ニンジャスレイヤー二次創作:【アクロス・ジ・オーシャン、アゲンスト・ジ・エイジ】(4)

はじめに:本テキストはツイッター連載小説「ニンジャスレイヤー(@nislyr)の二次創作であり、本編と関わりがありません。□おうちのかたが きをつけてね□


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 コツン……コツン……コツン。無人のオヒナサマ美術館に硬い足音が響く。ディスコテークはゆっくりとした足取りで館内を進んでいた。静かで、清潔だ。周囲に見える展示物が荒らされた様子はなく、床にブラッドバスが広がっているようなこともない。フレアダートらは一直線に石棺を目指したと見える……

「随分とお行儀のいいスラッシャーよね、まったく」

 傍らのワイルドローズがつまらなさそうに呟く。彼女はどうやらそのような惨状を楽しみにしていたらしい。相変わらずどうしようもないやつだ。ディスコテークは無言で奥へと進む。今までの情報から彼らの居場所を割り出すことは難しくない。すなわち、石棺の展示室……

「ああ、ところでディスコ。天井からアンブッシュが来るわ。背後から」

 ワイルドローズの気怠げな警告とディスコテークのカラテ迎撃、果たしてどちらが速かったか。ディスコテークは振り向きざまに裏拳を叩き込んだ。BOOOM! 衝撃波が迸る!

「何ッ!? イヤーッ!」

 アンブッシュ飛び蹴りを仕掛けてきていたニンジャは咄嗟に衝撃波を回し蹴り迎撃。弾かれ、タタミ五枚分離れた場所に着地した襲撃ニンジャへ、ディスコテークはオジギを繰り出した。

「ドーモ。ディスコテークです」
「……ドーモ。サンドクロコダイルです。俺のアンブッシュに気づくとはなかなかやる」
「アタシのおかげよね? ウフフ……」

 悪戯っぽく笑うワイルドローズに顔をしかめつつ、ディスコテークはカラテを構えた。サンドクロコダイルは咄嗟のカラテ衝撃波になんなく対処した。油断ならぬ相手である。

 一方のサンドクロコダイルもカラテを構える。拳を握らず、両手を前方に突き出す独特の構え。ワニめいて突き出た鋼鉄メンポには、なんらかの機構が組み込まれていることが見て取れた。

「俺は貴様のことは知らぬ。そして恨みもない。このまま引き下がればそれでテウチにしてやるが」
「ありがたい配慮ですね。お断りします」

 ディスコテークはウルタールを思う。くだらないことではあるが……石棺になにかあったとき、彼女がなにか面倒なことをしでかすかもしれないと考えたからだ。普段見せぬあの執着は、なにかただならないものがあった。

 サンドクロコダイルがそれ以上言葉をつなぐことはなかった。その目が残忍に細められる。彼は一歩踏み出す。ディスコテークは間合いを保つ。体格は向こうが勝る。すでにこちらの手の内は見せている……ソニック・カラテ。相手がどこまで詳しいか。

「イヤーッ!」

 先手を打ったのはサンドクロコダイル! 一気に距離を詰め、ディスコテークへ掴みかかる!

「イヤーッ!」

 ディスコテークはこれを前後開脚回避! そのまま相手の腹へカラテパンチを叩き込む! サンドクロコダイルはアイソメトリック力を込めこれを防御。ほぼ無傷!

「イヤーッ!」
「イヤーッ!」

カラテチョップをワーム・ムーブメントで回避したディスコテークは、回転しながらソニックカラテ・パンチを連打! もうもうと立ち込める砂煙を衝撃波が吹き散らす!

「当たってないわ。わかってるかもしれないけど」

 ワイルドローズが楽しげに言った。彼女は展示ガラスケースに腰掛け、体制復帰したディスコテークの背中を眺めている。然り、サンドクロコダイルはもはやそこにいない。砂煙が晴れたあとに残るのは床に穿たれた穴のみ!

「イヤーッ!」

 CRAAAASH! ワイルドローズの腰掛けていた展示ガラスケースが下からの衝撃で破壊! 破片を撒き散らし飛び出したのは無論サンドクロコダイルだ。なんたる硬いコンクリート床をも気にせず地下移動を可能とする強力なドトン・ジツか!

