ニンジャスレイヤー二次創作【ジャスト・スナップショット・オブ・ゼム】(2019/3月号)

 先のテキストカラテ【アクロス・ジ・オーシャン】に登場したようなオリジナル連中のサツバツとしない日常ワンシーンを切り取った作品です。要はスレイト・オブ・ニンジャめいた掌編な。ヨロシクオネガイシマス。



【海上】(19/3/31)

「アイエエエ!? アイエエエーエエエ!?」
 タンカー船『マンパイ』の船員は悲鳴を上げた。なぜか? 海上に人影を認めたからだ。海上? 然り、海上だ。その者は……己の足で……海の上を渡っているのである!
 いかなる奇跡か? ブッダ? ジーザス・クライスト? 否、どれでもない。なぜならその者は……おお……メンポをつけているからだ!
「イヤーッ!」
 その者が無造作にチョップを繰り出す。次の瞬間、マンパイが真っ二つに裂けた。当たってもいないというのに、その風圧だけで、そうなった。
「あ、アバーッ!? ハザード……アイエエエ!?」
「ヌゥ?」
 驚くべきことに、その者は沈みゆく船員の声を聞き取ったようだった。そして、獰猛に笑った。
「おう、おうともよ。俺は災害だ……ファハハ! ドーモ! カラテハザードです! ドーモ!」
「アイエエエエエエッ!?」

【下水道のどこか】(19/3/31)

 ミメーシスは下水道の中を連続バックフリップで高速退避。その後を追ってくるのは……水を掻き分ける音……ゴポゴポという不快な音……弱々しい呻き声。その混合体だ。
「大丈夫か、ミメーシス=サングワーッ!?」
 行く手に現れた白装束のニンジャ、ホワイトクロコダイルの首根を掴み「イヤーッ!」ミメーシスは垂直跳躍! そのまま天井へと張りついた。ワザマエ!
 これはその身体が他のニンジャと異なるために可能となった退避手段だ。ミメーシスの肉体は根本から人間と違う。昆虫めいた薄茶色の外骨格、薄い翅、触角、そして手足に備わった細かな爪。そうしたものが人間では不可能な動きを可能としている。
 ホワイトクロコダイルがもごもごと抗議した。
「急に飛びつくんじゃない……! それより、俺のワニたちは!?」
「無理。私だけでは。助けられない」
 首を横に振ってから、ミメーシスはビーズめいた黒い目で追手を見下ろす。
 ナムサン。それは濃緑色の粘液物体。方々に見える白いものは下水道に生息していたアルビノワニたちだ。彼らは不幸にも巻き込まれた。
 そして、その粘液物体の中心部には……おお……人間の上半身が突き出している。ミメーシスはこの者の名を知っている。アイサツしたからだ。アディーシブ。恐るべきニンジャである。

【ソウカイヤ秘密金庫】(19/3/30)

 サレニスが現場に到着したときには、ことはすでに終わっていた。ソウカイヤ・ホットラインからのアラート。多少肝を冷やしたとはいえ、連絡者は彼。おおよそ予想範囲内。
 ヤクザマネーを集積する金庫に続く扉の前にはブラッドバスが広がり、スラッシャーのものと思しき腕や脚の破片が散らばっていた。そして扉の前に立ち尽くす……ニンジャ。
「ドーモ。ディスペンサー=サン。サレニスです。今日もまた……派手にやったな?」
「ドーモ」
 金庫を思わせる、のっぺりとしたフルメンポ。身体中から硝煙を漂わせた作務衣ニンジャ装束の男は、言葉少なにアイサツを返す。
「片付けを頼む」
「アイ、アイ」
 サレニスは肩をすくめた。イクサに比べれば、随分とマシな作業ではある。

【ネオサイタマ郊外】(19/3/29)

 ネオサイタマでは珍しい晴れの日のこと。太陽が差し込むビル廃墟の中、三人のニンジャが一堂に会していた。
「スゥー……」
 その一人、バルルグラは二人の仲間を前にセイシンテキを高める。そして不意に目を見開いた!
「アクマ!」
 おお、見よ! 威圧的カラテ・シャウトとともにその小柄な身体が膨張! 腕はコウモリめいた皮膜を備えた大翼へと変わり、全身に恐ろしげな獣毛が備わる。頭頂部からは三角形の耳がピンと立てられた。コワイ!
「フゥーッ……どうだ、ウルタール=サン! カーマインミスト=サン! これが我がヘンゲアクマ・ジツよ!」
「アー、うん。スゴイと思う。でもさバルルグラ=サン。太陽の光は平気?」
 胸を張るバルルグラに、ウルタールと呼ばれた少女が尋ねた。バルルグラはキョトンとする。彼女はたしかに太陽光を浴びる位置に立っていた。
 やがて異形のニンジャは笑みを浮かべた。
「平気、だ! だいたいだなウルタール=サン。アクマやニンジャが光に弱いというのは、その……フィクションの中だけだぞ。ニンジャになった今ならわかる!」
「アー、そうかもね」
 生返事とともに、ウルタールは隣に立つカーマインミストを見やる。男装ヴァンプゴスの彼女は、たしかに日の届かぬ位置を保っていた。
 ウルタールはごく小さな声で囁きかける。
(あのさ、カーマイン。バルルグラってアクマ・ニンジャクランじゃないんじゃ……)
(ウルタール=サン。それ絶対に本人に言うなよ)

