忍殺TRPGソロプレイログ【イントロダクション:ホッパー・ジャンプト・イン・ネオサイタマ・シティ】

  ……時、すでにウシミツ・アワー。今日もまたネオサイタマに重金属酸性雨が降り注ぐ。その雨脚と時間帯ゆえ、ストリートには人通りがほとんどない。故に、足音もなくストレートのど真ん中を往く不審な影を見咎める者はいない。NSPDに連行される凶悪犯罪者めいて頭から白衣を被ったその者は、きょろきょろと周囲を見渡す。その目に映るのは煌めくネオン看板の群れだ。

「肩、凝って、しまう……インガ、オホー……良く、犬。犬? いるの、かな」

 次々と看板を読み上げ、首を傾げる。ニンジャ動体視力をお持ちの読者であれば、白衣に隠れた頭部から伸びる不自然に細いなにかに気づくことができるかもしれない。地面につかんばかりに長い、触角めいたなにか。小刻みにそれを揺らしていた白衣の影は、不意に進行方向を変えた。

「犬。困る……」

 それが選んだのは路地裏だ。ストリートからのネオン光も届かぬ暗がり。だがそんなことを意に介した風もなく進んでいく。なおも興味深げに周囲を見渡しながら。忙しなく触角めいたなにかが揺れる。と、唐突に動きを止めた。

……イヤーッ!……」「……イヤーッ!……

 闇の奥から謎めいた叫びが響く。急停止していた白衣の影は、深く身をかがめる。警戒を示すかのように触角が揺れた。次の瞬間!

「「「ザッケンナコラーッ!」」」

 BLAM! BLAMBLAM! 闇をマズル光が切り裂き、銃弾が飛来した。駆けてきたヤクザたちが発砲したのだ。その顔は双子めいてそっくりである。白衣の影は煩わしげに身を揺らし「イヤーッ!」跳躍! 弾幕を飛び越え、タタミ10枚分はあったろう距離を一瞬にしてワン・インチまで短縮! 信じがたい!

「「「チェラッ……」」」
イヤーッ!
「「「アバーッ!?」」」

 ナムアミダブツ! 再銃撃よりもはるかに早く、ヤクザたちの首が飛ぶ! 白衣の影が放った回し蹴りが、まとめて刈り取ったのだ。恐るべきカラテ!

「敵? 敵か」

 納得させるように呟き、それは闇を透かすように路地裏の奥を凝視。読者もまたその視線を追われたし。そうすれば見えるだろう……「イヤーッ!」「イヤーッ!」熾烈なカラテを交わし合う、二人のニンジャの姿が! かたや厚手の防弾ケプラージャケット。かたや深緑色のニンジャ装束!

 彼らはカラテをぶつけ合い、互いに飛び離れて距離をとる。そしてほぼ同時に白衣の闖入者に気づいたようだった。

「なんだ、貴様は? クローンヤクザどもはどうした」
「殺し、た。敵、だったから」

 平然と白衣が入った。深緑ニンジャが訝しげに目を細め、オジギを繰り出す。

「……ドーモ。グリーンゲイズです。敵だと? 貴様、どこのアサシンだ」

 闖入者も当然のようにオジギを返そうとした。頭を下げたその拍子、被っていた白衣がずれ落ちる。露わになったその姿を見て、グリーンゲイズが目を見開き、低く唸った。

「貴様……」
「ドーモ。チェスナットホース、です」

 アイサツを返し、顔をあげる。茶色のバイオキチン甲殻で覆われた、フルフェイスメンポめいた異形の顔を。ビーズめいた黒い瞳が無感情にグリーンゲイズを見返した。

 顔だけではない。バイオキチン甲殻はボディスーツめいて全身を覆い、女性的シルエットを際立たせている。異様なのはその脚部だ。逆関節と思しきその脚は、小柄な体躯に比べて肥大かつ長大。歪である。明らかに自然に生まれた存在ではない。

 チェスナットホースは黒い目をグリーンゲイズへ向け、次いで静観していた防弾ケプラージャケットの女ニンジャへと向けた。視線を受けたニンジャもまたオジギを返す。

「ドーモ。モンスメグです。……お前、ヨロシサンのバイオニンジャか? なぜこんなところに」

 その問いに、チェスナットホースは身じろぎした。困ったように首からぶら下げたものを弄る。ヨロシ研究員の社員証。若い女の写真の横には『カドマ・マイ』なる名前が記されている。どう見ても同一人物ではない。

「ん、ヨロシサン。生まれは。……今は、違う。外に行けって、お母さんが」

 たどたどしい言葉。モンスメグは訝しんだようだった。それに対し、グリーンゲイズは決断的にカラテを構える。

「成る程、またぞろヨロシサンからの脱走者というわけか。ここで駆除して臨時ボーナスの足しにしてくれる! イヤーッ!

 モンド・ムヨー! スリケン投擲! ……チェスナットホースはやや屈んだ。無機質な目でグリーンゲイズを凝視したまま。

「敵」

 直後、その姿が消えた。スリケンは虚しく空を割き、ストリートへと飛んでいく。グリーンゲイズは目を見開いた。

「なッ……」「イヤーッ!」「グワーッ!?

 次の瞬間、チェスナットホースは彼のワン・インチ距離に到達していた。高度跳躍によるスリケン回避。迎撃カラテを放とうとしたグリーンゲイズが蹴りを叩き込まれ壁にめり込む! なんたるニンジャ脚力か!