「「イヤーッ!」」

 サンドクロコダイルのグラップリングをディスコテークはいなす。そのまま至近距離でのカラテラリーが始まった!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 ゴジュッポ・ヒャッポ! 互いのカラテが衝突し、その余波が他の展示ガラスケースに罅を入れた。

 ディスコテークは敵のカラテをいなしつつ、分析する。敵のカラテは掌打とグラップリングが重点。おそらくはニンジャ握力に自信を持つ類か。掴まれたが最後、その部位はネギトロめいて握り潰されるだろう。

 故にディスコテークは防戦に回ってしまっている。彼は重サイバネニンジャであり、腕の一つと引き換えに敵を仕留める選択肢もあるだろう。しかしそれは上手くない。敵はまだ残っているのだ……!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
「ふうん。なかなかやるのね? そいつ」

 横合いから甘い声。ワイルドローズが傍にいる。彼女は瞳に隠しきれぬ興奮の色を称え、ディスコテークを覗き込む。ディスコテークは舌打ちした。

「アッハ! いいわね、滾ってきちゃった……ねえ、ディスコ。変わってよ。だいぶゴブサタだったじゃない?」
(黙って! いろ!)
「イヤーッ!」

 ディスコテークはサンドクロコダイルの掌打に拳で迎撃。二人のカラテが衝突した、そのとき! BOOOM!

「「グワーッ!?」」

 カラテ衝突点から生じた衝撃波が、分け隔てなく二人のニンジャを打ち据え、吹き飛ばした。ディスコテークのソニック・カラテ。痛み分けを承知で暴発させたのだ!

 ディスコテークは三点着地し、衰えぬ敵意を向けてくるサンドクロコダイルを見据えた。背後にはワイルドローズ。わかる。

(やかましいやつめ。わかった、交代だ)
「アラ本当?」
(……正直な話、時間をかけていられる状況ではない)
「まあ、そうね」

 ディスコテークは感じている。ここより奥、なにか尋常でないアトモスフィアが脈打ち始めたのを。サンドクロコダイルもそれは同じか、ぶるりと身を震わせカラテを構え直した。

「じゃ、さっさと片付けましょう。おやすみ、ディスコ」

 ばちり、と額で雷が弾ける。それを最後にディスコテークの意識は暗転した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「イヤーッ!」
「グワーッ!?」

 オヒナサマ美術館対面の路地裏。イクサは終焉を迎えつつあった。カラテスカラベの一撃にサレニスは吹き飛ばされ、倒れこむ。重いカラテ・ストレート。それに加え、身にまとったニンジャアーマーによりこちらのカラテやクナイ・ダガーはほとんど弾かれる。不利なイクサだった。

「ヌゥーッ……! ここまで手こずらされるとは」

 無論のこと、サレニスは負けるつもりでイクサを挑んだわけではない。見よ。カラテスカラベの鎧関節部に突き刺さるクナイ・ダガーを。キネシス・ジツを利用した急所への攻撃。サレニスの得意技だった。しかし、それはカラテスカラベを屠るには一歩足りぬ。

 カラテスカラベが無慈悲に接近する。その足取りは覚束なく、体の各所から垂れた血液が地面に沁みを作っている。カラテボールを生成させられなくなるまで消耗させた。それでもなお、奴は生きている。なんたるニンジャ耐久力か!

 サレニスは大きく息を吐き、目を瞑った。ニンジャとなったときのことを思い出す。キネシス・ジツは呆れるほどに便利で……呆れるほどにニューロンを酷使した。ディスコテークとの出会いは天啓とも取れた。カラテはシンプルで、心地よい。キネシス頼りだったころに比べて随分と楽になった。

 それでもこのようなイクサは面倒でならない……重々しい足音が近づく……ソウカイヤクザになったのも、もともとはヤクザ連中との面倒ごとを避けるためだったか……カラテスカラベが頭の傍らに立つ……それでもイクサを避けることはできなかったわけだが……カイシャクのため、足が振り上げられる。

 まったくもって面倒極まりない。ようやっと勝機が見えた。

「イヤーッ!」

 サレニスが目を見開く! その懐から銀閃が迸った。ロング・ドスダガー。彼のキネシスで操作できるギリギリの大きさの代物。それはひとりでに鞘走り、イアイめいて煌めき、カラテスカラベの首元半ばまで斬り込んだ。キネシスを最大出力で発動させることで成る、無手のイアイ。

「ア……バッ?」

 カラテスカラベが不思議そうに己の首を見下ろした。ニンジャの死因はタイミングの読み違い。彼のような強力なカラテ戦士であっても、それは変わらぬ。サレニスの額に青筋が浮かぶ。無理矢理に体を動かす!

「イヤアアアーッ!」
「アバーッ!?」

 サレニスは回転しながら起き上がり、蹴りを叩き込む。食い込んだロング・ドスダガーの刃へ! ゴウランガ! 押し込まれた刃はようやっとカラテスカラベの首を切断! 首は舞い上がり、遺された胴体は力なく膝をつく。

「なんたる……アッパレな……サヨナラ!」

 カラテスカラベは爆発四散! ザンシンしたサレニスはよろめき、そのまま地面に腰を下ろした。目元をほぐす。最低限のメンツは守られた。残った敵は、あと四人。うち二人はこのカラテスカラベと同等のカラテ強者と見たほうがよいだろう……

「ハァーッ……! まったく……もって……面倒くせェー」

 ソウカイヤから支給された緊急医療キットからタマゴ・スシを取りだし、咀嚼する。サレニスは思案した。いくらディスコテークの協力を取り付けているとはいえ、この件は自分の手に余るかもしれぬ。今からでも増援を要請するか?

