ニンジャスレイヤー二次創作【ジャスト・スナップショット・オブ・ゼム】(2019/4月号)

この記事は著者のインスピーレーシヨンに基づき不定期に更新される賞編集です。よろしくおねがいします。

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【ネオサイタマ、キタノ・スクエアビル地下街】(19/4/30)

「本当にこんなところにいい店があるのかい、バルルグラ=サン」
「本当、本当。穴場なんだよ」
 切り揃えた前髪で目元を隠す少女がにやりと笑う。アンタイブディズムブラックメタリストめいた過激な出で立ちだが、その口調に剣呑さは見られない。
 尋ねた方の少女……男装ヴァンプゴスのカーマインミストは溜息をつき、車椅子を押した。そこに座るのはサイバーゴスめいたリグリングだ。左右できっちり赤青に分かれたLANケーブルヘアを揺らしながら、口を開く。
「そのわりにはピザだのコーヒーだの道中で買ってたわけだけど」
「あそこの店のオッサン、自分で料理しようとしないんだよね。持ち込みオッケーでしょ。文句言ってきたらカラテだよ」
「なんて店だっけ」
「ピザ・タキ」
 ……前を行く友人たちの和気藹々とした会話を、ウルタールは少し離れた位置から聞いている。普段なら積極的に混ざりに行くのだが、今はそれができない理由があった。
 即ち、傍を歩く五人目……セクメト・ニンジャがためである。ウルタールはよく知っている。子どもじみた体格であるこの少女が、恐るべきリアルニンジャであることを。まかり間違って気まぐれを起こされたらことだ。本当に、なぜついてきたというのか。

【ネオヴァチカン市内、路地裏】(19/4/27)

「ハァーッ! ハァーッ!」
 マジックブルームは壁に手をつき、息を整える。ニンジャローブの下から垂れた血が道に染みを作った。
 ウカツだった。一抹の不安を無視し、突っ切ろうとした結果がこれだ。論理聖教会の動きがこんなにもハヤイとは……!
 エヴィルハンターを名乗る、あのサイコパス女ニンジャ。呪われろ。背後でモーターめいた足音。マジックブルームは振り返る。
 ナムアミダブツ。あの女が率いていたキルナインとかいう重サイバネニンジャたちが、無慈悲にガトリングガンを回転させ始め……!
「イヤーッ!」
 BLATATATA! マジックブルームの前に長身の影が飛び降りると同時に掃射を開始! 向かってくる銃弾の雨に、マジックブルームは思わず顔を背けた。すぐに訝しむ。衝撃がない。
「ハッハッハァーッ! 効かんぞ、論理聖教会のイヌども! 私は……無敵だからな!」
 すぐに原因を悟る。この者がすべて受けきったのだ。全身を奇妙な鎧で覆った、この謎めいたニンジャが!
「「イヤーッ!」」
 ついで頭上からカラテシャウト! 二つの影が落ちてくる。一つは退いたキルナインたちの前に、もう一つはマジックブルームの前、鎧ニンジャの横に。
「チィーッ……ドーモ! エヴィルハンターです! 小娘ども、また邪魔を……!」
「あなたとの付き合いも長くなったよね」
 片腕を不穏なサイバネティクスに置換したシスターニンジャ装束の女を前に、もう一人の介入者がどこか感慨深そうに呟く。
 奇妙な風体だった。まるでカートゥーンに出てくるようなキモノドレス装束。彼女はアイサツした。
「ドーモ、エヴィルハンター=サン。ブライトホープです。セイクリッド=サンのアイサツは省略していい?」

【ネオヴァチカン市内】(19/4/21)

 冷たい風が吹く。ネックキャッチャーは目を細め、眼前のニンジャを睨んだ。論理聖教会の本拠たるこの地にのうのうと姿を現わすとは、無知を通り越して挑発的ですらある。故に彼らニンジャ捕獲部隊が派遣されたわけだ。今、眼前のニンジャは三体の重サイバネニンジャ、キルナインに取り囲まれている。逃げ場はない。
 だが、眼前のニンジャに恐怖や動揺は見られない。不気味なまでの冷静さ。枯れ枝めいた痩身をボロ布めいた漆黒ニンジャローブで覆ったそれは、腰のカタナから手を離し、不意にアイサツを繰り出した。
「ドーモ。トオリアクマです」
「ドーモ。論理聖教会のネックキャッチャー……」
 オジギを繰り出した途端、ネックキャッチャーの首は地に落ちる。(バカな?)彼は目を見開いた。転がる視界の中、キルナインたちがバラバラになって崩れ落ちるのが見えた。
 トオリアクマが軽い足音とともに歩き出す。ネックキャッチャーの生首の横に至ったとき、トオリアクマがカタナに手をかける。冷たい風が吹き、生首が十字に断たれる。残された胴体が爆発四散したとき、もはやトオリアクマの姿はない。

