ねられ、爆発四散! セクメト・ニンジャは思い出したかのようにのたうち回っていたジャガーコートの元へと向かい、その心臓を抜き取って咀嚼した。ジャガーコートは死んだ。もはや爆発四散する気力もなかったと見える。彼女の知ったことではない。

 セクメト・ニンジャは伸びをし、部屋の中を見渡した。吊るされた男と部屋の隅に蹴り転がされた女がいる。どちらも失禁し、気絶。臭いに顔をしかめたセクメト・ニンジャは、無造作に男の縄を切断し、窓から身を躍らせた。

「イヤーッ!」

 そのまま屋上へと駆け上がった彼女は、そこからぐるりと周囲を見渡した。ネオンが煌めくネオサイタマの風景が飛び込んでくる。彼女は笑い、両腕を広げ、重金属酸性雨を一身に受けた。この輝きも雨も、過去のエジプトでは見られなかったものだ。なんと楽しいことだろうか!

 不意に、彼女はニンジャの気配を感じ取る。遥か下、廃ビルの入り口か。彼女は屋上から身を乗り出し、目を凝らす。視界に飛び込んできたのは赤黒装束のニンジャ。ちらりと見えたそのメンポには禍々しき「忍」「殺」の二文字。

 反射的に、セクメト・ニンジャは飛び退いていた。彼女は知っている。その赤黒装束を。そのソウルを。かつて姉と戦い、爆発四散せしめたその死神を。

「ニンジャスレイヤー……!?」

 反射的に口を出た言葉に、セクメト・ニンジャは動揺し……一瞬にしてそれをかき消した。次いで生まれたのは逡巡だった。殺すか。立ち去るか。セクメト・ニンジャの脳裏を、かつてのバステト・ニンジャの姿と、現代のウルタールの姿が過ぎる。

「……イヤーッ!」

 セクメト・ニンジャは暗雲の下を飛び、ネオサイタマの街並みへと消えた。後にはただ、シトシトと降る重金属酸性雨の音のみが残された。

【終わり】

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?