 そのときだ。美術館の方角から不穏な風が流れてきた。いや、錯覚だ。実際には風ひとつ吹いてはいない。しかし反射的にサレニスは立ち上がっている。彼は冷や汗がにじむのを感じた。なにか、よくないものが身じろぎした。あの美術館の中で。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 サンドクロコダイルは石棺へ続く道を見やる。この感覚。最悪の事態が訪れてしまったというのか。本来はエジプトの地で目覚めるべきだったかの者が目を覚ましたか。

 もともと彼らがエジプトを発ち、ネオサイタマへ訪れることとなったのもこの事態を避けるためであった。ブレイジングアイ。なぜあのような愚行を犯したのだろう。あれを管理する立場にあって発狂したか、それとも。

 いや、考えるまい。サンドクロコダイルは一瞬の動揺をニンジャアドレナリンの働きで押し流し、眼前の敵を見た。重サイバネティクスの女ニンジャ。ディスコテーク。見た目に似合わぬカラテ強者。ソニック・カラテは厄介だが、懐に潜り込みさえすれば問題はない。彼のアギト・カラテは凶悪だ。

 だがしかし、彼は眼前の相手に警戒心を拭えない。カラテ応酬の際に見せた、不可解な視線移動。距離を取られたあとに一瞬だけ晒した無防備な姿。なにかがある。そう直感していた。

 対するディスコテークは冷たくこちらを見やっている。斜にかけられた全方位サイバーグラスには心電図めいた折れ線が流れ、晒された右のサイバネアイは静かにこちらを捕捉している。そのアトモスフィアは……

「イヤーッ!」

 サンドクロコダイルは決断的にチョップを繰り出す! 狙いは床! 盛大に砂煙と石片を散らした後へ身を躍らせた。そのまま地面の中を水中の殺人マグロめいて高速移動! ドトン・ジツ!

 敵にいかなる切り札があろうと、それを披露する前に殺す。そしてASAPでレッドコブラと合流し……かの者が目覚めているようであれば……雇ったサンシタの血を使い、かの者を鎮めねばならぬだろう。

「イヤーッ!」

 ここだ。サンドクロコダイルは土をかき分け、コンクリート床を砕き……ディスコテークの両足を掴まんとする! 移動手段さえ封じれば、ちょこまかと動き回られることも……

「イヤーッ!」
「ヌゥッ!?」

 だが、その両手は空を切った。なぜか? ディスコテークが床が砕ける直前に跳躍していたからだ。サンドクロコダイルは舌打ちし、両手を顔の前で交差させ防御を固める。彼奴のソニック・カラテは決して防げぬ威力ではない!

 ……しかし、ディスコテークは彼の予想を裏切った。彼女は回転し、回転し、回転し……竜巻めいた速度に達しながら落下してきた。そして!

「イヤーッ!」
「グワーッ!?」

 次の瞬間、自分の身に起きた事態を理解するのにサンドクロコダイルはコンマ数秒の時間を要した。己の左手が断ち切られた。誰に? ディスコテークによって。どうやって? その肘から生えたサイバネ・カタナによって。バチリ、と刃から雷光が迸った。

「お……おのれーッ! イヤーッ!」

 サンドクロコダイルは決死の覚悟で右腕を突き出し、ディスコテークの左肩を掴んだ。瞬間的に力を込める。このまま肩を握りつぶし、勢いを失ったところで開閉メンポ機構を用いて嚙み殺す……!

「…………グワッ?」

 しかし、そのようにはならなかった。サンドクロコダイルは己の右腕を見た。半ばで断ち切られている。ディスコテークの背から、隠されていた第三のサイバネ腕が生えており、そこから展開されたサイバネ爪が電光を伴って切断したのだ。

「イヤーッ!」
「グワーッ!?」

 そして、第四のサイバネ腕による爪斬撃がサンドクロコダイルの首を刎ねる。ナムアミダブツ。彼が最後に見たのは、まるで別人のように笑みを浮かべるディスコテークの姿。……否!