【ネコノテ・ドージョー二階】(19/4/15)

(▽△▽△▽△▽△) 視界を過ぎる01アートに、ディスコテークは舌打ちして跳ね起きた。これが牙を模したものだと判別できる程度には、あのシツレイ極まりないハッカーニンジャとの付き合いも長い。(((0100110110アー、アー。ドーモ!))) 01アートが解け、緑の輝きを放つシャチの姿を取り、またすぐに解けて人型に再構成した。残ったのはモノトーンの人形めいた無性のニンジャである。(((ドーモ、ドーモ! オハヨ、センパイ! オルキヌスオルカです!)))(ドーモ。ディスコテークです。俺は貴様のセンパイになった覚えはない)(((毎度律儀にツッコミいれてくれるよね、本当……だってさ、オイランドロイドのボディを使ったって意味では)))(要件を言え。さもなくば消えろ)(((アッハハ! 涼しい!))) グルグルと周囲を巡るニンジャの虚像に、ディスコテークは苛立たしげに息をつく。こいつがどうやって自分のもとにハッキングをかけてきているか、未だにわからない。

【ネオサイタマ、ハングリー・アナコンダ・ヤクザクラン事務所】(19/4/13)

 ハンガリー・アナコンダ・ヤクザクランにとって、それは突然の出来事だった。デイリである。しかも、ただのデイリではない。「指導!」「グワーッ!?」「指導!」「グワーッ!?」「指導!」「グワーッ!?」 扉一つ向こうで行われている暴力に、カノタは震える。彼は逃げ出すことができない。後頭部を掴まれ、床に押しつけられているからだ。背後に回された手には手錠。オーテ・ツミ。 それを為したニンジャが呟く。腕や身体に巻きつけた鎖が恐ろしい。しかしそれより威圧的なのは、キモン・エンブレムの腕章……!「アンタらにはスマンと思ってるよ……けど、まあ、間が悪かったなァ」「アイエエエ……」「よりによって罪もない市民を恐喝だもんなァ。フウキの前でなァ。ああなると止まらないんだ」「指導!」「グワーッ!?」「指導!」「グワーッ!?」「指導!」「アバーッ!?」 断末魔。若干の沈黙。そして「イヤーッ!」蹴り開けられる扉! 現れたのは電磁シナイを片手に携えた女ニンジャだ。同じくキモン・エンブレムの腕章を着用!「チェインドハウンド=サン! 次のヤクザは!?」「こいつで終わりだよ……あのな、しょっぴく奴だって必要なんだぞ。今までインタビューしてたヤクザはどうなったァ?」「彼らは根性がありませんでした」「あァ、そう」 恐ろしげな会話を最後に、カノタは気絶した。

【ネオサイタマ下水道】(19/4/12)

 薄暗い下水道。水を掻き分けながら進むニンジャが二人。「また。手伝うとは」「悪いとは思ってるんだよ、ミメーシス=サン。だが俺一人のカラテではな……」「いる。アディーシブ=サンも」「俺のワニを食べようとしたやつの力なんぞ借りられるか」 吐き捨てたホワイトクロコダイルは足を止める。元は白色だったろうニンジャ装束は、長い下水道生活のため薄汚れている。「ほれ、アレだ。わかるだろう」「アー」 ミメーシスは外殻に包まれた腕の一つを掲げ、巨大な爪を庇めいて複眼の上に当てる。無論、下水道では意味がない。地上に顔を出したときに見かけた人間の動作を真似しているだけだ。 ともあれ、その目はたしかにホワイトクロコダイルの指すものを捉えていた。植物、のように見える。根がのたくり、トゲ付きの蔦やギザギザの葉が下水道を塞ぐまでに成長している。 だが、問題なのはその中心にあるのがニンジャだということだ……左の眼窩から毒々しい色の花を咲かせた、顔色の悪いニンジャが。なお悪いことに、それはこちらを見ている。

【ウシゴーム、廃アパート】(19/4/8)

