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「骨太方針2022と歯科健診のこれから」月刊『アポロニア21』水谷編集長の余談ノート2022年7月

本原稿は『アポロニア21』の2022年7月号の「編集後記」を改変したものです。

 6月7日に閣議決定された「骨太の方針」に、「国民皆歯科健診の検討」が明記されました。骨太の方針への文言の明記は、しかるべき予算措置などが伴うことが一般的で、歯科医療の「市場」を拡大するものと予測されています。メーカー、ディーラーなど関連企業の期待も大きいようです。
 今回の国民皆歯科健診の特徴の一つが、主な対象疾患を歯周病としている点。いわゆる「歯科先進国」は、日本に比べて健診目的の歯科受診率が高いとされていますが、主としてう蝕が中心のため、日本の取り組みが世界的なフロンティアになる可能性もあります。
 一般的な歯周病検査と同様にプロービングをするとなると時間も手間もかかるため、集団健診にはやや向かない面があります。そこで、企業健診のタイミングで唾液採取して口腔内菌叢からリスク判定しようというアイデアも検討されており、痛くない・手間もかからない方法として注目されます。
 う蝕をターゲットとする小児歯科健診も、集団健診で行う意義は薄れつつあり、暗い場所での見落としリスク、受診勧奨の効果の低さなどが指摘されてきました。コロナ禍をきっかけに密を避ける風潮から、今後は健診の在り方も見直されるかもしれません。
 背景に「歯科健診の推進が医療費全体の削減につながる」との歯科からの働きかけがあったとされます。しかし、健診などへの投資が医療費全体を低減させるかどうか各国で論議された結果、「医療費削減の効果は限定的」という意見が大勢になりつつあるのも気になります(JAMA、32316、2020など)。
 2021年の「骨太の方針」で、それまで数年にわたり示されてきた「予防・健康づくり」が削除されたのも、そうした流れに沿ったものと見られています。その中で、「歯科健診が医療費全体の削減に」とのエビデンスはいささか弱く、「また歯医者さんの政治力?」と揶揄される懸念もありますが、今後に期待しています。


この記事を書いた人
水谷惟紗久(みずたに いさく)
歯科医院経営総合情報誌『アポロニア21』編集長。
1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒、慶応義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。
社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て現職。国内外1000カ所以上の歯科医療現場を取材。勤務の傍ら、「医療経済」について研究するため、早大大学院社会科学研究科修士課程修了。
 主な著書に『18世紀イギリスのデンティスト』(日本歯科新聞社、2010年)、『歯科医療のシステムと経済』(日本歯科新聞社、2020年)など。10以上にわたり、『医療経営白書』(日本医療企画)の歯科編を担当。大阪歯科大学客員教授(2017年~)。
 趣味は、古いフィルムカメラでの写真撮影。好きな食べ物は納豆。2018年に下咽頭がんの手術により声を失うも、電気喉頭(EL)で取材、講義を今まで通りこなしている。

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