「き、貴様……貴様ッ! 何者だ!?」
「ああ、気づいたんだ? ドーモ。はじめまして。ワイルドローズです……残念ね。時間があったらもっと遊んであげたかったのだけど」

 その声からはノイズが除去されていた。甘ったるい電子音声。右のサイバネ・アイが赤紫に輝く。

 ワイルドローズはスラッシャー上がりのニンジャであり、デン・ジツとイアイドーを組み合わせたタツジンであり……かつてのディスコテークの相棒だった。過去のイクサで彼女はバイオニューロチップへの記憶コピーを余儀なくされた。時代は進み、復元技術が発明されても、彼女は今の立場を望んだ。すなわち、ディスコテークとのニューロンの同居を。時折、こうして顔を出す。

「今はそれどころじゃないものね」
「お……おのれ……! セト=サン! 申し訳……!」
「イヤーッ!」
「アバーッ! サヨナラ!」

 ディスコテーク……否、ワイルドローズのサイバネ爪が無慈悲にサンドクロコダイルの頭を両断! 爆発四散! 降り立ったワイルドローズは、エキシビジョンめいて体の各所からサイバネ刃を順繰りに展開させ、格納した。実に、馴染む。

「次はもう少し長くタノシイ時間を過ごしたいものね。じゃ、ディスコ。あとはよろしく」

 サイバネ・アイの輝きが消える。次に点灯したのは青紫色の輝きだ。ディスコテークは深呼吸し、石棺のもとへと駆け出した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 なぜ、自分にこのような不幸が降りかかるのか。朦朧とする意識の中、フレアダートは考える。石棺を使って密輸されたエメツ結晶の回収……非は相手にあり、その上高いカネも手に入る……ニンジャソウルの衝動を晴らすにはもってこいの依頼。だったはずだ。

 それがこのザマだ。ブルータルブルは無残に爆発四散し、己は右腕を引きちぎられる。こんなこと聞いていない。しかし、依頼主に食ってかかる意志力もカラテももはやフレアダートにはなかった。石棺はもうすぐそこだ。早くエメツ結晶を回収し、フートンで眠りたい。

 粘りつくようなレッドコブラの視線を感じる。きっと持ち逃げを警戒しているのだろう。シツレイなやつだ。フレアダートとてフリーランスの矜持はある……エメツ回収……報酬を得たらサイバネ手術を受けよう。いや、その前にフートンか。彼は気力を振り絞り、石棺の蓋をずらして開けた。

 石棺の中には底知れぬ闇が広がっており……不意に輝いた真紅の光がフレアダートの目に飛び込む。

「……ア?」

 それが眼であると気づいたときには、既にフレアダートは心臓を貫かれていた。彼はどこか他人事のように自身の胸元を見下ろす。棺の中から突き出た細腕が、まるで自分の身体をショウジ戸めいて。血が腕を伝い、石棺の中に流れていく。命が。

「アア」

 フレアダートは真紅の眼を見下ろす。もはや彼にはそうすることしかできぬ。手術めいて鮮やかに心臓を摘出されたのを実感する。貫かれた胸から、不穏な熱が体中に拡散していく。

「アアア……」

 ようやっと彼は自分が誤った選択をしてしまったことに気づく。石棺の中に収められたのはエメツ結晶などではなく、もっと恐ろしい何かだ。エジプトから来たニンジャども。呪われよ。フレアダートの目が焼き魚めいて白濁し、過剰な熱量によってその身体が干からび始める。

 己を殺した者が何者かを知る間も無く、フレアダートは死んだ。

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 腕を引き抜かれた瞬間、フレアダートは崩れ落ちる。床と接触した瞬間、その身体は散り散りに砕けた。爆発四散すら許されぬ無慈悲な死。誰かが小さく呻きを上げた。

 次いで展示室に響いたのは濡れた咀嚼音。心臓を喰らっているのだ。石棺の中のそれが。

「……フゥーム。供物にしては味が悪い」

 不満げな声とともに、それが身をもたげる。一見すると年端もいかぬ少女のように見えた。金の装飾品で胸元と腰回りのみを隠す薄手のニンジャ装束。赤褐色の肌。ライオンの鬣を思わせる金髪。だが……室内をグルリと見渡すその真紅の瞳は、奇妙な老いを感じさせた。

 レッドコブラは低く呻き、数歩後退りした。それにより解放されたブレイジングアイも顔を上げない。ドゲザである。

 ウルタールは茫然と石棺の少女を見た。真紅の眼と視線が合う。超然としていたその眼に、わずかながら感情が浮かんだ。

「ま、よかろう。今の妾は機嫌がよい。故に許す」

 それは口角を吊り上げ、口元の血を乱暴に拭う。それを覆い隠すように黄金のメンポが生成された。獅子の牙を思わせる意匠。それは瞳に真紅の光を湛えたまま、悠然とアイサツを繰り出した。

「ドーモ。セクメト・ニンジャです」

【5へ続く】



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