「アイエーエエエ!?」 時は既にウシミツ・アワー! 廃アパートの中を悲鳴を上げながら駆けていくのは、キモ・ダメシに訪れた無軌道大学生の一人である。 そしてその後をズルズルと名状しがたい音とともに追い立てる影あり。おお……気の弱い読者は目を背けられたし。それは不定形の肉塊だ。シチューめいて蕩けたそれはいくつもの目玉付き腕を伸ばし、無軌道大学生を捕らえようとしている! コワイ!「アイエエエーエエエ……グワーッ!?」「グワーッ!」 角を曲がろうとした無軌道大学生は、その向こうから飛び出してきた仲間に衝突! 声を荒げて文句を言おうとした彼は「アイエエエ!?」その背後を見てさらに悲鳴! な、ナムサン! 闇の中から姿を現したのは全身白色のオバケである。オシロイを塗りたくっているわけではない。全身が骨めいた外殻で覆われているのだ。身体の端々から枝めいて尖った骨が伸びている! コワイ!「バァーハハハ!」「ゲタゲタゲタ!」「「アイエエエ!?」」 ついに追いついたオバケたちが哄笑! 無軌道大学生たちが限界を迎え失禁、気絶! ナムアミダブツ!?「……もー。それくらいにしておきなね、グロブスター=サン。シラカンバ=サン」子どもじみた声が闇の中から響く。次いで現れたのは少女だ……ツギハギだらけの肌。肩の上に首を二つ。余分な手脚をぶら下げた異形の。 肉塊がブルブルと震え、子どもめいた首を作り出す。顔中に埋め込まれた目玉をぎょろつかせ、それは笑った。「わかってる、わかってる! これ以上はなにもしないよォ」「こいつらもキモ・ダメシに来たんだし。win-win関係だって……パッチワーク=サンってば心配性なんだから」 ややバツが悪そうなシラカンバの言葉に、パッチワークは溜息をついた。 

【ネコノテ・ドージョー、昼】(19/4/5)

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」 ドージョーの一階、トレーニングルーム。そこで二人のニンジャが激しくカラテを交わす。一人はネコネコカワイイめいた重サイバネ者。もう一人は青装束に身を包む痩身の男。「「イヤーッ!」」 カラテ・パンチが衝突し、二人は同時にノックバック。そしてどちらともなくオジギした。「さすがのカラテですな、ディスコテーク=サン。まだ現役でもやっていけるのでは?」「ドーモ。ペイルコンドル=サン。貴方も随分と熱心なことだ」「ハハッ! 当然のことです。CEOが忙しく交渉している間、カイシャを守るのが私の仕事なので」 ハキハキと答えるペイルコンドル。ディスコテークは目を細めた。彼はヒヤエナがどこからかスカウトしてきたニンジャだ。当初は際立ったカラテもジツも持たなかった彼も、ドージョーでのカラテ・トレーニングとドクター・サイバのサイバネ施術によりひとかどのニンジャとして成長していた。 部屋の隅に置いてあった荷物に歩み寄ったペイルコンドルが、二人分のスシ・パックを取り出す。昼にここをレンタルし、トレーニングと食事を済ませる。彼の日課だった。「いかがですか、センセイ。マグロは抜いてあります」「では、お言葉に甘えて」

【ライブハウス『第三指』】(19/4/4)

 明け方。『第三指』に客の姿はほとんどない。あるとしても騒ぎの果てに眠り込んだ酔漢くらいのもの。 店内に流れるのは虫のさざめきめいた静謐なギターノイズ。ゼンめいてそれを奏でるのはステージ上に唯一残った演奏者、シューゲイザーだ。スチームパンク意匠のニンジャ装束を着込んだ彼は、無言のままにギターを爪弾く。 店主たるアゲインストはギターノイズに耳を傾けながらグラスを拭く。夜中の騒乱が嘘のような時間が流れていた。

【ネコノテ・ドージョー】(19/4/3)

 ドージョー前。師範たるディスコテークは来訪者と睨み合っていた。 アイサツはすでに済ませている。然り、アイサツ。ニンジャなのだ。オーバーカムと名乗ったニンジャは、それきり言葉を発することなくディスコテークを見据えている。 ディスコテークは無論警戒を解かない。相手のニンジャ装束は特異。テルテル・ボーズめいて頭からすっぽりと白い布を被っているのだ。その布越しでも、爛々と輝く瞳をこちらに向けていることがわかる。異様だ。 しかし、それ以上に彼を困惑させているのは他でもない。相手から敵意や殺意を感じ取ることができないためだ。真意がわからぬ。「おや、来ているか」 不意に背後から声。幼いようにも聞こえるが、その響きには妙に老成したアトモスフィアがある。振り向かずともわかる。セクメト・ニンジャ。謎めいた客人。 そしてその声が聞こえた途端、オーバーカムが動いた。彼……あるいは彼女? ……の目の位置が低くなり、布が道路の上に広がる。平伏である。「……知り合いですか?」「いや? だが、ウム。わかるぞ。妾がクランの者であろう。構わぬ。ドージョーにあげよ」 我が物顔の指示に、ディスコテークはこっそりと溜息をついた。

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