【ヒタイ・スクエア、バー『羽に噛む』】(19/3/29)

 『羽に噛む』はヒタイ・スクエアには珍しく地区外でも有名なバーだ。昼間はカフェとして解放されており、女性客を中心に賑わいを見せる。
「ここは食事も美味しいらしいです。私はスシしか食べられないですけど」
「ほう。そういうものか」
 コネコとともに二人席へ案内されたセクメト・ニンジャは、好奇心に目を輝かせメニューを見やる。寝て起きる前では見たこともないような気取った料理名が並ぶ。
「……ム」
 不意に彼女は顔を上げる。視線を感じたからだ。
 視線の主はすぐに見つかった。カウンター席の隅に座る物憂げな女。口元はマフラーに覆われ伺えない。
 だが、わかる。ニンジャである。
「あの人は大丈夫です。ディスコテーク=サンの知り合いなので」
「ほう。なんという名だ?」
「タカネノハナ=サン。お強いらしいですよ。カラテが」
「ほう!」
 セクメト・ニンジャの瞳が輝いた。

【ネオサイタマ、ウシゴーム】(19/3/28)

 ハンチング帽とトレンチコートで変装したディスコテークは、スシ・パックを片手に無人となったはずのアパートを訪れていた。それとなく周囲の気配を探りつつ、無人となったはずの一室の戸を二度叩く。
「タマ・リバー」
「ラッコ」
 中から返ってきたのは簡単な合言葉。念のためのプロトコル。ギィ、と軋んだ音を立てて扉が開く。中から覗いたのは少女だ。その顔には無数の縫合跡。繋ぎ合わせたようにその肌の色もバラバラだ。
「ドーモ。ディスコテーク=サン。もしかして今日も……」
「ドーモ。パッチワーク=サン。ええ、食料を」
 ぱっと少女の顔が明るくなる。扉を押し開き、現れたのは……ナムサン。異形だ。身体中から余剰な腕や脚がぶらさがる。そして肩の上には、首が二つ。目をつむっていたもう一つの顔が、眠たげにディスコテークを見た。
「アリガト! この姿で出歩くと怖がられちゃうから。困ってたんだ」
「……まあ、そうでしょうね」
 ディスコテークはこっそりとため息をついた。

【ソウク警備、応接室】(19/3/27)

「エー、ディスコテーク=サンから推薦状いただいておりますのでね。リラックスなさってください」
 ブレイジングアイは落ち着かない様子で、机を挟んで対面に座るスーツ姿のニンジャを見やる。相手……ペイルコンドルは対照的に、事務的にこちらを見据えた。
「率直にお聞きしますが、イクサはお好きですか。ニンジャとの、という意味ですが」
「いえ、その。あまり進んでそういうことをしようとは……」
「成る程、成る程」
 ペイルコンドルが書類になんらかの特記事項を書き連ねていく。ブレイジングアイは額の汗を拭った。ニンジャにもなって、このような面接を受けることになるとは!

【ネオサイタマ市内】(19/3/26)

 空には今日も重い雲がかかっている。しかし雨は降っていない。ウルタールにとってはそれだけでも僥倖だ。彼女は大きく伸びをする。
「ンー……」
「最近疲れ気味かい? 珍しいね」
 隣を歩くカーマインミストが小首を傾げた。男装ヴァンプゴスという目立つ風態でも、道行く市民は歯牙にもかけない。ネオサイタマではこの程度は異装にならない。
「最近、ディスコテーク=サンのところに新しい居候が増えたって聞いたわ。そいつのせいなの?」
 カーマインミストの押す車椅子にのったサイバーゴス少女、リグリングがウルタールをふり仰ぎ、尋ねる。左右で赤と青に綺麗に色分けされたLANケーブルヘアが揺れた。
「アー……まあ、そうと言えなくもないけど。あいつの話はいいよ。ようやっと離れられたんだから」
 ウルタールはウンザリと話を打ち切る。何の気兼ねなく友人と話せる日々がこんなに素晴らしいと思える日が来るとは、想像もしていなかった。

【ヒタイ・スクエア、ネコノテ・ドージョー】(19/3/25)

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 ドージョーの一階にて、自我を持つオイランドロイド、コネコはカラテ演舞に励んでいた。日課である。彼女は蹴りを放ったポーズで静止し、側で観察していた赤褐色肌の少女へ問いかけた。
「ご一緒にどうですか? カラテ・トレーニング」
「うん? ああ、妾は見ておるだけでよい。加減がわからんでな」
 セクメト・ニンジャがパタパタと手を振って見せると、コネコは不思議そうに首を傾げてからカラテ演舞を再開した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?