「グワーッ……お、おのれ……!」

 メンポの隙間から血を滴らせたグリーンゲイズが、殺意とともにチェスナットホースを睨みつける。その目に不穏な輝きが「イヤーッ!」「アバーッ!?」ナ、ナムアミダブツ! 横合から放たれた鋭いカラテチョップがグリーンゲイズの頭を両断する!「サヨナラ!」そのまま爆発四散したグリーンゲイズを尻目に、モンスメグがザンシンした。

「私を無視するとはいい度胸。さて」

 その視線はすでにチェスナットホースへと向けられている。チェスナットホースは立ち尽くし、不思議そうに彼女を見つめた。

「どうする。私ともカラテするか」

 不敵ともいえるモンスメグの言葉に、しかしチェスナットホースは答えない。ただ手持ち無沙汰にヨロシ社員証を弄るのみ。空気が徐々に張り詰めていく。

「……味方?」
「うん?」
「あなた、敵を、やっつけてくれた。味方? ……なら、襲わない。襲っちゃ、ダメ。カラテしていいのは、攻撃してくる、敵だけ。お母さんが、そう教えてくれた」

 訥々とした言葉が闇に溶けていく。奇妙なアトモスフィア。数秒の沈黙のあと……モンスメグはカラテの構えを解いた。チェスナットホースに戦意がないことを見抜いたのだ。

 ……彼女は状況判断する。『お母さん』とはすなわち、あの社員証の本来の持ち主か。あのような重要物を持ち出すに任せている以上、『お母さん』がどうなったかは容易く想像ができる。ヨロシサンからの脱走者。どのようにしてその事実が起こったかはわからない。しかし確かなのは、このバイオニンジャが天涯孤独の身であるということだ。

 ほんの少し思案した後、モンスメグは口元を手で覆う。

「……モシモシ。ヘルダイバー=サン……ハイ、例のソウカイニンジャは撃破……ええ、ええ。しかし予想外のインシデントが……」

 チェスナットホースはぼんやりとモンスメグを眺める。キチン質の甲殻で覆われたその顔は、表情を変えることを知らない。

「……ハイ。ハイ……戦力になるやも……ええ。ハイ、ハイ。ヨロコンデー」

 モンスメグが口元から手を離す。そして微動だにせず凝視を続けていたチェスナットホースに気づき、ややたじろいだ。彼女は気を取り直すようにわざとらしく咳払いをし、言う。

「……そうだ。私はお前の味方だ」
「よかった」
「ああ、そうだろうさ。では行くぞ」

 チェスナットホースは不思議そうに首をかしげる。モンスメグは苦笑し、手招きした。

「いいか。私にも仲間がいる。これからその人に紹介してやる……」
「仲間」
「そう、ザイバツ。お前は今日からザイバツ・シャドーギルドの一員だ。わかるか」
「……………………たぶん」
「フッ! ……ま、今はそれでいいさ。ひとまず来い。新しい敵が来るかもしれん」
「わかった」

 チェスナットホースは頷き、踵を返したモンスメグの後を追う。そして共に闇の中へと消えていった。

◇◆◇◆◇

「ドーモ。私はヘルダイバーです」
「ドーモ。ヘルダイバー=サン。チェスナットホースです」

 モンスメグに導かれた廃ビルの一室。チェスナットホースは新たな仲間とアイサツを交わした。年季の入ったサイバー・モノクルを装着した壮年のニンジャ。チェスナットホースから見ても油断ならぬアトモスフィアを漂わせている。

 チェスナットホースの全身をまじまじと見つめてから、ヘルダイバーは傍らのモンスメグを見やった。

「なかなか……面倒なタイミングに面倒な手合いを連れてきたな、モンスメグ=サン」
「……その、スミマセン」
「まあ、いい。この者にそれだけのカラテが備わっていれば問題はない……さて、チェスナットホース=サン。どうやらモンスメグ=サンを助けてくれたらしいな。それについてまず礼を言おう」
「……? 助けてくれたのは、モンスメグ=サン……」

 チェスナットホースが不思議そうに言う。ヘルダイバーは片眉を跳ね上げた。

「おや。例のソウカイニンジャに苦戦したのかね?」
「ああ、いえ。ほとんど圧倒していました。ただカナシバリ・ジツで不意を打たれそうでしたので私がカイシャクを」
「敵を、倒してくれたから。味方……」
「……フム。ああ、成る程。おおよその事情は飲み込めた」

 ヘルダイバーは頷く。彼の察した通り、チェスナットホースの精神はまだ幼い。生まれてからのほとんどをバイオ培養液の中で過ごしたこのバイオニンジャは、そこらの子供と同程度に無垢なのだ。

 数秒の思考ののち、ヘルダイバーは決断した。

「モンスメグ=サン。アジトに検討していた、例のビルディングがあるだろう」
「アッ、ハイ。近日中に向かう予定で」
「君は補佐に回りたまえ。チェスナットホース=サン。モンスメグ=サンに少し恩返しをしてくれないか」

 チェスナットホースはじっとヘルダイバーを見つめ、ややあってから頷いてみせた。



!Here comes new challenger !

ニンジャ名:チェスナットホース
【カラテ】:6
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:4
【ジツ】:0
【体力】:10
【精神力】:5
【脚力】:3
装備など:
・家族の写真
○ヨロシ脱走バイオニンジャ

このニンジャは、以下の非公式プラグインに基づいて生まれました。

【本編である忍殺TRPGソロリプレイへ続く】





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